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二年目

練習試合 VS 関西国際女子③

　四回表、関西国際女子の攻撃は六番から始まる。

　下位打線につながるところを真由には三人で抑えて欲しかったがピリッとしない。

　先頭の六番にシングルヒットを打たれ、次打者をレフトフライに打ちとったものの八番にフォアボールを与え一死一・二塁としてしまう。

　そこからはなんとか踏ん張って三振とショートゴロに打ちとってピンチを脱したものの、ヒヤヒヤさせる内容でだった。

　四回裏のこちらの攻撃は七番の広橋さんから始まる。

　一対二の一点ビハインドの展開、できるだけ早く追いつきたい。

　先頭の広橋さんが直球を叩いていい当たりを飛ばす。

　横を抜けようかというライナーをショートの歌帆さんが横っ飛びでグラブに収めた。

　完全なヒット性の当たりを、またもや守備に阻まれる。

　こうなってくるとセンターラインの守備の重要性を嫌でも再確認させられる。

　二遊間を守る柏葉姉妹のプレーでここまで何点損しただろうか。

　そんなことを考えている間に八番の小賀坂さんはライトフライに、九番の初瀬さんはピッチャーゴロに倒れて三者凡退で攻撃を終えた。

　この回初めてランナーを出すことが出来なかった、ここから伊良波さんのペースになってしまうのだろうか。

　五回表の先頭打者は二番セカンドの柏葉詩帆さん、真由はここまで完璧にやられている。

　そしてこの打席も先ほどの打席と同じ展開となってしまう。

　ワンボールツーストライクと追い込みながら止めを刺せずファールで逃げられる。

　そしてフルカウントとなり、ストライクを欲しがった球を狙われた。

　センター前ヒット、詩帆さんにはここまでの三打席全てで出塁を許している。

　そしてその内容からは残酷なまでに現時点での実力差が滲み出ていた。

　再び柏葉姉妹と日下部さんが打席に立つこの回が恐らく山場になることは予想していた。

　だから詩織には肩を作ってもらっている、問題はいつリリーフを出すかだった。

　三番の柏葉歌帆さんが右打席に入る、ここまでの対決は二打数一安打。

　初球はストレートが高めに外れてボール球となる。

　二球目、愛里は外にスライダーを要求した。

　プルヒッターの歌帆さんに対してはとにかく外が基本、間違った配球ではない。

　だがそれに真由が応えられなかった、そのスライダーがインコース寄りから真ん中に入る。

　快音が響く、打球はレフトポール際に飛ぶ。

　切れろ！ そう願ったが無情にも打球はポールの内側に落ちた。

　ツーランホームラン、これで一対四と点差は三点に広がった。

　呆然と打球の行方を見つめる真由を視界に収めながら、俺は詩織をマウンドに送り出した。

　今思えばスパっと回の頭から詩織を使うべきだったのかもしれない。

　いや、そこまでの決断は出来なくとも詩帆さんを塁に出した時点でリリーフすべきだった。

　真由は限界だと薄々気づいていたのに、それでも抑えてくれるのではないかという淡い希望が頭の何処かにあった。

　ここでこの高い壁を乗り越えれば、真由にとって大きな成果になると考えてしまった。

　その俺の甘い判断が余計な失点を招いたのは明白だった。

「……ごめんな、真由」

　戻ってきた真由にただ謝罪することしか出来ない、その言葉に真由は首を振った。

「……私の力不足だよ、愛里ちゃんのリード通り投げられてすらいないんだから」

　そうだ、今の真由では関西国際女子の主軸は抑えられない。

　その力不足を本当の意味で理解出来てなかったのは俺だ。

「もっと早く継投すべきだった、俺の判断ミスだ」

「……私は大事な試合でもう一度主軸と対戦するチャンスを与えてもらって感謝してる、あんな内容でも続投させてくれて嬉しかった」

　その声は震えている、真由が下を向いた。

「だからこそ、なんとかしてその期待に応えたかった……でも、ダメだったね……」

　雫が地面を黒く濡らす、ハンカチを取り出してそれを拭ってやる。

「これは練習試合だ、まだ大会までは時間がある……それまで俺が側にいるから」

　その言葉を聞き真由がこちらを見上げる、視線がぶつかり合った。

「悔しい……打たれたのが本当に悔しいよ修平……でもこれを糧にして、もっといい投手になってみせるから……」

「ああ、その意気だ」

　四回を投げて四失点という内容は決していいものではない。

　それでも、これを生かして成長出来るのであればこの結果も無駄ではないはずだ。

　それを少しでも支えていきたいとそう決意を新たにした。

　リリーフした詩織は四番で右打者の日下部さんと対峙する。

　日下部さんも歌帆さんと同じくプルヒッターだ、得意コースはインコース。

　初球からそのインコースを攻めた、日下部さんが打ちに来るもファール。

　今のはボール一つ分ストライクを外れている、打ってもそうそうヒットにはならない。

　続いて外から大きくストライクゾーンに食い込むカーブでツーストライクと追い込む。

　三球目はインコースを抉るボール球のスライダーで内を意識させておく、この一球が重要な布石となる。

　そして最後はアウトローにスクリュー、バットが空を切る。

　強打者日下部さんから空振り三振を奪う順調な立ち上がり。

　続く五番の和泉さんは変化の少ない高速スクリューでサードゴロに打ち取る。

　続く六番打者も低めの変化球でセカンドゴロ、スリーアウトチェンジ。

　交代してからテンポ良く三人で攻撃を終わらせた、いい内容だ。

　そして五回裏、一番打者の星原さんが左打席に入る。

　初球がボールとなっての二球目のストレートにバットが当たった。

　振り遅れの緩いサードゴロ、三塁手が前進して捕って一塁へ。

　通常の打球処理だ、そして守備位置も定位置であり問題のない平均的な守備。

　だが、それでは星原さんの足を封じることは出来ない。

　一塁間に合わず内野安打、まだ余裕さえありそうなタイミングだった。

　そのスピードに動揺したか、関西国際女子ベンチからどよめきが起こる。

　その俊足が一塁上、嫌でも意識せざるを得ない。

　伊良波さんが牽制を入れてから初球を投じる、それと同時に星原さんはスタートを切った。

　盗塁警戒のウエスト、完全に盗塁を読まれていた。

　万事休す、そういう状況でもおかしくない。

　しかしそれはランナーが並の俊足であればの話だった。

　ウエストされ、そこからの送球も逸れなかったにも関わらず二塁は間に合わない。

　伊良波さんのクイックの下手さも相まってセーフとなる、ヘッドスライディングで滑り込んで盗塁成功。

　バッテリーの意識は完全に伊良波さんへと傾いていた。

　打席に立つ愛里への注意が散漫となる。

　三盗を警戒して再び外す、ツーボールノーストライクとなり、カウントを取りに来たストレートを愛里が痛打した。

　ライト線を転がる長打コース、二塁ランナーの星原さんは悠々ホームイン。

　愛里も二塁に到達する、タイムリーツーベースヒット。

　これで二対四と二点差まで追い上げた。

「星原さん、いい盗塁だったよ」

「はい！ ウエストされたときはちょっと焦っちゃいましたけど」

「あのバッテリーの感じでは星原さんはウエストしても刺せないよ」

　それが分かっているからこそ、強気に盗塁のサインを出すことが出来たのだ。

「そうですね……私って結構行けるのかも？ なーんて思っちゃいました」

　そう言って舌を出す星原さん、その余裕を頼もしく思う。

「ああ、星原さんの足はすごいんだから自信を持っていい」

　実戦で初めて試みた盗塁を成功させた、しかも相手がウエストしたにも関わらずだ。

　これは本人にとって大きな自信になるだろう、喜ばしいことだ。

　一点を追い上げた上でなおも無死二塁、そして打者は最高の巧打者である三番彩音。

　流れが少しずつ俺たちに傾きつつあった。