Strategy Preparation(6)
その後、俺とイリスは一階の購買に向かう。
イリスが戦うことになった以上、最低限の装備は揃えなければならない。基本的に敵の攻撃に対しての防御役として配置されるが、何が起きるかわからない。それが戦場だ。
購買と一般的な言い方をしてしまったが、普通の高校にあるような購買ではないことはなんとなくわかるだろう。
店内は教室の二倍くらいの面積で食堂の隣にあるのだが、お菓子とか惣菜パン、ジュースは売られていない。あるのは金属の塊ばかりだ。銃という銃が壁にかけられており、かなりクレイジーな雰囲気となっている。銃弾の補給はここで行う。他にも接近戦用の武器もある程度は揃えられているが、基本的に銃はここ、ソード類は横浜にある刀鍛冶の店となっている。
俺が持っているSIG SAUER P220もここで購入したものだ。その時選んだ基準は値段だったかな。在庫処分で半額になっていたことと、それに加え弾数も多く、9mmパラベラム弾仕様なのでどこでも調達がしやすかったことも関係している。
だが今回はそれとは話が違う。イリスの体格的に撃てる銃は限られてくる。それに初心者でも扱い易いものでなければならない。
イリスに何を聞いても「マスターの選んだものなら何でもいいです」のテンプレ回答ばかりだ。
俺の財布には五万程度、補充用の9mmパラベラム弾を購入し、拳銃の検討に入る。
あまり大きい銃だとイリスの小さな体が反動に耐えられないだろうということから警察が使うような口径の小さいものが良いだろうと探してみるものの、不人気のせいで取り寄せのみとなっていた。
9mm仕様で探すとワルサーP99が安売りしていたので二万前後で購入し予備マガジンとオプションとしてこの学園の女子が一般的に使用している太もも付けるベルト式のガンホルダーを購入した。
残る近距離武器だが、適当に小さい折りたたみナイフを選んだ。これもガンホルダー同様の方式のカバーを購入し装備させた。
これで装備は揃ったので教室に戻ろうとした時、神無月先生が少し駆け足でやって来るのが見えた。手には何か重たそうなアタッシュケースを持っている。
「間に合いましたね、あの時に渡しそびれたものです」
少し重たいアタッシュケースを渡される。
「何ですか、これ?」
「それは九八式対徹甲弾防外套です。開ければ分かると思います。急いでますので私はこれで」
早々に去ってしまった。受け取ったアタッシュケースを片手に教室に向かう。
自習中の教室からは廊下にも聞こえるくらいの話声が聞こえている。真面目に自習している奴はいないようだ。
教室に戻るとリアとニルも戻って来ており、ニルは大丈夫そうに見える。
「落ち着いたか、ニル?」
「少しだけね、さっきはカッコ悪いとこみせてゴメンね」
無理に笑顔を作る。
「謝るのは俺の方だよ、勝手に巻き込んでおいて、それでしかも転校だなんて……」
「ソウスケが気に病むことじゃないよ、みんな好きでやったことなんだし、それに守護部に転科になるんだから、シュッセみたいな感じ?」
「リアはポジティブだね。でも三人もいなくなると寂しくなるよね~、ただでさえ国際科は人数が少ないって言うのに……」
確かに一年が始まって早々に二人やめたが、最初の人数がそもそも少なかった。
「そうだな、だが夏休みにでもなればまたこっちに戻って来るさ。イリス行くぞ」
「了解です、マスター」
俺とイリスは教室を出ようとする。
「ソウスケはどこに行くの? 昼休みまで自習よ」
「俺は二人の様子を見に来ただけだ。俺にはここでやることがまだ残ってるんでな」
手に持っていた作戦書を見せる。
「昨日の今日でまたミッションに出るの?」
「今回は昨日よりもデカい仕事だ。そして最後のミッションだ。これが終わり次第、リアとニルを連れてここを出ることになる。準備だけはしておけよ」
「イリスも同行させるつもりなの?」
「そうだ、初実戦になりそうだ」
「無茶よ」
「俺も無理だと思ったんだが、イリスができるっていうから俺のバックアップをしてもらうことにしたんだ」
「死ぬんじゃないわよ」
「死なないさ、それじゃ」
教室を後にし、開いている作戦室を借り、そこに鞄を置く。
作戦室とは学園が用意した借用制の小部屋のことで、一時間単位で借りることができる。
そこで作戦書を確認する。
防音設備がしっかりしているので、外の音は一切聞こえない。加えて鍵までついている。
「イリスも突っ立ってないでこっちに来い」
「了解、マスター」
アタッシュケースの中に入っているのは九八式対徹甲弾防外套と言っていたが、簡潔に言えばマントのように羽織る形の防弾服だ。外はカーボンとワイヤーで編まれた繊維で繊維と繊維の間に長方形のセラミックプレートが敷き詰められており重量は十キロないくらいである。
重たいとは思うが着せてみる。
「重くないか?」
「問題ありません、マスター」
イリス用の特注品かと思うくらいに丈がピッタリだった。
重たいだろうし一旦ケースにしまって俺はソファーに座る。
イリスはそのまま立っていたので、
「イリスも適当に座りな」
「はい、マスター」
何も気にせず真っ直ぐに俺の膝に座った。お気に入りになったのか表情からはわからないが、機嫌が良いように見える。
「一応、読んでおけよ」
「はい、マスター。既に内容の暗記を終えました」
「……本当か?」
「説明しますか、マスター?」
「いや、大丈夫だ。内容が頭に入ってるならそれでいいんだ」
イリスはそう告げると態勢を変えて俺の方に体ごと向きを反対にしてそのまま抱き着いて来たのだ。
「何してるんだ、イリス?」
イリスのロザリオの長髪が俺の顔を優しく撫でふわりと香りが広がる。さらに顔をうずめて擦りつけてくるのでさらに香りが拡散する。風呂に入ったわけでもないのに何だこれは!?と思ってしまうような女の子特有の香りだが、リアやニルのそれを凌駕している。ピースがはまるような感じに俺の趣味嗜好と一致し相乗効果を成している。
「……わかり、ま、しぇん、ま、しゅたぁ……」
顔をうずめているのでうまく発音できていない。
わからないってどういうことなのかイマイチ理解できない。俺はてっきりイリスの思考はロボットのようにある一定の規則に乗っ取って行われているものだと思っていた。少し驚いたが十二歳くらいの子供と考えれば、その行動には納得はいくけど……。
「……すぅ――すぅ――」
いつの間にか寝てしまっていた。
どうにか離そうと頑張った結果、何とかソファーに寝かせることに成功した。
少しだけ丸まって小さく寝息を立てているイリスの寝顔はとても安らかでどこにでもいる少女と何ら変わりはなかった。




