LEGEND SENDAI Base(4)
「それで次はどこ行くんだ? もう日も落ちてきたし時間ないぞ」
「あ、話逸らした!!」
「確かに時間がありませんね。十八時までには戻ってもらいたいものです。護衛役としては、夜は危険ですからあまりで歩いてほしくないものです」
護衛を任されている身としては当然の意見だ。この車も防弾仕様いえ完璧ではない。最近イリスを狙って来た敵は能力者ばかりで侮れない。
俺たちの夕食などすべてLEGENDの宿泊施設で出されるのでその辺の心配はない。また温泉が完備されているようで、出る前に見た限りでは温泉旅館のようだった。
「まだまだ見たい所がいっぱいあったけど、日が暮れちゃうし今日は帰ろうかな」
「それがいい」
「今日は」という部分が気になったが、今日はこれで終わりなのでゆっくりできそうだ。
それと散々治安のことを言われていたが、特に何かが起こることはなかった。
LEGENDの陸軍施設に戻ってからすぐに宿泊施設の部屋の鍵をもらいそれぞれの部屋に移動した。
男の俺一人だけ別の部屋で他の三人は同じ部屋で固まった。
部屋に入るとそこは四人部屋相当の広さがあり一人で使うには勿体なく感じたが、久しぶりの一人だ、悪くない。ここ二日は完全に寝不足だったからな。
イリスが俺の布団に入ってくる所為であまり寝付けなかった。彼女とでさえそんなことをしたことはなかったのだから疲れて当然だ。見た目には幼いが女であることは確かで、いつもとは違う匂いが髪の毛からして、それだけで安眠は妨害された。それなので今日は本当に旅館気分かもしれない。
それでも警戒のための準備を怠ることはできず私服に着替えることはできなかった。
ゆっくりする間もなく月代がやって来た。
連れてこられたのは宿泊施設内にある応接間の一室だ。
「呼び出したのは他でもないイリスのことだ」
「イリスの?」
「ああそうだ。彼女のことについて君もある程度のことは知っているだろうが、こちらも知っている情報を君に伝えておこうと思って小宇坂君には来てもらった」
「俺も大体のことは先生に教えてもらいましたが」
「そうか、ならセンピオーネ事件も知っているな」
「ああ」
神無月先生から聞いていたが、あれは先生の仮説に過ぎなかったはずだが?
「その事件の事後処理には仙台司令部の海外派遣部隊が参加していてな、それで失礼だがDNAを鑑定させてもらった」
「俺を呼んだということは」
「そう、彼女のDNAと一致した。よって今まで仮説に過ぎなかったことが事実へ変わったのだ。だがそれくらいのことで君を呼んだ理由には足りない。DNA鑑定でそれ以外にも重要なことが多くわかったからだ。彼女のDNAには現在彼女が使用している「アブソリュート」以外にも数十種類の能力の発現が理論的に可能であることがわかった」
「つまり、狙わる可能性がさらに高まったということか?」
「そうなる。作った向こう側の人間は既にこの情報は既知だ。言い方は悪いが一体手に入っただけで培養次第で様々な能力を開発可能だ。こんなものが誰とも知れぬ組織が手に入れればパワーバランスが崩れ大変なことになる」
「イリスにそこまでの才能があるとは……」
「こちらも最初に聞いた時は計測ミスかと思った。しかし何度計測しても結果は変わらなかった。このことを踏まえると日本に渡った人工少女つまり彼女のクローンの数はこちらが確認できているだけで五体、その内敵に渡ったのは三体、どれもプロトタイプと聞いています。これがどういうことかわりますね?」
「確かにこれは脅威だ。イリス単体で一個大隊いやそれ以上か……」
イリスははっきり言って化物だ。攻撃を無効にする能力はもちろんだが、単純な戦闘能力も実戦データが少ないので実際は分からないが理論値上では最強だ。その一部としてかなりの情報を蓄積している。
「今さっき入って来た情報に寄れば人工少女の一体であるAMD-NO001 CRIMSON PROTOTYPEを輸送していると思われる海上保安局の軍艦が函館港に入港したらしい」
俺が知らない間に事態は深刻化しているようだ。まだ保安局の連中はまだイリスを諦めていない。諦め切れる訳がない。軍艦、戦車、人員、砲台、戦闘機、この一件による向こう側の損害はざっと計算しただけでも億の単位となるだろう。
「保安局の方が一手早い、これではこちらが美咲市に着く前にもう一戦交えることになりそうだな」
「君たちの戦闘力を疑っている訳ではないが、北海道は極寒の地だ。特に二月は冷える。雪が積もっているのは勿論だが、気温は常にマイナス、戦場となる場所は最悪の環境、迎え撃つ敵は千歳基地所属の第十一特別中隊だ」
聞いたことない部隊だ。だがその名称から何となく予想は付く。
「特別というとまさか……能力者で構成された部隊ということか?」
「頭の回転が速いな、驚くべき所は中隊という所だ。中隊は大体二百人くらいの部隊を指す用語だが、全員が能力者でなくても百人以上の能力者一辺に相手するとなれば、弱い能力者の集まりと仮定しても骨の折れる厳しい戦いを強いられることになる」
補足だがこの大きさの能力者が集まった部隊は千歳基地にしかいないらしく。日本だけで言えば最大の能力者部隊らしい。その能力者の多くは開発によって生まれた人工的な能力者のようで能力者としては最低の力だ。それでも多勢に無勢では勝ち目が薄い。
「こちらに突破力の高い攻撃系能力を有している者がいれば数による戦局を逆転できたかもしれないが……」
「あなたも私も一対一で負けることは無いでしょうが、数の暴力には敵いません」
「イリスによるゴリ押しの突破も通用するか微妙なところだ」
何せ苫小牧から美咲市までの距離は二百キロメートル近くある。その間に全ての奇襲攻撃を躱すのは難題だ。加えて、こちら行先は美咲市である以上、ルートは自ずと絞れる。
「航空機で移動するのはどうだ? これなら能力者はあまり関係しないぜ」
既に険しかった月代の顔はさらに険しくなる。
「それはもっとダメな案だ。保安局が保有しているのはF-15J、それに比べて潮泉基地の第五航空隊は零戦を筆頭とする過去の遺物たちだ」
「御世辞にも可能性があるとは言えないな、だが俺は前の戦闘でジェット戦闘機を見た気がしたんだが……」
あれは少し見ただけだったがF-15J複数を相手に圧倒していた。
「どれを見たのかは知らないが、あれは全部試作機だ。それ以外の主力機は大戦時を大して変わらない。変わったのは武装、通信機、レーダーとかだけだ」
試作機が搭載されているのはカタパルトが付いた大型の潜水艦であるひかり型と強襲揚陸艦にのみ試験的に搭載しているだけで陸上の基地には機密保持のため配備されていない。
「そこでお願いなんだが、出発前までに何か作戦を立案してほしい。こちらでも最善は尽くすつもりだ」
「わかった、考えておく」
最後に寒冷地仕様の武器に交換が必要なものがあれば基地内にあるものでなら好きに使っていいと言って今日の話し合いは終了した。




