Remember(5)
暗闇の中とある日の出来事を思い出す。
俺がアイリスと知り合ったのは小学校二年生の時だった。
小学校二年の時、両親が海外に転勤となったため、こちらに引っ越すことになった。両親は技術者だったので転勤は仕方ないことなのだが、当時に俺にとっては大変なことだったのだ。
フランス語を上手くしゃべることができないのは当然だが、外国人ということがそもそも珍しかったこともあり、あまり学校で仲の良い友達はできなかった。
だが、そんな中で話しかけてくれた子が一人だけ居たのだ。
それがアイリスだった。
彼女は母親が日本人だったこともあり、日本語を話せたのだ。
俺から話せる訳もなく、彼女から話しかけてくれなくれば、つまらない学校生活を送っていたに違いない。
「そうすけくんでいいんだよね?」
彼女の第一声はそれだった。
「ああ」
話かけられたことに驚いた俺は適当な返しをしてしまう。
「少し私とお話ししない?」
「別に構わないけど……、ってお前日本語話せるのか?」
「うん!! だからね、一緒に遊ばない?」
これが俺と彼女が初めて交わした言葉だ。
俺は最初そんな彼女に戸惑ったが、優しく接してくれる彼女に、次第に心を開いていった。
初めは突然フランスに連れていかれたことに対して思うことはあったが、彼女との出会いがこの地に来て良かったと心からそう思わせる。
朝、学校に着くと挨拶を交わし、休み時間には一緒に会話し笑い合う。
時にはフランス語を教えてもらうなど、そうしていくうちに彼女と『友達』になった。
そうして一年近く経つころには、彼女だけではなく、クラスのみんなとも打ち解けることができ、彼女以外にも友達が出来た。
彼女は明るく、困っている人を見かけたら助けずにはいられない子だ。
そんな彼女がクラスの人気者になるのも不思議なことではない。
彼女に好意を寄せる男子も少なからずいるだろう。
彼女の周りには自然と人が集まる。
そんな彼女がいたからこそ、俺はクラスの中に溶け込むことができたのだろう。
しかし、注目を集めることは、それを妬む人が出てくることも不思議ではない。
ある日の放課後のことだった。
俺は部活を終えてアイリスと一緒に帰るために校門で待っていた時だった。
いつもより来るのが遅いことに疑問を持ちつつもただ待っていのだが、ふと見上げた教室にアイリスらしき姿が見えたのだ。
しかし、見えるのはそれだけではない。
違うクラスの女子か、同じクラスの女子もいる。
そう、複数の女子生徒に囲まれていたのだ。
俺は直ぐに異変に気付く。
「まさか……」
俺は居ても立ってもいられずに走り出す。
そして教室の前の廊下にたどり着いた時だった。
「アルフレッドくんの告白を断ってと聞きましたがどういうことなのですか!!」
女子生徒の怒鳴り声が廊下にも響いていたのだ。
「どうって、その、あの……」
何も言い返せずに俯く。
「――――いつも、いつも、あなたばかり!!」
アルフレッドは隣のクラスのサッカー部のエースだったはずだ。
「ずるいわ、あなたは色々な人から告白されたのに、全部ふったと聞いたわ。酷い女だわ!!」
「「そうよ、そうよ」」
取り巻きが騒ぎ立てる。
「――――あなた何て死んでしまえばいいんだわ!!」
女子生徒が手を振り上げる。
――――ドォォォ――ン!!!!と盛大の教室の扉を開け放つ。
「――――おい、何してんだ、てめぇら!!」
「!?」
「そうすけくん!?」
女子たちが一斉に振り返る。
「聞こえなかったのか? 俺は何をしていると聞いている」
「あなたは、外人の……、何か勘違いしているようだけど、私たちはアイリスちゃんと話をしていただけよ? 何か勘違いしているのでは?」
女子は先ほどとは百八十度変わって、和やかな雰囲気を出して来る。
「ふざけるなよ、そんなことで俺を騙せる訳ないだろ?」
「あなたこそ、何もわかっていないわ。私たちは普通に話していただけよ、ねぇ?」
「「そうよ」」
周りの女子も釣られて同じように頷く。
「はぁ……」
俺は呆れてため息をついてしまう。
「何ですか? そのため息は!!」
「わからないのか? お前らの汚い声が廊下まで響いてんだよ」
「……」
「どうして黙ってるんだ? さっきの続きを俺の前で初めてくれてもいいんだぜ?」
女子生徒たちは一斉に睨んでくる。
「ふん、あなたが居ては楽しくおしゃべりもできないわ、行きましょう」
女子生徒たちはまるで何もなかったかのような顔で教室を出ようとする。
俺はゆっくりアイリスの元へと歩み寄り、女子生徒とすれ違う。
「顔は覚えた、次に同じことをしたら一人ずつ潰すから覚悟しておけよ」
「……」
女子生徒たちはないも言わずに去っていった。