Airforce versus Army(1)
俺はバイクで横浜市内の湾岸沿いにあるLEGEND月宮高等学園を目指していた。
途中、信号が赤で止まり、その間に空を見る。
ヘリコプターは次第に大きくなり海上から来たのはやはりUH-60Jに違いない。あの中に一佐が乗っているのだろう。
その他にもCH-47 チヌークが二機内陸からやって来る。
これはまずい。エロゲーを取りに行っている暇はなかったようだ。一旦引いて来ると思った当てが外れた。
だが、まだできることがある。
携帯電話にインカムの発信機を取り付け、耳に骨伝導式無線インカム本体を装着する。
かける相手はもちろんアイツだ。
「準司、今大丈夫か?」
『今は暇だが、慌ててどうした?』
「俺の部屋に向かってくれるか?」
『何があった?』
突然声色を変える。
「俺の部屋に少女を保護している。鍵は開いているはずだ。確認してくれ」
『わかった』
自分の部屋のドアを開けて、廊下を入る音がする。
そして再び扉を開く音がした。
信号が切り替わるのと同時くらいに俺を追い越して行き、今度がヘリコプターを追いかける形となる。
『たしかに確認したけど、問題は何だ?』
準司の奴、頭の回転が速いな。何かまずい状況になっていることを理解している口調だ。
「その子が狙われている。上空で音がしているだろ、それが敵のヘリだ」
『おいおい、マジかよ!! もうさっきからガンガン響いているぜ』
「何とかその子を連れて脱出できないか?」
『やってみよう』
次にニルへ電話する。
「ニルか?」
『宗助、言わなくても状況はわかってるよ。ごめん、私のミスだ。車は学園裏口の車庫の外だよ』
「わかった。準司にも伝えてくれ、後リアにも」
『了解!! あんたは今どこ?』
「もう学園の目の前まで来てる」
『それじゃあ頼むよ』
「ああ」
CH-47 チヌークの一機は横浜市内を周回するように飛行し、もう一機は学園近くのメガフロートに着陸、海上から来たUH-60Jだけが直接学園に向かっている。
ようやく学園が見えてきたところでUH-60Jは学園内の俺が住んでいる寮の上空をピンポイントでホバーリングしている。
やはり、居場所が完全にばれていると見て間違いないだろう。
学園の敷地へ正面から入る。
本当は敷地内では徐行しなければならないが、そんな悠長に校則を厳守できる状況ではない。かなり切羽詰っている。
耳に電話のコールが直接伝わり、インカムの簡易スイッチで電話に出る。
『ニルから大体の状況は聞いたわ、ちょうど女子は三階だし、足止めくらいはするわ』
「助かる、だが絶対に危ないと思ったら逃げるんだぞ、リア!!」
『言われなくても大丈夫だよ、……それじゃあそろそろ敵さんが来たみたいなので』
そこで電話が切れる。
寮の上のUH-60Jから次々に隊員が屋上に着地しているのが見える。
さらにさっきまで周回飛行していたCH-47 チヌークが学園に接近してきている。
UH-60Jと入れ替わりで小隊を下すつもりだ。
だがそれらをだまって見ている学園でもないようだ。
学園よりもさらに奥の海岸沿いから別のヘリコプターが飛んできている。
あれはドイツのEC665 ティーガーだろう。
ユーロコプター社製の軍用攻撃ヘリコプターで、冷戦時代にフランスと西ドイツにより開発された機体だ。動力はメインロータと二基のジェットエンジンで最大速度は約二百三十キロメートル毎時とかなり早いのではないだろうか。
攻撃機なだけはあって対空ミサイルのスティンガーや二十二連装ロケット弾などで武装している。
さらに地上でもあの車両基地で見かけた自走式多連装ロケットランチャー通称カチューシャと呼ばれていたロシアのロケット砲搭載トラックが三台ほど寮に向けて並んでいる。
撃つ気なのか?
俺の知識では命中率は極めて低いため多連装にすることで弾が多ければ当たるみたいな感じだったと思ったのだが、このまま撃てば数発は寮を打ち抜くことになる可能性は高い。何せ無誘導だからな。
よって威嚇のために出したのだろう。
それにしてもあんな大戦時の兵器をどうやって手に入れたのやら、払下げとかで安く手に入れたりしたのだろうか。
そんなことを考えている場合ではない。
次々にMP5を肩にかけて着地していく迷彩服の男たちは屋上に飛び出している出入り口をC4か手榴弾で爆破したのだろう。
一瞬光った後で轟音が響き、黒い煙が上がっている。
もう侵入されたようだ。
ようやく俺も寮の自転車置き場まで来て、適当に放置して寮に走る。
だが寮の入り口は狭い上に逃げる生徒でごった返していて入ることは難しい。
裏手に回ってみるがそこも逃げる生徒でいっぱいだ。
仕方なく一階の窓をランダムで破壊してそこから中に入ることに成功した。その部屋はどうやら舎監室のようで人はいない。
廊下はまだ生徒で混乱状態だ。
舎監室の中の棚にかかっている防衛用の武器が置かれている。
M16、G3、PPKなど多くの銃が保管されている。
こいつだけではパワー不足になるかもしれない。
俺は中でもPPKを取った。
こいつだけがサブマシンガンだ。
今は威力よりも弾数を優先するべきだろう。敵の数が的確に分かっているわけではないが多いに越したことはないだろう。射殺することはできないのだから。
俺が準備を終える頃にはもう廊下に人は少なくなっていたので、すぐに二階に上がることにした。
俺の部屋は二階の一番奥だ。ここでの奥は屋上の出入り口から見てということなので、二階の中では比較的安全な方だ。
二階へも慎重に上がる。一応リアと準司に護衛をお願いしたが、もう既にやられている可能性もある。
だが、二階には誰もおらず、三階から銃撃が聞こえる。
まだ負けたわけじゃない。
廊下を俺の部屋の方向へ移動する。
距離は三十メートル、一番奥で廊下の突き当たりの右側だ。
突如、突き当りの窓から人影が見える。
壁伝いに降下してきたのか?
咄嗟の判断でPPKを乱射して進む。
窓ガラスを俺の銃弾がぶち抜くが防弾チョッキを貫くことはできない。
そのまま廊下に侵入する迷彩服の男はこちらへ『MP5』で乱射、威嚇のつもりだろうが、十分過ぎる。
適当にドアを開けて盾とする。
ここの部屋は基本的に防弾製である。
銃弾は金属製の重たい扉がガードしてくれている。
銃声が止むのと同時にドアから飛び出し突撃する。フルオートで撃ちながら、向こうの銃弾を躱して距離を詰めた。
弾道が読める以上、これくらいのことは容易だ。
向こうがナイフを出したのをPPKのバレルをぶつけてへし折り、顎に重たい一撃を食らわせて昏倒させる。
でもこれで終わりならどれだけ良かったことか。
―――――バリィィ――――ン!!!
俺の部屋で窓の割れる音がする。
すぐドアを開けるが銃弾の射線を感じ、開けたと同時にドアの横に身を隠す。
案の定、銃弾は扉を抜けて後方のコンクリートの壁に当たり、壁は傷つき、銃弾は潰れ廊下に転がる。
それも二、三発ではない。
数十発単位で飛んできていたのだ。
扉から先に侵入しているはずの味方がいないとなれば、開いたドアから入ってくるのは敵以外にいないだろう。
初撃を躱した俺は自分の部屋に入った。
扉のすぐ横、壁に寄りかかるように準司が倒れている。
気を失っているわけではない。まだ意識はある。おそらくは蹴り飛ばされたか殴られたのかどちらかだろう。
だがしっかりと少女は抱えたまま決して離そうとはしていない。
狭い部屋の中にいたのはガタイの良い迷彩服に黒の防弾チョッキを着た男が三人だ。
その中に中年の男が一人、そう保安局の戸村がいたのだ。




