The Battle of Hitachi(2)
「始めまして、私の名前は月代瑠亜と申します。これから向こうでの生活をサポートさせていただきますので以後よろしくお願いします」
漆黒の冷淡な瞳で淡々と丁寧に喋っていく。
「今伺ったのはこれからのことを説明するためです。お時間はよろしいですか?」
「かまわん、続けてくれ」
俺は相変わらずの態度で椅子に座り足を組んだ。
「わかりました、ではまず美咲市のことについて話させてもらいます。美咲市は北海道のほぼ中央に位置している内陸の都市です。人口・規模は北海道で二番目、非常に発達した都市と言えるでしょう。しかし美咲市には他のどの都市とも異なる構造を持っていますがご存じですか?」
「パンフレットを見た限りで自治区ってことになるらしいな」
如何なる理由であるか経緯は全く知らないが、美咲市全域がPMCであるLEGENDの所有土地であるようだ。それに加えて日本国内であった国内とは様々なことが異なるようである。自治区と言ったが民間軍事法の規定でLEGENDの所有地内は治外法権区のように独自の法律による成り立っている。
「適切な表現です。美咲市には日本とは異なる組織構造で動いています。具体的には日本であるならば政府をトップとし各省庁による国家の運営が行われています。それと同じように美咲市では中央議会をトップに省庁が存在しています。日本ではありますが、その中に一つの国があると思って頂ければいいと思います」
補足すると、LEGEND横浜司令部などは軍事省に属している。また内務省があり、特別警察局が日本で言うところの警察と同じ役割を果たしている。また、司法省が裁判所を運営していたり、財務省が電子通貨の管理や銀行を運営していたりと国としての体裁が整っている。ただし、その省庁の体制は旧大日本帝国憲法の時代の仕組みを参考に作られているため、同じ役割をしていても名称が異なっている。
「ここが重要なことになりますが、省庁の中でも軍事省は言葉のままですが、それと内務省特別警察局は独自の戦力を保持しています」
「なるほど、警察も物騒になっているって訳か」
「その通りです。超能力犯罪に立ち向かうために必要なことだったようです。しかし、二者が戦力を持っているが故に起こりえることがあります」
「武力衝突とか言わないよな?」
「残念ながら、小宇坂さんのおっしゃる通りです。美咲市は内部で戦力を持つ内務省と軍事省は非常に仲が悪く、時々武力衝突が起こります」
「それは陸軍と海軍の仲が悪かったみたいな感じか?」
「適切な表現ですね」
それは大変だ。安全な場所かと思ったがそういう訳でもないらしい。
「そして現在の私たちの立ち位置は軍事省にあります。そのことを念頭に置きつつ外部からの敵に気を配りつつも、内部の敵にも目を向けなければなりません。人工少女を保護するのなら尚更です」
月代瑠亜は黙ってぼんやりしているイリスに目を向けた。
「美咲市にいれば安心だと思っていたが、話を聞く限り狙って来る敵が変わっただけで状況は横浜と大して変わらないようだが?」
「その指摘は正しいです。しかし美咲市に呼び寄せたのには他にも理由があります。一番の理由としてはLEGENDによる直接的な保護にあります」
「月宮学園もLEGENDの傘下なんだろ? なら現状でも保護は可能に思えるが」
LEGEND月宮高等学園はLEGENDという組織の傘下でありLEGENDの関東に拠点である横浜基地もすぐ近くにある設備的不備は見当たらない。
「確かにLEGENDの傘下であり、基地も周辺にあります。ですがそれ以外場所における保護は難しいのです。現在の日本の内部勢力をご存じですか?」
「いいや、初めて聞いた。要するに軍事力の派閥による勢力争いのようなものか?」
「端的に言えばそうです。軍事力というよりかは能力者による集団や結社のようなものの勢力図というべきでしょうか。あなた方も保安局との戦闘経験があると思いますが、あれは内閣総理大臣直轄の能力者を集めた組織です。LEGENDのそれに部類します。国内の主な勢力はさきほども言いましたLEGEND、保安局に加えて、上海系超能力犯罪組織の最強、LEGENDと同じくPMCであるCIS、能力者を利用して布教活動を行っている宗教団体など挙げられます」
超能力を軍事目的以外にも利用しようとしている組織は多いが、表立った研究ができないため明るみになっていない部分が多いという。
「その中で私たちLWGENDは本部がある美咲市を中心に勢力圏を伸ばしている組織です。主として北海道は苫小牧、岩見沢よりも西側が勢力圏となっている。それ以外にも東北地方ではその力は絶大なものです。しかし、それ以南はほぼ全てが保安局の勢力範囲であると言っても過言ではありません。保安局は東京都に本部を置く組織それに近い横浜ではたとえこちらの関東拠点があろうとも総力ではこちらが圧倒的に劣ります。全面交戦にならないのは超能力者とそれに関する事項が国家機密であるためです。だから目立つ活動は国や機関からの依頼を受けるという形でしか基本的には動けません。ですが美咲市は違います、基本的には法外地域であると思ってもらって良い上に能力者の実態を隠す必要もありません」
説明を聞いていたリアがハイハイッと手を上げる。
「じゃあ公然と能力を使ってもOKってこと?」
「厳密にはそうではありませんが、使ったとしても保安庁に拘束されるようなことはないでしょう。ただし、必要ない場合の使用は周囲に危険が及び可能性があるため、必要時以外の使用は原則として禁止しています」
「そこまで規制が緩いと日本では能力者はとっくに周知の事実になってそうだが?」
「それはありえませんよ。能力者が能力を行使することを許されているのは美咲市を含むLEGENDの勢力範囲だけです。それ以外の場所での能力の行使はそのものが犯罪と見なされ拘束されてしまいます。その役割の一端を担っている組織が保安局ということになります。例えば今回の一件で月宮瑠音が万引きの現行犯で逮捕されていましたが、あれは表向きの話で、実際には能力を行使したことが罪に問われているという訳です」
そうは言っても俺たちの中に能力者はイリス以外いない訳だが……。
「だが規制が緩いということは治安の悪化につながると思うが?」
「そんなことはないとも言えませんが、少なくとも美咲市は横浜よりも安全でしょう。美咲市にはLEGENDによって保護された能力者が集められています。そう、北海道美咲市は能力者を悪意から守るために作られた能力者の都市なのだから……」




