Battle of Tokyo Bay(11)
その先ではどこからか飛来したBK117がカプセルをロープで引き揚げ飛び去る。
戸村たちが乗って来たヘリコプターは晴嵐に追い返され近くにはいない。
「作戦は成功したぜ戸村」
「なるほど、最初から本気で戦う気などなかったということか」
戸村は方向を百八十度変えブリッジにさっき使った足への能力集中で飛び上がりBK117の追撃に出た。
俺たちが乗って来た潜水艦は暗い東京湾のどこを見回してもない。
完全に置いてかれた。
戸村が離れたことですぐにリアの元へ向かう。
リアは相変わらず気絶したままだ。乗員の誰にも見つからなかったことは奇跡的と言えよう。すぐに揺さぶったが全く反応がない。
鞘のワイヤーをカプセルに引っかけようと思ったがもう届く距離にない。
友軍はもう晴嵐くらいしかないがこいつらをどうにかしないと乗って帰るのは困難だ。
何だかんだ言って作戦を修正したのは俺だが、これはあまりに無責任すぎるとは思わないだろうか?
この状況が見つかればリアは荷物となるが置いて行くわけにもいかない。
それと付け加えれば岸までは一キロメートルもない距離だが、二月の東京しかも海上となると気温は低い、海を泳ぐことも考えたが凍傷になるのが先だろう。
バラクーダ自走式水上標的がコンテナの横にあるが乗せていると見つかるのでリアを壊れかけたコンテナの影に寝かせる。
「待ってろ、すぐ戻る」
頭をそっと撫で、俺は戦場に戻る。
戸村も淡河もBK117の撃墜に必死だが攻撃は当たることなく横浜市の方向に飛び去った。
戸村は気が気でないのはわかるが、淡河の様子が明らかにおかしい。
「こうなれば作戦自体は失敗だ」
「こっちの作戦は成功だがな」
「ならば貴様を拘束し交渉材料に使うまでだ。来い淡河、奴を潰す」
後部甲板の壊れていない奥側、淡河がいる方まで走る。
「潔いな」
リアが見つかっては元も子もない。
「艦は十分持ちそうにないな、さっさと片付けて脱出する」
「こちらも同じだ。しかしニ対一、こちらの勝ちだ」
「何のための左剣だと思う?」
俺はいつに左剣を抜き二刀流に構えを見せる。
これは本編初公開の真の姿だ。
「その構え……鳳凰流か」
「よく知ってるなおっさん」
「四大流派くらい誰でも知ってることだ。問題視するべきことは――――」
「朱雀流ですね」
淡河が割って入るが、俺の剣術は見破られているようだ。
そう、俺が右剣のみを使っている時は朱雀流、二刀流の時は鳳凰流を使っている。
朱雀流、鳳凰流共に京都を本元に置く剣術の流派の一つで天璋流、千手流と合わせて四大流派と呼ばれている。それらは互いに相容れない関係にあり、その共存は珍しい。
「ビビッて手が出せないのか?」
「ほざけ、すぐにしゃべれないようにしてやる」
戸村は相変わらずの漆黒攻撃、もうそれは飽きた。
軽く弾くが淡河が人間離れした速さで接近する。持っている武器はないが俺の剣撃を軽く避け後ろに回り込まれる。
「――――鳳凰流全方位無敵陣!!」
その場で高速回転し淡河が退く、しかしこれで戸村と淡河にはさまれる形となった。
淡河はスカートからナイフを、戸村は9mm自動拳銃で両方から攻撃を受けるが微妙な剣の動きで全て弾く。
さらに漆黒を腕にチャージし放つ、淡河は近くにあった柵を引きちぎり金属バットのように振り回す。
「鳳凰流攻二型椿 二斬二斬二斬二斬二斬二斬、十二連斬!!」
―――――ギィィ―――ン!!!という金属音で柵がバラバラになり制服にも二斬加えたがすぐに後退したため後は躱される。淡河の身体能力は異常だ。俺はこれで決着をつけるつもりだった。
漆黒は余裕で防げる。それだけがこいつの強みだ。
淡河はさらに一瞬目を離した隙に消える。
さっき加えたダメージは大きいはず、しかし移動先はバラクーダ自走式水上標的の上、やはりそうか、後ろを取られた時点で見えないはずはない。
「――――これを見ろ!! ――――お前は動くな!!」
淡河はリアの襟首を強引に掴みナイフを突きつける。
「よくやった淡河」
「セコイことしてまで勝ちに来るとは大人は汚いな」
「だがこれで我々に手は出せまい」
「確かに」
リアを見捨てることはできない。
「武器を捨てろ」
両剣とも甲板に破棄する。
「素直だな、貴様らしくない。てっきり仲間の一人や二人は見捨てる奴だと見込んでいたのだが」
「こいつらをどうしますか?」
淡河がバラクーダ自走式水上標的から降りようとした時だった。
「――――グハッ」
淡河は突然吐血しその場で失神した。リアは淡河の掴む力がなくなりバラクーダ自走式水上標的の上に転がった。
何が起きたかはわからないが今以上にチャンスはない。
俺は足に全力を注ぎ甲板を蹴る。
「――――動くなと言ったはずだ!!」
漆黒を高速で撃ち出して来たが、俺の剣は甲板の上で手の届く距離にはなく、漆黒は銃弾よりも速い。
でも俺は死なないだろう。
なぜなら……。
甲板を踏み込む足でわずかに回転方向の力を加える。
漆黒は俺がベルトの鞘に向かって飛んでいく。
そして衝突と同時に消失する。
その衝撃で浮いた体が甲板に着地すると同時に剣を拾いあげ、今度は淡河の襟首を掴んで戸村の前で盾替わりにしバラクーダ自走式水上標的までジリジリと下がりながら移動する。
「形成逆転だ、どうする?」
戸村の気を引きつつバラクーダ自走式水上標的のエンジンを始動する。
「その剣以外でも攻撃を無力化するとは……」
「おっさんは勘違いしてたようだな、大元は剣じゃない、これは付属品に過ぎない」
徐々に艦の傾きは大きくなり後部甲板が完全に海の下に沈み、コンテナは潮で流される。戸村はそれを避けるように後ろに下がるが、コンテナが俺たちの間を遮る瞬間にバラクーダ自走式水上標的を進水させDanel NTW-20を回収する。
「先に脱出させてもらう!!」
エンジン全開で艦の近くから離脱する。
「沈めてやる」
「こいつは返すぜ」
淡河を投げつけるとそれを回収する時の隙ができ、艦から離れることに成功した。
戸村は淡河片手に漆黒を放つがあまりに狙いがデタラメで一発はマストに命中し吹き飛んだが航行には問題ない。
俺はリアを片手に操縦桿を握る。
バラクーダ自走式水上標的は名前通りの基本的に無人で使用するもので、護衛艦などの射撃練習の標的として使われるそうだ。
現在三十ノット以上出ており、風圧を直で受ける分車以上の速度を感じる。ちなみにニルの運転はこれの数十倍の怖さがある。
とりあえず光が強い方に航路を取るが、もうさっきのひうち型多用途支援艦が潮で流され過ぎていたことと夜による視界不良で現在位置がわからない。
こういう時の携帯だ。
内ポケットの携帯は無事で時刻は十時過ぎ、海上でもアンテナは二つ立っている。
ニルに連絡を取るが電波が届かない。地下街で圏外になるのと同じで潜水中も圏外のようだ。
これでは潜水艦を見つけることは困難だ。リアは一向に目を覚まさない。
操縦はバイクを運転することと大して変わらないが、違う所を上げるとすればブレーキがないことくらいだろうか?
ライトがないせいで近くは全く見えない。
周りに艦船がないことが幸いし安全に航行できる。
しばらく闇雲に真っ直ぐ明かりの強い方へ走っていると横で強い波が立ち船は傾く。
そしてそれと逆側から何かが飛び出した。
身構える暇もなくバラクーダ自走式水上標的の後部に着地した。
「……中佐、ですか?」
「大変な役目を押し付けてしまったね、私も一緒に戦えれば良かったのだけど、伏兵がもう一人いて、その処理に向かっていたのでそちらにまで手がまわりませんでした」
そこは別にどうでもいい、それより海から出てきたことについて聞きたいんだが……。
「そろそろですね」
「……」
さっきの横波の正体が姿を現す。なるべく波を立てないようにゆっくりと浮上するひかり型特殊潜水艦、夜の明かりでわずかに反射する海面を漆黒に染めるその巨体、間近で見るとその大きさに恐怖する。
浮上するとサーチライトを点灯し折りたたみ式クレーンが稼働しカタパルトの横にそびえ立つ。
俺たちの船ごとカタパルトを引き上げてくれてそのまま中で休むことになった。
本当に寒かった。
それからすぐに晴嵐が帰投し同じくクレーンに引き上げられフロートが外され格納庫に入った。




