Northern Land(2)
駅を出ると徒歩二分程度、駅から学園は既に見えていた。
「思ってたのと違ったでしょ?」
月代学園は月代区の中央にある小高い丘の中腹に面しており、森の中にこぢんまりと佇んでおり、俺の頭の中のイメージとあまりにも乖離しており、声も出なかった。
俺の中では月宮学園のように軍の施設と隣接しているのかと思っていたが、そのような物騒なものはなく、あるのは見晴らしの良い展望台や少し離れたところに住宅街があるくらいだ。
「ああ」
「それにしてもフツウの学園だね」
「そりゃね、ここは普通科も併設しているから」
「マジかよ、ドンパチやるのに一般人も通っているとは、理事長とやらは相当頭がおかしい奴なんだな」
普通に考えればわかることがわからないらしい。これでよく死人がでないものだな。
「お前が理事長のことを言えるの?ここに通っている時点でまとも奴なんて居ないと思うけど、私を含めてここにいる3人でさえ」
「……確かに、間違いではないな」
女のクセに軽々Denel NTW-20を持ち上げぶっ放すリア、双剣の聖宝を持つ俺、それにリリスも少なからず何らかの能力を持っていることだろう。
「さあ、急ぎましょうか」
正門から入ると校舎ではなく少し開けた庭のような場所へ移動する。
噴水を中心とした開けた場所に古めかしい洋館が建っている。
石碑には光明館と彫られている。
「ここが目的地よ、この中に理事長の執務室があるわ」
「なるほど」
理事長がいるだけあった立派な建物だ。
「てっきり職員室に案内されるものだと思っていたよ」
「ここは特殊で教員一人一人に個室が割り当てられているから職員室がないわ」
「月宮と同じなのね」
「そうよ」
リリスが光明館に入ろうとしたときだった。どこか遠方から大きなエンジン音が聞こえてくる。急ブレーキ音とともに学園の正門を赤い車が通りすぎる。
雪上路面で止まりきらなかったようだ。UターンしてTOYOTA 86が正門に停車し、ニルとイリスが下りて来る。
イリスはものすごい速ささで雪の上を走り回り俺の目の前で停止しきれず、ぼふっと俺に衝突して止まった。
「そんなに慌ててどうしたたんだ、イリス?」
イリスは何も答えず抱き着いたまま制服に顔を擦っている。
「ちょっと待ってよ、イリス……、――――うわぁ!!」
ステンとバナナの皮で踏んだかのように盛大に転んで尻餅をつく。ニルは相変わらずの運動神経のようだ。
「おいおい気をつけろよ」
尻餅をついているニルに手を貸して引っ張り上げた。
「……これで全員揃ったみたいだし、案内するわ」
洋館の中に入ると、そこは少し薄暗かった。玄関入ってすぐに吹き抜けのロビーに出る。
中央にある階段を上りに二階の理事長室の前まで到着した。
「準備はいいわね?」
「ああ」
俺の返事を聞くとリリスは扉をノックした。
「どうぞ」
ギギィィッという渋い音と共に開かれた扉の先には5人の生徒と老人が一人、俺たちが来るのを待っていた。
「失礼します理事長、月宮からの預かりもの届に参りました」
「そうか、ご苦労だったね、下がってもよいぞ」
「了解しました、失礼します」
リリスはその場を去り、俺たちは壁際にいる五人の生徒たちに囲まれながら、理事長の前に一列に並んだ。ただイリスは相変わらず俺の脇腹にコアラのようにしがみつき、歩いてはくれるものの離れようとはしない。
「君が小宇坂くんだね?」
「はい」
「私がこの学園の理事長をやっている月神 刃というものです。この学園のことは聞いていると思いますが、月宮学園と同様にLEGEND系列の学校です。既に月宮の方で説明を受けている通り、ここにいる四人には国際科ではなく守護科への転属とします。理由は追って説明します。ここへの転属にあたってイリスくんの安全確保が最優先であると考え、ここにいる四人の生徒に緊急時のバックアップを依頼しています。それではそれぞれ自己紹介をお願いします」
「それじゃあ、俺から自己紹介行くか!!」
最初に声を上げたのは長身でガタイの良い男だ。
「俺は二年守護科の九条だ、軍事委員会委員長代理をやっている。物騒な問題に直面した時は俺に相談してくれれば力になろう。以後、よろしく頼むぜ」
「次は俺だな、二年警護科、風間だ。風紀委員会委員長をやっている。前の学園ではかなりの騒ぎを起こしたようだが、こちらでそんなことはないようにしてくれ、仕事が増えるのはごめんだからな。あと最終的にはバックアップするが、基本的には一人で解決してくれ、俺も暇ではないんでな」
俺と同じくらいの体格の男で俺たちに全く興味なさそうに形式的に喋っただけだった。
それに非協力的な態度全開である
「二年強襲科、椎名だ。監査委員会委員長と生徒会長を兼任しているわ。守護科にいる以上何かと厄介ごとを依頼することがあると思うから、覚悟しておいてよね。あと風紀の風間とは違ってバンバンお姉さんに頼ってもらってかまわないから」
自分で「お姉さん」とか言っちゃってるあたり若干あれだが、悪そうな印象は受けなかった。それと肩にかけている二丁のM16が気になったがここはスルーする。おそらくリアのような馬鹿みたいな怪力女なのだろう。
それと守護科に転属するデメリットである面倒な依頼の件を思い出させてくれた。
「二年研究科、書架管理委員会禁書管理部部長、星守です。基本的に力にはなれません。いつも図書室にいるので……」
かなり非協力的で冷めた口調だが、禁書管理と言ってもおそらく図書委員みたいなものだし、期待はしていないのでいいだろう。
「これで全員の紹介が終わったようですね」
「すいません、一人紹介が終わっていないようですが?」
俺は四人の少し後ろにいる前髪を長くの伸ばした男の方を見る。
「ああ、彼は協力してくれる生徒とは別で私の執務の補佐をしてくれる生徒でね」
「時渡といいます。理事長の補佐をさせて頂いております」
目まで髪で隠れており、表情はわからないが暗い口調で一言そう言った。
「私からは以上で、後のことは会長に一任している」
「ということでここからは生徒会室へ移動しましょう」
理事長が話を終えると、各委員会の長たちはそれぞれの持ち場へ戻って行き、俺たちは椎名会長と共に生徒会室へ移動することとなった。




