The Battle of Hitachi(6)
~Sousuke Side~
――――――ヒュュー―――――――ン!!!!!
波立つ海から白い高速移動物体が姿を現した。
「――――――総員退避!!!」
一斉に艦内へ逃げるが間に合わない。直線的に飛来するならばこの艦の中央、ちょうど俺たちがいる位置だ。ここからどう逃げてもミサイルから逃げることは不可能だ。爆風に煽られて海に投げ出されても生きて帰ることは難しい、
「ハープ―ンか?」
「はい、マスター、着弾まで十秒」
「何とかできそうか?」
「もちろんです、マスター……アブソリュート、展開」
両手を大空に広げて詠唱する。
イリスを中心に薄い水色の膜が両手から広域に展開されていく。
「全員その場伏せてくれ!!」
俺もイリスの伸ばした手よりも下になるように片膝を着く。
その直後にミサイルが甲板上数メートルで起爆した。爆風は球状に広がりブリッジまで到達し窓ガラスの一部に亀裂が入る。
だが一番手前に止めてあったBK117まで能力で覆うことができなかったため、BK117は爆風で無残に吹き飛び回避で傾いた甲板上を滑り落ち海に沈んでいった。
しかしUH-60Jはミサイルの直撃の寸前に飛び立ち被害を間逃れている。そのまま対潜哨戒にあたったようだ。
全員無事だがすぐに水しぶきと共に船体が大きく揺れる。
「魚雷左舷命中!!」
飛んできた三発はデコイに逸れたが一発が左舷後方に命中した。
船体が左に傾く。傾きは約三から五度程度だが現代戦闘に置いて一発の魚雷命中は沈没に直結する。
速力が低下したのは明らか、前方を航行している電との距離が開く。
どうやら向こうが無事のようだ。
だがこちらは無理かもしれない。
被害状況を左舷の縁に立ち下を見下ろすと船体に半円状の穴と亀裂が入っていることが確認できた。
乗組員の話では内部の格納庫までは貫通しておらず水の抵抗と浸水により速力が若干低下するが問題と言っていたが、素人の俺にはどうにも問題がないようには思えない。
ダメージを受けながらも航行し続けるが、
「魚雷第二射を確認、直撃まで三分」
数は四本で距離は約六キロ言ったところか、まだ時間はあるがこの状態で逃げ切れる可能性が零に近い。
しかしその内に二本が海上から飛び出す。
「巡航ミサイル、数二!!」
再び押し寄せるハープ―ンが真っ直ぐこちらに飛んで来る。
「イリス、もう一回行くぞ」
「了解」
「ノンノン、イリスちゃんに無理はさせられない。私がやるわ」
甲板左舷に走り込みうつ伏せに構えた。
「無理だ、相手はミサイル、亜音速で飛んでるんだぞ」
「私の銃弾も亜音速よ!!」
ガチャンと大口径の20mm×110弾が装填される。
拡散弾でも使うつもりか?
上昇していくミサイルに向けて重たい銃を体で支えるように持ち上げ銃口を三十度から四十度上方へ、そしてスコープを一瞬覗いた。
まるで対空砲のような体勢だ。
――――――――ドォォォォォ―――――――――ン!!!!!!!
甲板を振動する大きな重低音が響く。
上空ではそれよりも大きな爆発が起き大きな衝撃波が俺たちを襲う。
リアは化け物だ。装填されていた弾は恐らく徹甲弾、てっきり拡散弾で一発でも命中すればという考えかと思っていた。
ハープーンの一発にリアの徹甲弾が命中し、誘爆で二発目も破壊し完全に防いだのだ。
弾を再装填すると排出された大きな薬莢が傾いた甲板を転がり海に落下する。
「……流石だ」
思わずそんな言葉が漏れる。誰が見ても圧巻の活躍と言えよう。
「どうよ!!」
リアがガッツポーズでこちらを振り返る。
残るは魚雷だが、こちらも黙って見ているだけではない。デコイをばら撒き全力で逃げる。
さらにアスロックから七三式魚雷が発射される。
上空を飛んだミサイルはある程度の距離で魚雷を切り離しパラシュートで海中に落下する。
こちらも手をこまねいているだけではダメだろう。
だが、俺にできることは何もない。
「魚雷発見、スクリューに向かっています。接触まで残り一分を切りました」
それを聞いたリアが艦の後方へ走り出す。
「どうするつもりだ?」
俺もリアを追いかける。俺をイリスが追いかける。
「狙撃するのよ」
「まさか――――」
「そのまさかよ」
「無理だ、銃弾の初速は亜音速、その速度で水面に衝突すれば粘性の影響で銃弾はコンクリートに衝突した時で同等に力を受ける。だから例え魚雷は水面近くにあっても命中しない」
大口径の対戦車ライフルであれば弾の速度が増すので尚更だ。
「試してみなきゃわからないこともあるわ」
そう言って別の弾倉から取り出したのはグレーで着色された銃弾が六発入ったマガジンだった。
グレーの塗装はLEGEND規格ではアーマーピアシング弾を表している。
アーマーピアシング弾とは炭化タングステンやチタンなどの超硬合金を鉛の代わりに銃弾の芯に使ったもので非常に高い貫通力を有しているため、防弾ベストや俺たちが今着ている防弾制服をアーマーピアシング弾の9mmパラベラム弾が余裕で貫通する威力だ。強さに関して欠点は少ないが、一発辺りの値段が高く、一学生が使える価格ではない。
「どこでそんなものが買えるんだ?」
「私って国際科に入学したけど、狙撃科の依頼もこなしてた関係で知り合いがいてね」
なるほどそれならば納得がいく。狙撃科は極秘任務などを依頼されることが多いため他学科には詳細な情報が入らない。裏の世界に片足突っ込んだような学科だからだ。表では流通していないものを購入することも容易いだろう。
リアが構えている丁度真下でデコイを投射している。
次第に目視でも魚雷の立てる不自然な波が見えるようになる。
二本中一本は逸れていき左舷後方の海で自爆した。
だがもう一発はこちらを追尾している。
――――――――ドォォォ―――――――ン!!!!!
まだ千メートル近くあるが一発目が発射される。
「外れだ、もう少し手前だ」
観測員が双眼鏡で弾着観測を行ってくれている。
「わかったわ」
二発、三発と撃つがどれも微妙にそれる。
やはりダメなのか?
目視では当たったように見えたものもあったが魚雷にはとどいていないようだ。
三発、四発と消費し遂に五発目を撃ち、これで次が最後となる。
距離が初弾と半分以下、飛ぶ距離が短い分命中精度は向上する。
「イリス――――」
「――――私がやってみせるわ、絶対に当ててやるんだから!!!!!」
目つきが鋭くなりスコープは常に魚雷を捉えているのだろう。
魚雷の速度はほぼ一定、狙いは間違っていない。ならば後は運だ。それさえあれば必ず迎撃できる。
何かを思いついたようにイリスが俺の元を離れた。
「私の力を少しだけお貸します」
「えっ?」
イリスがしゃがみDanel NTW-20の弾倉に触れる。
「……アブソリュート」
触れた弾倉が能力のヴェールに包まれる。それはたった数秒だったが手を離した弾倉からヴェールが残りゆっくりとフェードアウトする。
「さあ、後はあなたの腕次第です、オフェリア・L・ヴァルザック」
二人が見つめるはあの魚雷、リアは引き金にそっと指を置き、タイミングを測る。
そして引き金は引かれた。
「――――当ったれぇ―――――――!!!!!」
発射された弾丸にはイリスの能力がかけられており薄い水色と地の銀が太陽の光で眩しく反射し吸い込まれるように魚雷に向かって一直線に飛んだ。
さっきまでと違い水面に衝突するが波一つ立たない。
―――――――ザバァァァ―――ン!!!!
海面から大きな水の柱が立ち魚雷はソナーから消失した。
「……当たった、当たったよ!!」
うつ伏せに状態から瞬発的に立ち上がり飛び跳ねたリアがイリスを抱きしめる。
「ありがとう、イリスのおかげだわ」
「はう」
イリスにしては可愛い悲鳴をあげて悶える。
ギュッと押し付けられた胸の形が変わるほど強く抱きしめられ、イリスの身長は低いので顔は胸に完全に埋もれ手をパタパタと振っているだけ、何か言っているようだがもごもごと聞こえない。
そして「きゅ~」という鳴き声と共に力尽きた。
「リアそろそろ離してやれ、窒息している」
「……えっ?」
そっと離すと目をグルグルさせたイリスがふにゃっとなっており、立てそうになかったのでリアがそっと抱きかかえて俺にパスする。
「ちょっとやり過ぎたわ」
テヘっていう顔をして全く反省の色は見られない。
だがイリスの人間味のある姿が見れて俺は少し安心している。今すぐには無理かもしれないが、いずれはちゃんと笑えるようしたいと思った。
その後の追撃はなく、北海道へ直行の予定を変更して宮城県仙台にあるLEGENDの主要拠点の一つである仙 台港に入港した。




