Remember(3)
「えっと、そうですが……」
アイリスは不安そうな声でそう答えた。
「良かったぁ~、やっと見つけましたよ」
「あの、どちらさまですか?」
「どちらでもないというべきかしらね?」
何なんだこの女は!?
女の表情は薄っすらと笑っているが、どこからともなく寒気が全身を襲う。直感が何か悪いことが起こるとそう言っている。
「人違いではないですか? 俺たちはこれで――――」
「――――いいえ、合っていますよ、あなたのことで」
女は微笑み、アイリスを指さす。
「――――あなたを殺しに来たのよ!!」
「……なん、だと!?」
何かの聞き間違いか、いやそんなことをない。
女は胸の内に手を入れる。
「――――逃げるぞ、アイリス!!」
俺の体は考えるよりも先にアイリスの手を握り全力で走っていた。
「あはっ、逃げるのですか? それはそれで面白そうですが、面倒でもありますね」
パァーンという音が響く。足元に銃弾が着弾する。
本当は当てることができたはずだが、わざと外して来たのだろう。女は確実に俺たちで遊んでいるのだ。
その銃声に気づいた客や従業員が悲鳴を上げて逃げ惑う。
ショッピングモールは一瞬で大混乱となる。
俺たちは振り返らずに人の合間の縫って無我夢中で逃げる。
こんなところで死ぬ訳にはいかない。
せっかくのデートが台無しだ。
まさか、初めてのデートがこんなことになるとは誰も予想がつかなかっただろう。しかも狙いはアイリスだと明確に言っていた以上、無差別テロの部類ではない。
なぜ、アイリスの命が狙われているのかは分からないが、いち早く安全な場所へと非難しなければ殺されてしまう。
少し振り返った時に見えたアイリスの表情は今にも泣きそうだった。
「くそっ!!」
俺に力があればすぐにこの状況を打開できたかもしれないが、銃を持っている以上、逃げる以外に方法はない。
逃げて、逃げて、逃げ続ける。
悔しいがこうするしかない。
ショッピングモールから出ることが最善だと思ったのだが、
ショッピングモールの出入り口を塞ぐようにおかしな仮面に銃を持った女が数人おり、外へ出ることが難しい。
正面を向くと、そこにも仮面に銃の女が居る。
この状況で逃げるには右手にあるエスカレーターを使って上に行くしかない。
そして逃げるように屋上に着いてしまう。
まるで誘導されているかのように……。
「ふぅ……追い詰めましたよぉ?」
さて、どうする?
そんなことを考えていると、一瞬のことで何が何だかわからなかった。
左腕に鈍い衝撃を感じるとともにそこが熱くなった。
俺の左腕から血が出ていた。
「――――痛っつ!!」
アイリスを掴む俺の腕が撃ち抜かれていた。
「――――宗助!!」
「いつまで掴んでるんですかぁ? 邪魔をするなら、あなたも殺しますよ?」
女はニヤリと笑う。
ふざけやがって、こんなところで死んでたまるかよ!!
「なぜアイリスを狙う?」
「時間稼ぎかしら? どうせ死ぬのにそんなこと聞いてどうするの?」
「お前自身もわかってないじゃなか?」
「へぇ~、そう、そうなのね」
「誰かに命令され暗殺と言ったところか? だが、それにしては随分と派手にやってるな? もしかして頭が悪いのか?」
「あら? それは心外ね、別に派手にやろうがどうしようが、何の問題もないのだもの」
「何だと!?」
「だった、クライアントが全てもみ消してくれるわ」
そんなに巨大にクライアント、そんな奴がいるのか。これはどう考えても大ニュースだ。
となれば、それすらも抑え込むことができる存在、考えられるのは二つくらいだ。
「貴族様か政府ってとこか?」
「ふ~ん、さあ、どうだろうね?」
「否定しないということは肯定しているようなものじゃないか?」
「そうね、う~ん、例えば手すりが壊れていて、偶々寄り掛かったカップルが屋上から落下、そして残念なことに二人とも死んじゃうのよね!!」
「狂ってやがる!!」
「死因は事故死、可哀そうだわ。でも仕方ないと諦めなさい。これがあなたたちの運命なのだから」
女は銃のトリガーに指をかける。
「それじゃあ、さようなら」