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港南女子高校

 その後の話し合いで手術の予定は二ヶ月後に決まった。

 この手術の執刀を担当するのはプロ選手の手術を何度も担当した経験を持つ名医で、大輔さんが大学野球の時と現在の企業人としてのツテで連絡を付けてくれた。

 仮に俺が資金面で手術に足る金額を用意出来たとしても、これほどの地位にある相手に執刀をお願いすることは恐らく出来なかっただろう。

 大輔さんにはどれだけ感謝してもし足りない。

 しかし今は目の前に迫っている全国大会に集中しなくてはいけないだろう、いずれにしても手術は全国大会が終わってからの話だ。


 今年の出場校は全ての地区で確定したが、どこもある程度見たことがある高校だ。

 ここ二年の全国大会の試合は全て観戦している、そこに出たチームに関してはある程度のデータが揃っている。

 全てがそうではないが過去二年の全国大会に出場している高校が今年の全国大会にも出場しているケースはやはり多い。

 ざっと見たところ今年の全国大会に出てくる高校の三分の二から四分の三は過去二年の全国大会に出場した経験のある高校のようだ。

 過去二年の大会を見た感想では、天帝高校に匹敵するぐらいの実力を持つ高校がいたという印象を残した高校はない。

 去年の大会に限って言えば少なくともスコアの上ではどの試合も接戦とは言い難いぐらいの差を付けての完全優勝だった。

 それを考えると一番警戒しないといけないのは関西国際女子だろう。

 過去二年の全国大会にこそ出場していないものの、その敗退の原因となった投手力の低さを伊良波さんの急成長が支えている。

 地区大会でも伊良波さんが安定したエースとして好成績を残した結果、かなり余裕を持った試合展開で勝利を積み重ね全国大会出場を決めたようだ。

 投手力の低さにより敗退した過去二年とは全く別のチームと言ってもいいだろう、元々打線の厚みで言えば天帝高校と比較しても決して引けをとらないぐらいだ。


 あとはもう一つ、少し気になる高校があった。

 神奈川県代表の港南女子高校、ここ四年連続で全国大会に出場している名門校だ。

 とは言ってももちろん全国制覇の経験はない、最近五大会はずっと天帝高校が制覇してきているのだから当然の話だ。

 この四年の最高はベスト四、最低が去年の天帝高校に二回戦で当たってしまっての二回戦敗退となっている。

 そして注目すべきは去年の全国大会でもっとも天帝高校と競ったのがこの港南女子高校だったという事実だ。

 八対四の四点差という結果だけを見れば決して接戦とは言えないが、この点差は去年の全国大会での天帝高校戦では最小得点差だった。

 さらに言えばエース宍戸さんから四点を奪った高校も他にない、他の試合では最高でも二失点だった宍戸さんが唯一崩れたといってもいい試合だ。

 前までの関西国際女子と同じで打撃はいいが投手がイマイチということだろうか。

 そんな考えが浮かぶも一昨年の大会でそれに反する結果が出ていた気がする。

 詳しい内容までは覚えていない、録画したビデオを引きずり出すしか無いだろう。

 そうして映像で試合の内容を再確認する。


 一昨年の大会、ベスト四進出をかけての港南女子高校と天帝高校の試合。

 港南女子高校はエースナンバーを背負った先発投手が四球を連発し自滅する乱調で三回を投げて五失点という結果でマウンドを降りた。

 その後マウンドに上がったのは背番号十番の控えの一年生の牧原という投手だった。

 彼女のピッチングは想像以上に素晴らしい内容だった、残りの六回を投げて失策絡みの一失点で乗り切る好投を見せた。

 当時の天帝高校の打線は今と比べて厚みがなかったことを考えても彼女が優秀な投手であるのはまず間違いないだろう。

 結局試合は港南女子が打って追い上げたものの六対四で天帝高校が勝利を収めた。

 気になるのはこの牧原という投手だった、一年生の時点で二番手でありこの試合で結果を残した彼女が翌年の大会では一度も投げていない。

 順当に考えれば三年生のエースが引退した後は二番手を務めていた彼女がエースとなるのが妥当だ、となればなんらかのトラブルがあったのかもしれない。

 いずれにしても港南女子高校は警戒するべき相手だと言えるだろう。

 全国大会が始まってその戦いぶりを見る機会があったら注視する必要がある。


 そして全国大会が開幕、最初の抽選で三回戦までの相手が決定される。

 いつもの様にキャプテンの樋浦さんが抽選に臨むこととなる。

 関西国際女子とは離れた場所に配置された、少なくとも三回戦までは当たらない。

 桜京高校の名前の側に港南女子高校の名前が刻まれた。

 この組み合わせだとお互い勝ち進めば三回戦で港南女子高校と当たることになる。

 とりあえず一回戦で当たらなくてよかったと胸を撫で下ろす。

 二試合も観察できれば相手チームの特徴はある程度分かるだろう。

 そして大会が開幕しての一回戦、桜京高校より先に港南女子高校の試合が行われる。

 その先発マウンドには一昨年の試合で投げていた牧原さんの姿があった。

 背中にはエースナンバーである一番を付けている、今年のエースは彼女のようだ。

 相手チームはベスト十六からベスト八程度の実績を何度か上げている強豪校。

 実績から考えると勝負は五分五分かとそう思っていた。

 しかしその予想は序盤から大きく裏切られる。

 港南女子は初回から二点を先制、その後も毎回のようにランナーを出しながら攻め続け最終的には六点を奪い取った。

 一方の牧原さんは快投を見せる、七回を投げて被安打二で無失点という内容。

 大差が付いたからか牧原さんんはそこでマウンドを降りて外野に回った。

 残りの二回は背番号十番の控え投手が投げて一失点で投げ切った。

 六対一の快勝、事前の予想よりも大差の結果となった。

 しかしいくつか違和感を覚える場面があった、これが港南女子の弱点になるかもしれないという予感がしていた。

 続いて桜京高校も一回戦だがこちらは心配いらないだろう。

 こちらの相手は過疎地区の代表で決してレベルが高いとは言えない。

 正直に言ってしまえば勝負にならないぐらいの実力差がある。

 圧倒的な戦力差の前では万が一も起こりえない。

 そして順当に桜京高校は八対〇で一回戦を突破した。


 大事なのは港南女子の二回戦、先発は再び牧原さんが務める。

 試合は七回まで終わって四対〇で港南女子がリードして終盤を迎える。

 相手チームは今回もなかなかの強豪で、特に投手力が高い守りのチームだ。

 その相手から四点を奪い取った港南女子の打線はやはり力があるのだろう。

 この試合でも牧原さんは七回でマウンドを降りた、そして再び外野に回る。

 一回戦と同じ控え投手が投げて二回二失点、最後は詰め寄られたが逃げ切った。

 四対二で港南女子が勝利を収め、これで三回戦進出を決めた。

 ここまでの二試合上位に位置するであろう相手と戦い勝利を収めた港南女子。

 打線は相手の投手力に対してよく点を取ってくれているし、去年の大会で課題だった投手陣もエースの牧原さんの快投で大きく変わっている。

 一見快調のように見えるが、この二試合でいくつかの綻びが露見した。

 ここを責めれば港南女子のエース牧原さんから点を奪い、勝つことが出来るはずだ。

 関西国際女子に次ぐ大きな山場であろう港南女子、この一戦を乗り切ることができれば全国制覇に大きく近づくであろうことを強く予感していた。

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