Recapture strategy(9)
ジェットエンジン音が大きくなり低空で俺の頭上を越えて行った。
あの機影はF-1戦闘機だ。三菱重工で生産された戦後の国産戦闘機の第一号で現在はF-2に変わったため全機退役している。
よってあれは自衛隊のものではない。
保安局が払い下げで手に入れてものなのか、LEGENDのものかはわからない。
ここにいても仕方がない。
ランドクルーザーのタイヤの跡を追って十分ほど歩きさらに上の砲台まで上がって来た
どうやら無事に撤退は完了したようだ。
後は俺が港まで戻れば別動隊は全部撤退したことになる。
だが俺はそのつもりはなかった。
単独飛行しているF-1がここからならはっきりと見える。
機体側面にはLEGENDの文字が、さらに日の丸を翼に掲げている。
予定では今日中に到着は無理だと言っていたが、それよりも二時間ほど早い到着だ。
そう既に作戦から三時以上経過しているのだ。もし向こう岸での奪還作戦が未だに成功していないのならば、作戦は失敗と言ってもいい。
そしてこれから俺はどうするかだが、港には戻らない。このまま頂上を目指すと決めた。
港周辺に機甲部隊と歩兵部隊が集結しつつあり囮としてまだ機能している。よって作戦はまだ継続可能だ。
ならばするべきことは頂上の対空レーダーの破壊だろう。第五艦隊による空爆の邪魔になる可能性が高い。
それにここからなら頂上まで走って数分の距離だ。
俺は迷わず走った。
上に行けば行くほど敵との遭遇率が高まると思っていたが、一人として出くわすことはなかったのだ。
それはあまりにも異常なことで俺は様々な可能性を考えてしまう。
途中見張り用の小屋を発見したので制圧しようと乗り込んだが既に制圧完了しており、縄で縛られた兵が数十人小屋の中と外に放り投げられていた。
山を下りる時に会った朱雀院涼香の仕業に違いない。
さらに小屋を後にした時、すでに頂上の対空レーダーの施設が吹き飛んでいたのだ。
手柄というわけではないが、朱雀院涼香の方が一枚も二枚も上手だったということだ。
俺が考えていた攻撃目標を全て破壊してしまっていた。
頂上に着いた頃には山の反対側の砲台が火を噴いていた。砲が発射されたのではなく。文字通り弾薬庫が引火していたのだ。
港ではまだ戦闘が継続されており、戦車と駆逐艦が主砲の撃ち合いをしている。
そして小さくて見えにくいがランドクルーザーらしき車も確認できた。
どうやら撤退はうまく行ったみたいだ。
この対空レーダー装置は電波妨害も兼ねていたようで通信が回復し溜まっていたメールが一斉に雪崩れ込む。リアとニルと準司から合わせて二十件も来ていた。
それを一件ずつ確認するのは後にして周囲から他の攻撃目標を探していた時だった。
驚きの余り、手から携帯が落ちる。
「……何だ……あれは」
山を越えた対岸に巨大な五芒星が出現していたのだ。その星を作る五つの線は自ら白く発光している。
直径はざっと計算しても一キロ以上、その端点は海上に三点はみ出しており、その点には護衛艦が配置されている。
携帯を拾うが画面が黒く反応しない。落した時に壊れたようだ。
あの非科学的現象を報告することができない。
暗い海上に護衛艦以外の艦船がないところを見るとF-1は大分長い時間飛んできたようだ。
F-1は今も作戦空域を旋回飛行している。
あの五芒星が何なのかはわからないが味方のものではないことは事実だ。
俺は行けばいずれ朱雀院涼香とも合流できる。
「……行こう」
そう呟く。
――――――ザザッザザッ!!!!!
風で林が揺れたのかと思ったがそうでななかった。
黒いマントに身を包んだ何かが林を抜け俺の前に現れたのだ。
「私を置いてかないでください、マスター」
あの黒いマントは九八式対徹甲弾防外套、幼い顔立ちの少女がゆっくりと俺の斜め後ろに着く。
「どうして来たんだ、危ないだろ!!」
「マスターの役に立つことがイリスの存在意義です」
淡々と喋るイリス、場所をどうして特定できたか、不明なことは多い。
だがこの状況下でイリスがいるのは心強い。少なくとも無能力者の俺よりは役に立つはずだ。
「わかった。行こう、あの五芒星へ」
「了解、マスター」
その合図で俺たちは坂の下で炎上している砲台に突撃するが、敵部隊が既に撤退しており人影がなかったので、さらに坂を下る。
内陸部数十キロの林から砲撃音とマズルフラッシュを複数確認する。
「――――イリス!!」
「……アブソリュート」
後ろのイリスが俺の背中を駆け上がり、肩を足場に俺の頭上斜め前に出る。
そして透明の壁を傘にように展開する。滞空時間は数秒だが降り注ぐ榴弾を全て防ぐ。近いもので数十メートルの地点に着弾した。
空中にそのままの体勢で落下するイリスお姫様抱っこでキャッチする。
その間も下る速度は維持する。
「イリス、もう一回いけるか?」
「問題ありません、マスター」
「――――よし行くぞ!!」
イリスは俺の両手に足を乗せ、空中に放り投げた。
同時に自走砲からの砲撃を受けるが全て防ぎきる。
なぜかこちらの動きが読まれている。
どこかから座標を伝えているとでもいうのか?
わからない、だがこのままではイリスがもたないかもしれない。
再び腕に戻って来たイリスは飄々としている。
「大丈夫か?」
「心配いりません、次弾が来ます」
イリスが俺の手を足場に立ち上がり飛ぼうとした。
「――――その必要はないわ、お姉さんに任せて!!」
どこからともなくやって来た朱雀院涼香は瞬間的に抜刀し納刀する。あまりの速さにただ納刀する部分しか見えない。
だが防御には成功したようだ。榴弾は着弾せず数百メートル離れた場所で花火の様に空中で爆発した。
「小宇坂君、ここからは共同戦線を組みましょう」
さっき撃ち落としたのと同じ方法で次々に撃ち落としていく。
一回手合せしてわかったことだが、この人の剣術は剣術の域を遥かに超えている。だが超能力を使っていない。純粋な実力ということになる。
「この先には一二式閉止障壁があるわ」
「あの光ってる星がそうですか」
「そう、あれを破壊するわ」
「一二式何とかって何ですか?」
「一二式閉止障壁は防衛省で対超能力者戦闘を想定して開発された防御兵器よ。その子の能力を応用して作られているわ」
朱雀院涼香がイリスを指さす。
「アブソリュートを?」
「そう、だから障壁突破の鍵はその子にかかっているわ」
俺たちは自走砲による集中砲撃を受けながらも一二式閉止障壁の手前まで辿り着くことができた。




