Battle of Tokyo Bay(7)
~SOUSUKE Side~
「ターゲットからスクリュー音確認。移動を開始したようです」
パッシブソナーに影がちょうどこの艦の前方に映っている。距離は約五百メートルでその場で回頭している可能性が高い。
進路は東京湾内と推測できる。
「司令塔浮上開始」
中佐の指示で潜水するために取り入れたバラスト水を高圧空気により押し出し海へ吐き出される。
これにより軽くなったこの艦はゆっくりと浮上を開始する。
「無線で一号機に状況を報告させよ」
一号機とはさっき飛ばした晴嵐のことだ。今格納庫に入っている方は二号機だそうだ。
そこまで深く潜航していなかったのか司令塔はすぐに海上に飛び出し、乗員が下から上に上がって行く。
司令塔は格納庫の上に突きだしている部分でその上にアンテナも付いている。
浮上と同時に海域のデータが一号機から送信され詳細な画像、映像がモニターに映し出される。
甲板に武装した兵が十人以上おり外の警備が万全だ。
艦首はこちらとは反対側に向けようと右に回頭している。
こちらが十六ノットであるのに対して、ひうち型は十五ノット程度なので普通に考えれば逃げ切れるはずはない。
さらに東京湾沖へ向かっているヘリコプターがあるという連絡も受けており、敵の増援である可能性が高いとのことだ。
俺たちは合図があるまで格納庫で待機するだけだ。
俺が格納庫内の適当な段差に座っていると、ニルが大きい弾薬箱は三つ抱えてやって来た。
「何してるんだ?」
「み、てわ、からない?」
よたよたしながらこっちに来るので俺から近づき上に載ってる弾薬箱二つを持ち上げる。
確かにこれは重い。
箱には25mmと書かれているので格納庫の上についている25mm三連装機銃のものだろう。
銃弾なんて大した重さじゃないだろうとか思っていたが、塵も積もれば山となるということか?
「……ありがと宗助」
「全く、女にこんな重たいもの持たせるとは……」
呆れたように言うと、シュンとなって、
「乗組員の人が持つって言ってくれたんだけど断ったの」
「また、何で?」
首を傾げているとバツ悪そうに、
「……だって私だけ役に立ってないから」
それでこんな重たいものを持っていたのか。
「ニルはバカだな」
「そうですよー、どうせわたしはバカだもん」
「そうじゃない、人間には向き不向きがある。ニルは戦闘が苦手だが、車の運転は神がかり的なテクニックを持っている。オールマイティな人間なんてそうそういない」
「じゃあ宗助にも苦手なことあるの?」
何かもう若干ウルッときてるようにも見える。
「俺はニルの逆、戦闘以外は全く駄目だ、だからあんまり自分を卑下するなよ」
「その通りよ!!」
いつの間にか上に上がっていたリアが言う。
「リア……」
「それより、もうすぐ追いつくわ」
「リアも前線に出るの?」
「ウィー♪ もちろんよ」
肩にかけているアンチマテリアルライフルDanel NTW-20を叩きながら言った。
「えっ?でもリアは狙撃専門だって―――」
「私はこれでも近距離格闘戦は大得意なんだよね!! だから心配は無用だよ」
「そうだな」
寮内で起きた白兵戦の様子を見れば納得できる。狙撃専門と思わせておいて近距離も強いとは中々の策士かもしれない。
『これより浮上します。全艦攻撃態勢、全艦攻撃態勢!!』
艦が上昇するにつれて、わずかながらエレベーターが上昇した時のような加速度を受ける。
艦は漆黒の闇を二つに分けるように大きな白い塊は浮上する。ひかり型はひうち型の真横に浮上し並走している。
『浮上完了、作戦開始、圧力隔壁解放良し』
その合図と共に格納庫の圧力隔壁のハンドルを一斉に回し数秒で丸い形の隔壁が開かれ潮風が入り込んで来る。
外から聞こえる波音が格納庫内に反響する。
外は真っ暗で遠くに東京の高層ビルの明かりが見えるだけだ。
一連の動作に慣れていないため、俺たちは周りの乗組員が一斉に外で出てしまった後で外にゆっくりと出る。
「そろそろ始まるみたいだね。リアも宗助も……気をつけてね」
そう言ったときのニルは今まで見たことのない表情だった。
何と表現したらいいかはわからないが、いつものニアとは違い、女子特有のものを感じた。
「わたしには後方支援でしか二人を手伝うことはできないけど……」
その言葉から俺やリアを心の底から心配していることが伝わった。
「さっきも言っただろ。俺には俺の、ニルにはニルのできることをやればいいんだ」
「ソウスケの言う通りよ。それに今は深く考えても仕方がないわ。」
「……うん。ありがとう2人とも」
リアと俺は艦首へ、ニルは乗組員と共に艦尾及び格納庫の上に続く階段の方へ走っていったのを追いかけた。
波は穏やかだったせいか甲板に立っていてもふらつくことはなく、それから間もなくして中佐がやって来た。
「少々お待たせしてしまいましたね。それでは行きましょう」
穏やかな口調ではあったが目つきはさっきよりも鋭く、戦闘態勢に入っているのがよくわかる。
次第に距離を縮める両艦は浮上から数十秒で接舷した。




