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練習試合 VS 杉坂女子④

 七回表の杉坂女子の攻撃は六番から始まる、この打順で詩織を打つのは難しいだろう。

 その予想通り詩織が三人で攻撃を退けた、ナイスピッチングだ。

 七回裏、こちらも六番から攻撃が始まる。

 先頭打者として羽倉さんが打席に入る、ここまでマルチヒットと大活躍している。

 しかしここは高めの直球で空振りの三振を取られた。

 ここまで黒崎さんの投球数はさして多くないこともあり、まだ投球に疲れは見えない。

 むしろ回を重ねるごとに尻上がりに調子を上げているようにすら見える。


 七番の広橋さんが打席に向かう、力強い素振りを繰り返す。

 パンチ力はあるのだからあとはバットに当たれば、というところなのだが森岡さんもそれは分かっている。

 スライダーを二球続けたあと、最後にフォークボールで危なげなく三振を奪い取った。

 これで黒崎さんは二桁十個目の三振を奪ったことになる、その奪三振能力は圧巻だ。

 

 八番の詩織もバットに掠らせることすら出来ず三振に倒れた。

 三者三振、まさに手がつけられないと言った状態だ、ここからどうやって得点するか。

 

 八回表の杉坂女子は再び三人で攻撃終了、これで詩織は打者九人を完璧に抑えたことになる。

 はっきり言ってしまえば今の詩織のピッチングであればクリーンナップ以外は相手にならないだろう、問題はそこに回る次の回をどう抑えるかだ。


 八回裏は九番の初瀬さんから、ここはワンナウト覚悟だ。

 二球であっさり追い込まれてからフォークで空振りの三振、初瀬さんに黒崎さんの相手は荷が重すぎるからこれは仕方がない。


 一番の愛里に打席が回る、ここまで四球での出塁が一度あるもののノーヒット。

 二球見逃してワンボールワンストライク、そこからの外角のストレートを打った。

 打球は詰まっていたが三遊間の面白いところに飛ぶ、ショートが逆シングルでなんとか打球に追いつき踏ん張って一塁に送球。

 遠投する形となりワンバウンドの送球に、俊足の愛里が一瞬早くベースを駆け抜ける。

 ショートへの内野安打で一死一塁、クリーンナップの前にランナーが出た。


 ここで二番の奈央ちゃんが左打席に入る、何とかチャンスメイクしてほしい。

 初球を見逃してワンボールとなってからの二球目、奈央ちゃんが走り出しながらバントした。

 一塁線へのドラッグバント、ライン際の上手いところに転がった。

 ピッチャーの黒崎さんが転がったボールに向かって全力でダッシュして素手でボールを掴んで一塁へ、際どいタイミングだが間一髪アウト。

 なんとか自らも生きようというバントだったが奈央ちゃんはアウトで送った形となった。


 二死二塁となって今日チーム唯一のロングヒットを放っている天城さんに打順が回る。

 天城さんの前に得点圏のランナーを進めることが出来たのは非常に大きい。

 森岡さんがここでマウンドに向かう、二対三と点差は僅かに一点だ。

 その一点を守り切るために話し合いに向かったのだろう、黒崎さんが何か頷いている。


 初球はインコースの厳しいスライダー、二球目はアウトコースのストレート。

 ともにボール球で打者有利のカウントとなる、森岡さんが大きく外に構えた。

 続いても明らかなボール球、ここまでいい当たりを連発してる天城さんを歩かせる。

 フォアボールで二死一・二塁となった。

 先ほどの話し合いでカウントを悪くしたら敬遠と決めていたようだ。


 打席には四番の樋浦さん、これが最後のチャンスになるかもしれない。

 しかし俺は先程のチャンスで凡退した際の樋浦さんらしくない打撃が気に掛かっていた。

 あの時は綺麗なヒットを放った打席とはまるで別人のような内容だった。

 そしてこの打席も初球のボール球のストレートを空振り、続いてストライクゾーンのスライダーをファールにしてしまいあっという間に追い込まれる。


 一球外されてワンボールツーストライクとなってからの四球目、アウトコースの際どいストレートに中途半端な型崩れのスイング。

 ボールはバットに当たらずミットに吸い込まれていった、空振りの三振。

 先ほどの打席に引き続き、全く自分の打撃をさせてもらえていない消化不良の内容だった。


 そして九回の表、問題の三番打者黒崎さんに打席が回る。

 その初球だった、アウトコースの難しいスライダーにバットが出る。

 擦ったような弱い当たりが三塁線に転がっていく。

 詩織が慌ててマウンドを駆け寄りボールを拾った。

 振り向き様に一塁に投げるもこれがワンバウンド、ファースト真由のミットを弾いた。

 記録はピッチャーへの内野安打、これで無死一塁と先頭のランナーを出してしまった。


 それでもここからが詩織の真骨頂だ。

 四番の堀越さんに対してカウントワンボールワンストライクとしてからの三球目。

 アウトコース低めに投じられた早いボールを堀越さんが叩きに来る、しかしバットに当たる寸前でボールが小さく沈んだ。

 詩織のもう一つの武器である高速スクリューだ。

 ボールの上っ面を叩いた当たりはピッチャー正面への緩いゴロになる。

 難なく詩織が二塁に送球し、カバーに入ったショートの奈央ちゃんが正確な送球を一塁に転送してダブルプレーが完成した。


 この球は決め球として使う大きな変化をするスクリューと違って変化量は小さいが、速度がストレートに近く芯を外してゴロを打たせるには最適なボールだ。

 それを上手く操って狙い通りのゴロゲッツーをとってみせた。

 後続を断ちスリーアウト、最後に内野安打でランナーを出したものの詩織は四回を投げて被安打一で無失点の好投を見せた。


 一点ビハインドのまま九回の裏に突入する、先頭バッターは五番の真由。

 ここまで打者としてはノーヒットの上にバント失敗といいところがない。

 マウンドの黒崎さんが大きく振りかぶって第一球を投げた。

 インコースのスライダーが外れてワンボール、厳しい内攻めだ。

 再びインコース、今度はストレートだ。

 三遊間に球足の早いゴロが飛ぶ、サードの横は抜けたがショートが打球に回り込んだ。


 ボールが一塁に送球される、真由が頭から思い切り滑り込む。

 送球が浮き、ファーストがジャンプして捕球したため一塁がセーフとなった。

 真由が小さく拳を握りしめた、どんな形でもいいから塁に出たかったのだろう。

 記録はショートの悪送球だが、とにかくランナーを出した。


 ここで打席には今日好調の六番羽倉さんが入る、無死一塁だから様々な作戦が考えられる。

 何とか揺さぶりをかけて黒崎さんの牙城を崩したい。

 ここで一塁に牽制を入れられる、慌てて真由が一塁に戻るも際どいタイミング。

 塁審の両手は横に広がった、心臓に悪いワンプレーに冷や汗が出る。

 しかし今ので足を使った攻撃はしづらくなった、真由はあまり盗塁に関する技術が高くない。

 牽制がそれほど上手くない黒崎さんとは言え、一塁牽制のし易い左投手ではある。

 ここで無理をして刺されてしまっては水の泡だ。


 もう一度牽制を挟んでから黒崎さんが今度はホームへと投球する、ランナーは動けない。

 これがストライクとなってワンストライク。

 その後一球ボールとなってからのストレート、コースは真ん中付近。

 羽倉さんがバットを振りぬくものの球威に力負けした、打球はセカンドへのゴロ。

 セカンドが二塁に送球してアウト、そして一塁に転送される。

 ゲッツーで万事休すか、と思われたが羽倉さんが必死に走って一塁はセーフ。


 なんとかゲッツー崩れでランナーが残り一死一塁となり、七番の広橋さん。

 羽倉さんが大きくリードをとって足を絡めた攻撃を意識させる。

 二回牽制球を投げてから投じたその初球、盗塁を警戒して高めに外したストレート。

 ランナーの羽倉さんがスタートを切っている、盗塁を読まれてしまっていた。

 しかし外し方が甘かった、その高めのボール球を広橋さんがフルスイングする。

 快音が響く、サードが打球に向かって飛び込むもその鼻先を強烈な打球が抜けていく。


 ライン際ギリギリのフェア、長打コースだ。

 スタートを切っていた羽倉さんが加速する、二塁ベースを蹴って三塁へ。

 レフトがボールに追いついて中継のショートへ返球する。

 羽倉さんは迷わず三塁を回った、中継からボールが返ってくる。

 ワンバウンドながらいい返球が帰ってきた、厳しいタイミングだ。


 羽倉さんが頭から滑り込んだ、体を低くしてなんとかタッチをかわそうとする。

 キャッチャーの森岡さんもショートバウンドした返球をしっかり掴んでタッチしにいく。

 大きく体を外に投げ出した分ギリギリで羽倉さんがタッチをかわす。

 しかしタッチをかわそうとするあまりホームベースから離れすぎてしまった、伸ばした手が空を切る。

 森岡さんがオーバーランしてしまった羽倉さんにタッチ、アウトとなる。

 いい返球がきた時点でタイミングはアウトだった、それを何とかスライディングでかわそうとしたものの紙一重でベースに手が届かなかった。

 仕方がないことだ、多少強引でも後続の打撃能力を考えれば突っ込まざるを得なかった。


 これで二死二塁となりチャンスは続いたもののバッターが八番の詩織だ。

 これまでの打席と違いなんとかバットに当てたがピッチャーの前に鈍い当たりが転がる。

 ピッチャーゴロで一塁がアウトとなり、スリーアウト。

 ゲームセット、初めての実戦は二対三で杉坂女子に敗れた。

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