Remember(6)
俺はアイリスの前に立つ。
「どうして?」
「ったく、困ってることがあるなら、俺に相談してくれよ?」
「でも、それじゃあ、そうすけくんに迷惑が――――」
「――――俺は迷惑だ何て思わない。アイリスが相談してくれるならいつでも力になる」
そうだ、アイリスに救われたばかりじゃあ男が廃る。
今度はアイリスを俺が守る番なのだ。
「でも、そうすけくんまで虐められたら」
「そんなことは関係ない、だって俺たちは友達だろ?」
「……そうすけくん」
その瞳からこぼれたのは涙だった。
「ありがとう」
「礼には及ばないさ、さあ、帰ろうぜ?」
「うん」
俺たちはアイリスの手を引いて二人でゆっくりと歩きだす。
この手の温かさを忘れことはないだろう。
あの日から目立つような悪さをしてくるようにはならなかったが、やはりクラスの雰囲気はよくなかった。
アイリスを含む数人の友人以外はあまり話かけては来なかった。
俺は告白したというサッカー部のエースとやらと話をして彼女たちの説得をお願いしたのだ。
彼はとても良い人だったのだ。
これで蟠りがなくなったとは言えないかもしれないが、その女子生徒もサッカー部のエースと直接話すことで友人関係ができたことも幸いして、態々アイリスを虐めるような惨めな行動に出ることはなくなった。
次第にクラスの雰囲気を戻り始め、俺たちはいつもどおりの生活を送れるようになった。
この時、一人より二人、いやアイリスと二人ならば何でも乗り越えて行けるような気がしたのだ。
俺はアイリスを守ることができたのだ。
そしてこれからも守り続けて行こうとそう誓ったのだ。
アイリスと視線が合うと笑ってくれる。
俺は少し恥ずかしくてぎこちなくなってしまう。
今思えば、その時から俺はアイリスのことを……。
互いに友達以上の関係になってきたのかもしれない。
そんな何とも言えないモヤモヤを抱えたまま俺たちはゆっくりとマイペースに歩もうとしていた。
「宗助!!」
「アイリス!!」
部下終わりに二人は校門で待ち合わせて帰る、そんな日常が再び始まる。
「それじゃあ、帰ろっか?」
「そうだな」
大切なものが出来た瞬間だった。
自分より大事なものなんてそうそう出来るものじゃないだろ?
小さいながら、俺は見つけることができた。
それはとても素晴らしいことで、まるで暗闇に差す一瞬の閃光のように美しい輝きを放っていたのだ。
とったアイリスの手は二度と離さないそう誓ったのだ。
俺たちはこれからも二人で歩み続ける。
「また、明日ね」
「ああ、また明日」
何気なく交す言葉たち。
それはある意味でおまじないのように俺たちを引き寄せてくれるのだ。
当たり前の日常は当たり前のようにやって来る。
その道はずっと遠くまで続いていると、あの時を俺はそれを疑うことはなかった。
あの日までは……。