Military Academy(10)
来た道を引き返すのは、あの数相手には難しい。
ならば、もう一度正面に回り込むのが最良と言える。
他のメンバーも気になる所だなどと考えていると師匠から着信が来た。
「もしもし」
『もしもし、じゃないよ!! 心配したんだよ!! 大丈夫なの?』
「こちらは大丈夫です。師匠こそ、無事ですか?」
『こっちは大丈夫だよ。警察入って来て任務の引き継ぎとか言われて、もうみんな解散しちゃったんだよね』
「そうですか、みんな無事なんですね」
『そうだね、君はこれからどうするんだい?』
「今日は特に他に依頼がないので俺も家に帰ります」
師匠に嘘を付いてしまったが、ここからは俺一人で十分だ
『そっかー、わかったよ。寄り道しないで帰るんだよ。』
お前は俺の母親かよ。前から思っていたが、この人は俺に対して過保護すぎだ。
「わかってますよ。それでは」
『うん。またね~』
師匠との通話を切った直後にメールが一件届いた。LEGEND月宮学園の生徒会からだ。
受けた依頼のことだろう。
内容は今の依頼ではなく、その前から受けていた依頼だ。
俺が事前に確認した公開情報は、報酬が二十万円、依頼内容は保安局による作戦の妨害だった。依頼者は京都のとある有力者らしい。
変更内容は場所で、本来ならば港区だったのだが、保安局の作戦エリアに変更があったらしく、品川シーサイド近くとなっている。
さらに、追加情報があり、本来五時からの作戦が一時間前に実行されたことが判明し、至急向かってほしいとのことだった。
このことから、今受けているミッションと次に受ける予定だったミッションが最終的に交差したことがわかる。
俺が倒そうとしていた保安局の連中は、どうやら次のミッションの妨害相手だったようだ。こういうのを一石二鳥と言うのだろうか。
作戦は概ね成功したように思える。彼らの妨害どころか、取引の物(少女)まで奪取することに成功している。
このまま帰っても良かったのだろうが、俺は正面に回り込んだ。
そこで聞こえてきたのは銃撃音だ。
もうすでに戦闘は開始されている。
この依頼を受けたのは俺だけではないので当然と言えば当然だが、廃ビルの内部で戦闘が行われているため、様子を詳しく確認することはできない。
俺が今日依頼を受けていた本命のミッションだ。時刻通り間に合ったようだ。
覆面の警察車両は数台とワンボックスカー数台が狭い路地に乱雑に停まっていて、それを塞ぐようにこっちの味方の車が路地を塞ぐように停められている。
戦場は乱戦となっており手榴弾やRPGなども使われている。
俺は奪ったマカロフで廃ビルから逃げ出てきた保安官を牽制しつつ、接近して防護用ヘルメットを銃のグリップで強打し、気絶させていく。
三人ほど倒したところで、二階から制服の男が降って来たので、後退しマカロフを構えたが、すぐにガンホルダーにしまった。
「遅かったやないか、お前なら先来て、ある程度片づけたりしてると思ったんやけど」
二階から勢い良く飛び降りてきたのは二年強襲科の石木田鉄二、戦闘を極度に好む性格の男だ。よく受けた依頼が被るので知り合いとなった訳だが、今では戦友だ。
短髪のツンツンした髪に高身長、中学まではバスケットボールをやっていたらしい。
察しの通り荒っぽい性格で関西弁を使い、愛用銃はH&K G36Cである。
「さっきまで別ミッションだったんだよ」
「そりゃキツイわな」
「状況は?」
「二階までは制圧、後はよう分からへんな」
鉄二は説明中も一階や三階から顔を出した敵に向かって制圧射撃を続ける。
「上は誰かいるか?」
上を見上げるが、見えるのはMP5のマズルだけだ。
「上は逆に陣取られてとるねん、せやから下から攻めとるわけよ」
「俺が行こう」
「おう、期待して待ってるで」
廃ビルの真下の方が安全なので、それに沿うように前に上った隣のマンションに向かおうと思った矢先だった。
路地の中央に黒い影が出現したのだ。
思わず俺も鉄二も二、三歩下がるように後退し上を見れば、四階で会った戸村と呼ばれていた奴だった。
三階から飛び降りたのだろう。
このことには驚かない。俺もそれくらいはできる。
だが、何かがおかしい。
ガタイが良いのは言うまでもないことだが、先ほど見た時と雰囲気が全く異なっている。
地面に普通に着地した男の顔は深いしわがあり、獲物を狙う様な異様なほどに鋭い目つきで睨み、俺たちを牽制している。
状況はそいつの正面に鉄二、後方に俺、丁度間に割って入ったようになっている。一見、有利そうにみえるが、わざと割って入ったのなら話は別だ。
「なんやコイツ!!」
反射的にH&K G36Cを乱射するが、当たりそうな弾だけを素早く躱し、鉄二に接近する。
遅れてマカロフで攻撃を加えるが見向きもせず躱されてしまう。
鉄二はG36Cを放棄して背中に隠してあったショートサーベルで反撃するが、一振り目を躱されそのまま殴り倒された。
アイツはそんなに弱いわけではない。あの男が強いのだ。
「一佐!! 援護します!!」
そう叫んだ男は、戸村の方を見て言った。おそらく一佐とは自衛隊の階級の事で、戸村が一佐ということだろう。
俺が接近を始めようとした直後、後方上からMP5が火を噴く。
射線を避けるように移動するが、後ろからというがまずかったのだ。一発が右腕をかすめる。
このまま後ろの奴らを叩きたいところだが、コイツに背を向けることは危険すぎる。
ならばここは前進するまでだ。
「ウォォォ――――」
マカロフを連射し突っ込む。
男の方の能力なのだろう。
今までの俺のように何事もなく躱されてしまう。
弾切れになったマカロフを捨てて、ファイティングポーズをとる。
それに合わせるように戸村も同じポーズを取った。
後ろのMP5は俺を追尾するように9mmパラベラム弾が迫る。
一発目を大振りで殴るがさっきの二の前と言わんばかりに躱されるが、狙い通りだ。戸村は態勢が崩れた瞬間を狙って攻撃するが、もう片方の腕を出し受け止める。
そのエネルギーを利用して、戸村の後ろ側、鉄二が倒れているところまで移動する。
「動けるか?」
「ワイにかまうな、戦え!!」
ゆっくりと起き上がり、下がって行く。
戸村が振り向くまでの時間SIG SAUER P220で三階のMP5を破壊していく。
「君のことは資料を見ただけだったが、どうやらそれ以上のようだな」
「へぇー、俺も有名になったものだな」
「それでヴァイス ツヴァイはなぜそいつを抜かない?」
腰の双剣を指して言う。
「アンフェアだろ、それにコイツは無能力者用の武器ではない」
「なるほど、ならばこうしよう」
右腕を前に突出し力を込める。
「何をする気だ?」
「見ていろ、これが破滅LV-10(オール デリート)だ」
黒いガス状の何かが腕にまとわりつくように流れ、たちまち手から肘までを黒く覆ったのだ。
その腕で地面を殴る。
普通ならヒビも入らないはずだが、アスファルトは広範囲にひび割れ始め、その中心地点はクレーターとなる。
俺は一歩下がり飛んで来る瓦礫に腕をクロスにしてガードした。
「どうだ? これでも剣を抜かないのか?」
何がしたのかはわからんが、この状況で抜かなければこっちが死ぬ。
あの能力の属性は五つに分類されないものだ。稀にいるらしい。超粒子を自在に操ることができる能力者、あの場合はマイナスを使えるらしい。
俺は右剣に手をかけた時だった。
風は強く吹き、ローター音がうるさく鳴り響く。
同時に空を見れば側面には安局と書かれたヘリコプターUH-60Jが廃ビルの上を低空でホバーリングしておりUH-60Jの扉がスライドして開く。
「ここまでのようだな」
「逃げるのか?」
「これ以上の足止めは無意味だ。被験体の場所を特定した。さらばだ」
「待て!!」
P220で射撃するがことごとく躱される。
戸村は俺が前に使ったアパートではなくその逆側にある非常階段を上っていく。
それを追いかけるが速さが尋常ではないのだ。
俺が一階上る間に向こうは二階上るので追い着くことができない。
双剣のアンカーを飛ばすことも考えたが、エアーの制限があり使えるのは二回まで、無駄遣いはできない。
そう言っているうちに戸村は六階まで辿り着き、廃ビルに飛び移る。
その滞空時間を狙ってP220で発砲し、見事命中したが防弾チョッキの上で効力は皆無、そのままUH-60Jから垂れている梯子に手をかけた。
P220のスライドがオープンし弾切れを知らせている。
俺が六階に到達した時にはUH-60Jは上昇を始めていた。廃ビルに飛び移りP220を構えるが装弾数はゼロだ。
そのままUH-60Jが飛び去る方角は南西だ。
その方向にあるのは横浜市だ。
どうやら向こうの情報に誤りはないようだ。
ならば俺もあれより他は追いかけるしかない。
廃ビル内の制圧は終了しており、ミッションはコンプリートされていた。保安官八名を確保、他は逃げられてしまった。こちらは負傷四名だけだった。
すぐにバイクを取りに行き、横浜市へ向かった。




