Simultaneous Incidents(9)
再び草藪に入りしばらく走る。
「イリス」
「何でしょうか、リアさん?」
「そう、それよ」
「?」
イリスは首を傾げる。
「ここからは本気の戦いになるわ。だから私のことはリアでいいわ」
この方が戦いやすいだろうという考えだ。
「……年上は敬うべきかと」
「それはその通りね、でも私たちはこれから戦友となる訳だし、呼び捨てくらいがちょうどいいと思うわ。それに戦闘中にお互いを呼び合う時に文字数はなるべく少ない方がコウリツテキだしね」
「……それなら納得です。では次からはそう呼ばせてもらいます」
「オッケー!!」
「そろそろ道に出ます」
それから数百メートル走った先、開けた場所に出る。
舗装された細い道路が通っており、大きな倉庫が三つほど建っている。
他に人影はなく、車が近づいて来る様子もない。
「血痕はあの倉庫に続いています」
真ん中の倉庫へと続く血痕は空いているシャッターを奥まで続いているようだ。
私はDenel NTW-20のスコープの倍率を十倍にして覗く。
「ダメね、中は良く見えないわ」
「私が先行します。リアは狙撃できるポジションへ――――」
「いや、私の一緒に行くわ」
「!?」
イリスが驚いたような表情をする。それもそうだろう。私は完全に狙撃オンリーのイメージがついているからだ。
まあ、東京湾での戦いでは甲板上で接近戦したんだけどね、そういえば、あの時はまだイリスはいないかったっけ……。
「大丈夫よ、私、以外と近距離戦も強いのよ」
「……わかりました、では行きましょう」
私の目をしっかりと見た後で、ここで口論しても仕方がないと判断したのか、実力を信じてくれたのかはわからないけれど、すんなりと了承してくれる。
なるべく足音を立てないように倉庫の近くまで移動する。
周囲に人の気配はない。
倉庫の中に耳すますと、何やら女の会話が聞こえて来る。いや独り言だろうか?
「……はぁ、まさかあの女を逃がすために犠牲になるとはね。愚か、愚かの極ね」
「……これからどうしようかしら? ……ねぇ、お姉ちゃんが話しかけた時は必ず返事しなさいって教育したはずなんだけどなぁ~」
どうやらここで正解のようだ。
私はDenel NTW-20で攻撃するため構える。
イリスが私にアイコンタクトを送って同じタイミングで飛び出す。
「――――動くな!!」
私はDenel NTW-20を、イリスはWalther P99を構える。
倉庫の中ではしゃがんだ姿でLEGEND月宮高等学園の制服を着た女が床で倒れている女子生徒に話しかけている。
床で倒れているのは……、東条さんだった。
「よくも東條さんを!!」
その瞬間、怒りが沸き上がり声を抑えることが出来なかった。
東條さんの制服は血まみれではあるが、床に広がってはおらず、掠り傷程度で返り血を浴びたように見える。ということは服について血液はリリスのものだろうか。
女は向けられた銃口におびえることなくゆっくりと立ち上がる。
「……はぁ、うるさい女ね」
「――――動くな!!」
イリスの静止を無視して立ち上がる。
―――――――ドゴォォォォォ――――ン!!!!!!
Denel NTW-20から発射された20×110mm徹甲弾がもの凄い轟音を倉庫内に響かせる。
――――――ギィィィィ――ン!!!!
「くだらないわね」
「どういうこと!?」
私の放った銃弾は女の横を通り、倉庫の壁に大穴を開ける。
その一瞬で何をしたのかはわからないが、気が付けば女は抜刀していたのだ。
「まさか、刀で防いだというの!?」
私は殺すつもりで狙った直撃コースの銃弾だった。それにも拘わらずたった一振りの斬撃で防いだというのだろうか?
「これくらい当然でしょ?」
「……あなた、何者なの?」
「あなたたちに名乗る義務はないけれど、こちらも聞きたいことがあるから特別に答えてあげるわ」
聞きたいこととは何なのかまったく予想がつかない。
東條さんと同じ濃い紫髪のロングヘアーにダークバイオレットの瞳、自ずとその見た目で察する。
「私は東條凪流羽、東条家の時期当主であり、羽朱明のお姉さんよ」
刀を納刀しながら髪を靡かせそう言ったのだ。




