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練習試合 VS 関西国際女子①

 昼に一度休みを入れて、午後から練習試合となる。

 先攻は関西国際女子、桜京のスターティングメンバーは以下の通りとした。

 

 一番 レフト 星原

 二番 キャッチャー 安島愛里

 三番 センター 天城

 四番 サード 樋浦

 五番 ピッチャー 氷室

 六番 ショート 羽倉

 七番 ライト 広橋

 八番 ファースト 小賀坂

 九番 セカンド 初瀬


 スターティングメンバーからは詩織を外すことにした。

 練習試合であることから真由と詩織を両方登板させることは決めていた。

 そしてどちらを最初に外すかと考えた時、チーム全体の総合的な打撃力を考えれば詩織をベンチに置くのが最善だと思えたからだ。

 それにショートにコンバートした羽倉さんの動きも早めにチェックしたかった。

 樋浦さんの打順に関しては四番から動かさなかった。

 以前に樋浦さんから四番を外すように申し出を受けたことは意識している。

 だが、それでも樋浦さん以外に四番を任せられる打者はいないというのが結論だった。

 この実戦でなんとか復調のキッカケを掴んでほしいとそう願う。

 そして期待の新入生星原さんはいきなり一番で起用する。

 将来的に不動の一番打者を目指す以上、彼女の居場所はそこにしか無い。

 上手く行かないことも多いだろうが、使って育てるという考え方も必要であろう。


 一回表、関西国際女子の攻撃が始まる。

 真由は先頭バッターをスライダーでまず三振に切って取った。

 先頭を抑えたのは大きいが本当に大変なのはここからだ。

 二番三番に並ぶ柏葉姉妹、そして四番の日下部さんと強打者が続く。

 そして愛里の親友であるキャッチャーの和泉さんが五番に入っていた。

 彼女は三番を打っていた愛里に続く四番打者だった、その打力は警戒に値するはずだ。

 杉坂女子の試合では三番四番の二人ぐらいしか強打者と呼べる相手はいなかった。

 あの試合では守備の乱れ以外で失点を許さなかった真由だが、投手としての真の能力が試されるのはこの試合になるだろう。


 まず二番セカンドで姉妹の妹さんである柏葉詩帆さんが左打席に向かう。

 彼女が出塁して後続につなぐというのが関西国際女子の攻撃パターンである。

 まずその芽を摘み取る必要がある。

 初球はストライク、そこからボール球が一つとファールが一つ。

 ワンボールツーストライクと追い込んだ、ここからが勝負球だ。

 愛里は決め球としてスライダーを選択した、真由が膝下目掛けてボールを投じる。

 詩帆さんはストレートを待っていたようでタイミングを外した。

 しかしそこからしっかりタメを作り、ボールを呼び込んでから軽く掬い上げる。

 打球は力なくライト前にポトリと落ちた、技ありのヒットといったところか。

 一死一塁、出していけないランナーを出してしまう。


 そして三番の柏葉歌帆さん、以前見た時はレフト方向への引っ張り傾向が強い打者だった。

 そのデータは愛里にも伝えてある、外中心の配球を取ることになるだろう。

 それと同時にランナーに対しても無警戒ではいられない。

 詩帆さんは足が早く盗塁も上手い、前にみた試合でも盗塁を決めている。

 一度牽制してから高めに外したストレートで盗塁を警戒する。

 そのボールを狙い打たれた、強引に叩いた打球は快音を残してサードの頭上へ飛んだ。


 樋浦さんがジャンプで飛びつきグラブの先に打球が引っかかる。

 だが、打球の勢いが強すぎた。

 捕球には至らずボールがグラブから零れ落ち、レフト前を転々とする。

 大飛球に対する警戒で深めに守っていたレフトの星原さんが慌ててそれを拾いに行く。

 その動きを一塁ランナーの詩帆さんは見逃さない。

 ライナー性の打球だったためスタートは大幅に遅れていたが二塁を蹴る。

 ようやくボールを拾い上げた星原さんが三塁に送球した頃にはベースに到達していた。


 四番である右打者の日下部さんの前に一死一・三塁とランナーが溜まる。

 その初球、真ん中外よりの甘いスライダーを痛打される。

 火の出るような当たりがレフトに向かって飛ぶが、角度が低い。

 レフトの星原さんが前進しながらボールを掴む、当たりが良すぎてヒットにならない。


 捕球を確認して詩帆さんは迷わずスタートを切った、タッチアップだ。

 かなり強引な判断に見えたが、レフトの星原さんは残念ながら肩が弱い。

 中継を挟まずバックホームしたものの返球はミットに収まるまでにツーバウンド。

 一足早く詩帆さんがベースに滑りこみ生還、関西国際女子が一点を先制する。

 先ほどの返球で星原さんの肩の程度を見抜かれていたのだろう、積極的な好走塁だった。

 一点は失ったものの二死までこぎつけた、ランナーは一塁に残っている。

 五番の和泉さんはインコースのストレートを叩いた、強烈な当たりだが野手の正面。

 サードゴロとなり樋浦さんが一塁に送球してスリーアウトチェンジ。

 初回から失点する不安定な立ち上がりとなる。


 それでも一点で済んでよかった、そんな感想を覚えてしまう内容だった。

 詩帆さんに打たれた技ありのヒットはともかく、他は全て捉えられた鋭い当たりでもっと点を取られていてもおかしくないように感じられた。

 今日の真由は調子が悪いのか、あまりボールが走っていないように見える。

 しかし原因はそれだけではないだろう、もっと根が深い部分に問題はあるのかもしれない。

 それを認めたくない思いはあったが、現実は受け止めないといけない。

 大会の全てを詩織一人でなんとかすることは難しいだろう。

 だからこそ真由が高いレベルで通用する必要があるのだ。

 少なくともまだマウンドから下ろすわけにはいかない、なんとか耐えてくれるように願うばかりだった。


 一回裏の桜京高校の攻撃、先頭打者はこれが初打席となる一番の星原さん。

 左打席に入り、バスター打法の構えを取る。

 その星原さんに対してピッチャーの伊良波さんが投じた球は全てストレートだった。

 ツーボールツーストライクとしてからの五球目、高めの真っ直ぐにバットが空を切る。

 星原さんの初打席は空振り三振に終わった、全体的に振り遅れが目立つ結果だ。

 やはり伊良波さんのスピードには見るべきものがあると再確認させられる。


 二番打者として左打席に向かう愛里はそれにどう対応していくのか。

 この打席の愛里は慎重だった、一度もバットを振ることなくフルカウントとなる。

 そこから二球ストレートがストライクゾーンに来るも、ともにファールで逃げる。

 続くボール、伊良波さんがこの試合初めて変化球を投げた。

 ストレートと殆どスピードが変わらない高速スライダーが真ん中低めに投じられる。

 しかし愛里はそれにも対応してみせた、これで三球連続ファールとなる。

 更にもう一球ファールを重ね、最後はストレートがアウトコースに外れて四球となった。

 この打席だけで十球を投じた挙句、フォアボールでランナーを背負う。

 一死一塁となり一度プレートを外した伊良波さんは、ロージンを手にしてからそれを勢い良く投げ捨てた。

 先ほどの長期戦の末に出した四球にかなり精神的ダメージを受けているようだ。


 そして伊良波さんがセットに入ると愛里は大きくリードをとった。

 嫌でもランナーを意識せざるを得ない、そんな状況だ。

 二度牽制を入れるも、伊良波さんの牽制に速さはなく刺すには至らない。

 そしてようやく打席の彩音に初球を投じると、これが高めに大きく外れる暴投に。

 労せず愛里が二塁に到達するのを尻目に、伊良波さんが地面を蹴りつけた。

 その後も制球が定まらず結局彩音にもフォアボールを与える。


 一死一・二塁となってバッターは四番の樋浦さん。

 そしてここでもストライクが入らない、結局ストライクは一球だけでまた四球を出す。

 一死満塁、出したランナーは全て四球によるものだ。

 制球を乱しているのは誰の目にも明らかで、ここを攻めきれるかが大きなターニングポイントとなるだろう。

 既にこの回の投球数は二十球を超えている。

 伊良波さんにとってかなりの負担になっているはずだ。


 右打席に五番の真由が入る、一度マウンドに内野手が集まり何か声を掛けている。

 その甲斐なくこの打席もボールが先行した、ツーボールノーストライク。

 一球待てのサインで見逃してワンストライクツーボールとなってからの三球目。

 カウントを取りに来たストレートを叩いた、打球はピッチャーの足元を抜ける。

 誰もがヒットを確信したその当たりに、セカンドの詩帆さんが飛びついた。

 グラブの先に引っ掛けるようにしてなんとか捕球すると、そのまま二塁ベースに入ったショートの歌帆さんにグラブトス。

 それを歌帆さんが素手で掴み取るとそのまま踊るように一回転して一塁に転送する。

 真由も必死に走ったものの間一髪のタイミングで一塁もアウトとなった。

 最悪のダブルプレー、真由が天を仰いだ。

 初回に三つの四球を貰いながら無得点に終わってしまった。

 これで流れが変わってしまったかもしれない。

 それでも真由は責められない、今のは柏葉姉妹のファインプレーだ。

 当たりは文句無くヒット性だった。

 そして何か一つでもミスがあればゲッツー崩れになったであろう一連のプレー。

 それを完璧にこなされた、これは相手を褒めるしか無いだろう。

 それでも、もらったチャンスで無得点に終わった事実は重くのしかかってきていて。

 桜京ナインは足取りも重く二回表の守備に向かうこととなった。

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