第1話
「…………うん?………………えっと………………………………ここ、どこ?」
全く思考が追いついていかない。
とりあえずの疑問を放った、が答えてくれる人がいない。そもそも人がいないのだから。
なぜここにいるのだろうか。
そもそも俺は学校の放課後に家へ帰る途中だったはずだ。 いつものように鼻歌交じりに歩いていた。家で面倒だが勉強しなければならないなとか今日の夕飯は何だろうなとか考えてた普通の日常だったはずなのに。
……気がつくと全く知らない森の中のようだった。
「…………なんでこんなところに?」
ひとまずこの場に至るまでの記憶を辿ってみる。
が、何故そこにいるかは説明がつかない。
連れ去られた?
いや、そんなわけはない。もし攫われるなら誰かが気絶させたりするだろう。
だが他人と接触した覚えは全くもって、ない。
それなら残る可能性は…………
「…………異世界召喚、とか?」
半分冗談に言ってみるがそれに対する言葉が帰ってくるはずもなく(森の中ので人がいないのだから)感覚があまりにもリアル過ぎるため夢という考えまで何処かへといってしまった。
ふと自分の持ち物を確認する。学校の鞄が無い。あたりを見回してもそれは見つからず、着の身着のまま(?)でここにいるらしい。
「うーん、まぁ、必要最低限なものはあるからいい………のか?」
学校の帰り道だった今黒い制服を着ている。全国的に共通であろうそれに付いている胸ポケットには手帳にシャーペン、制服のズボンにはハンカチとティッシュがしっかりと入っている。
今まで住んでいた家の近くに森のような存在はあったが、ここまで人の手が加えられた形跡がないのには驚きだった。故郷にそんな場所などあったのだろうか。地域を探索するなど最近はすることもなく、ここが日本で有るかどうかすら裏付ける証拠はない。
「…………あっ!」
何か視線の奥に動くものを見つける。明らかにそれは生物の形をしていた。それを目指し走り出す。人だろうか。こんなに独り言をしているのだから気付いてもおかしくないだろうに。
「はぁっ、はぁっ、……俺のこと気付いてくれてたら助けてくれればいいんだけどなぁ………」
軽く息を切らしながらその動くものへと駆け寄ろうとする。こんなにこれで一人でいるよりはどんな奴であろうと複数でいたいと思うのは当然だろう。
……と、人だと認識していたその生物を肉眼で確認した瞬間、
俺は近くにある樹へと身を隠した。
「………あー……… 、やっぱ異世界なのか…………」
目の前にいたのはいわゆる オーク だった。何故オークだと言い切れるのか。
それは当然俺が異世界物やファンタジー物(そういう系)が大好物だからだ。生まれたときからRPGなどで育ってきた身だ。それくらいはわかる。
森に住む種類なのだろうか。その身長は175cmほどの俺に近く、知っている情報(ゲームや本の知識)よりはいささか低いような気がする。両手には槍の様なものを手にしていて、何かを探しているようにも見える。幸い 向こうは気付いていないらしく、向こう側をうろついている。
「はぁ…………ここで俺も殺されたりするのかな……………」
もうあんなものを見てしまった以上、夢か異世界のどちらかしかないだろう。
だが、いくら頬をつねっても目は覚めるはずもない。ここは現実だ。それを受け止めなければならないことに、少なからず衝撃を受ける。
「…………ん、てかここが異世界なら魔法とか使えたりするのか?」
不意に浮かんだ疑問にすかさず自分の手のひらを凝視し、力を込めてみる。掌から魔法を使うのは彼にとって常識だ。
中二病だと言われてしまいそうだが、力を込めた先からは、なにかいままでは知らない何かが感じられる。
「なんだこれは…………?なにかが身体中を通ってるような…………これが魔力、なのか?」
もとの世界では感じられなかった感覚がある。それは右の手だけでなく、身体全体にあるみたいだ。いつからそんなものがあったのだろうか。普段通り生活をしていれば気付きはしなかったであろう。人は自分の体に流れる血液の脈動を何時でも感じることができるわけではない。それを意識して初めて認識することができる。例えば、手首の血管に指を乗せるなど、だ。
現在、魔力を意識したことで、俺は知らなかった何かにたどり着く。その感覚を見つけ、操ろうとする。集中………
……魔力が掌から発せられる。
無色透明、無味無臭。
そこに在るのかさえ疑問を持ってしまいそうだが、気配は感じられる。
そもそも俺自ら発した物だ。想像する通りに魔力は動く。
右に、左に。ちょっと形を変えて、腕みたいに。
いつしか細い紐のようだったソレは俺と同じ位の右腕まで形を変化していた。
そこで気付く。その魔力が掌だけでなく、脚、頭、意識してしまえば全身のどの場所からも放出出来ることに。
確かに何かいつもと違うモノが体の中で駆け巡っていることに。
「うん、やっぱ魔力っぽいな。地面とかから土を持ってきたり出来るのか?」
そういいながら魔力の腕を地面へと伸ばそうとする。操作は簡単だ。脳内でコントローラーを使っているようだ。魔力の腕はいとも簡単に伸びていき、地面へと触れた先から物質化していく。
「うおっ!?」
魔力だったソレは土へと変化していく。地面に近いところから順に変化され、そして空気中に出していた腕全てが土となり、重力に逆らえず落ちていく。
「なるほど、触れたものになるのか…………じゃあ、こうすれば…………」
もともと俺は引きこもり気質で家で異世界系の本を読みあさっていたのだ。
既に自分が帰れるのかどうかすら忘れて、魔法を試そうと試行錯誤を繰り返していた。
…………その間、当のオークは既に俺に気付き、しかし俺には感づかれないよう、刺激しないように近くで俺が気付くまでその場で俺のことを観察していたという。その時間、実に30分を過ぎていたらしい…………………