Recapture Strategy(14)
~Sousuke Side~
海上では砲撃戦が開始され、夜の海を真っ赤に染める。
さらに流れ弾が海岸に命中し火の手を上げる。たかつき型は別方向に散開し大鳳の主砲の射線から逃れる。大鳳はどちらも追撃せずに海岸線へ直進してくる。
また要塞の主砲も大鳳へ向けられ砲撃を開始し、まだ命中はしていないものの照準が合うのも時間の問題だ。砲撃が海上へ向けられたにはこちらの動きと大きく関わっており、陽動部隊である東京湾側の部隊が撤退を始めたからであろう。
こちら側に兵力が集中しつつあるのは事実だ。現に分隊クラスの敵とは既に遭遇済みで、どこから敵が現れるか全く予測がつかない。
さらに東京湾方面から飛んできたF-15は大鳳へのミサイル攻撃を敢行後、館山半島周辺にいるこちらの護衛艦と戦闘している。
大鳳が飛び立った第二次攻撃隊らしき零戦はF-15を牽制しようとするが、マッハの世界を飛行している現代兵器に追い着くことはない。F-15は零戦を気にすることなく大鳳へのミサイル攻撃と機銃掃射を行っている。また大鳳から発艦した唯一のジェット戦闘機は大鳳後方のF-15六機と空中戦をおこなっており、さっきまでで二機にダメージを与え、F-15は煙を上げながら横須賀へ撤退していった。あの戦闘機は化け物レベルの旋回性能や速度、機関銃の命中精度を誇っており、それに加えて空対空ミサイルを全て躱していた。
同じ機体が浮上したひかり型潜水艦二隻から各一機発艦し三機になったことで制空権が優勢になりつつある。
しかし陸では劣勢となりつつある。
俺たちの近くで退路を確保するために待機していた機甲部隊は撤退を余儀なくされたようだし、残っているのは朱雀院涼香を含む精鋭部隊と俺たちのみとなったのだろう。
大鳳から揚陸用の輸送艇は発進していない。
逃げるにも逃げ場がない。このまま進めはば半島の天辺で行き止まりだ。
どこかの部隊に合流できれば良いのだが、携帯は壊れており連絡手段がない。
状況は時間が過ぎるたびに悪化している。撤退したM1 Abramsの機甲部隊が斜面をゆっくりと降下しているのが見える。
結局、障壁が張ってあった場所まで戻ってしまったが偶然敵と遭遇することはなく、障壁を張ったいたであろうコンテナサイズの機械が壊されていた。
その周りには兵士は数十人倒れている。
「随分派手に暴れたんだな」
「マスター、ここはまだ危険かと、交戦からまだ時間が経ってません」
「ならどっかにまだ友軍がいるはずだ。合流しよう」
「了解、マスター」
障壁があった場所に内部に入り中心を目指す。
人質が閉じ込められていたというなら、それを救出するために向かうはずだ。そこで合流すればいい。
少し進んだ所で周囲の砲撃、銃撃音とは別に近い距離で銃撃音が聞こえたのだ。
それに気を取られていると足元でカサッと何かを踏んだ。
足を止めて月明かりで白く反射するそれを拾い上げた。それは半円状の薄い金属製の板のようなものでその端は鋭く破断した後のようになっている。武器ではない。金属とは言っても非常に軽くアルミニウム系の合金であろうか。表面は白く塗られているため目に見えた金属光沢はない。かけた部分は左右対称であることが予想できたのでおおよその形はわかった。
俺の予想ではアイシールドだ。黒い線が数本デザインとして入っているが穴は空いていなかった。
「どこかでみたことがあるような……」
丁度額の部分にあたるであろう部分のνとVの筆記体を融合したような文字が刻まれている。
「そうか、あの時の……」
「はい、マスター、これは聖音のもので間違いないです。それに神眼封符まで落ちています」
アイシールドの近くに落ちている土汚れた布を拾い上げた。
その布には両面ともに旧字体の漢字がぎっしりと敷き詰められており、まるで呪術だ。その文字列には封の文字が多用されており、何も知らずにそれだけ落ちていたら怪談レベルの不気味な布だった。
「何だ、その『神眼封符』って?」
「元々予知能力者の一族である天月家が開発したものです。予知能力者や超々能力者のほとんどは体の色素が変化してしまいますが、その中には変色だけにとどまらず目から非可視光線を出してしまうことがあります。それを防ぐために作られてそうです」
その非可視光線は人間には無害であるものの、それを長時間は浴びると体の色素の変化が起きたり無能力者が突如能力者になったりすることが起こるそうだ。
拾いものに気を取られていると、さらにその奥から銃声が聞こえる。
「イリス、能力はどれくらい使える?」
「通常出力で十二秒はもちます、マスター」
「無理はするな、行くぞ!!」
険しい森林をかき分けてやっと開けた場所に出たと思えば、クナイのようにひし形を立体にしたような刃物が高速で飛んで来るがイリスが俺の前に出る前に右剣を抜刀して弾いた。
五角形の中央、障壁の最深部には祭壇のような石造りの背の低い建築物があり、その上に東京湾側で遭遇した黒のローブに仮面の奴とさっきJu87C Stukaから降下した漆黒の男が戦っていた。クナイのようなものを投げたのはあの仮面だ。
漆黒の男は片手にリボルバー、もう片方は戸村一佐のように漆黒をまとい、刃を素手で受け止めている。
祭壇までは距離があり、近くの広葉樹の下でその二人とは別に幼い少女が横たわっている。うつ伏せに近く顔が見えなかったので少女の上体を優しく起こす。
「意識はありませんが息はあります、マスター」
イリスは触れてもいないのにそれを伝えた。
この子のアイシールドを取った素顔は初めて見るが、寮で俺たちを逃がしてくれた人で間違いない。つまりこの子が二人の救出目標の内の一人ということになる。
さっそく保護するべく両手に抱え立ち上がろうとした時だった。
イリスが瞬間的に俺の前に立ち能力を展開しようとしたのだ。
祭壇上に人影はなく俺は焦る。祭壇にいた人影、ローブに仮面の女が俺たちから数メートルの距離で刀を振り下そうとしている。
まさに瞬間移動、俺は仮面の女の動きを全く把握できていなかったが、イリスはそれに気づき、能力を展開しようとしている。そして、そのことをイリスにコンマ五秒遅れて状況を把握する。ただ先に気づいたイリスの防御すらも能力展開までは追い着きそうにない。
「イリス、避けろ!!」
咄嗟に叫ぶが俺に攻撃が加わらないような位置取りから一歩たりとも退こうとはしない。
だが、イリスが斬られることはなかったのだ。
イリスの前に、これもまるで瞬間移動のように黒いオーラを纏った男が残像を残しながら割って入る。イリスの能力ですら展開が間に合わないような刹那の時間で俺たちの視界外から突如として出現し片手で刀を押さえ握った。
かなり至近距離であるためローブの隙間からどこかのセーラー服のスカートが覗く。
仮面の女の手がカタカタと震えているが漆黒の男が掴んだ刃は手から離れることはない。漆黒の男が少しだけ後ろを振り返る。
「細かい説明をしている暇はない。その女を連れてここから去れ。そして沿岸部へ迎え、回収部隊が既に到着している」
「……わかりました」
思わず敬語を使ってしまう俺、……あの漆黒の男はただものでなはない。戸村一佐と同系統能力であろうが、その力は桁外れという印象を得た。
すぐに立ち上がりイリスと共に祭壇を突ききり沿岸部を目指した。
「――――待て!!!」
仮面の女は叫ぶ掴まれた刃は抜けない。
俺は振り返らずに一目散にその場から退散する。俺たちの後ろでは爆発音や金属音が響き続けていた。
海岸で少し荒い息のまま走り切ると漆黒の男の言う通り大型のホバークラフトが砂浜に到着しており、大鳳と呼ばれている強襲揚陸艦に回収され、その海域を離脱する。
大鳳の甲板上には、少数精鋭の救出部隊と朱雀院涼香の姿があった。




