Sports Festival ~Last Part~(3)
一から三試合を観戦した俺たちは一度、大講堂へと撤収する。
東條曰く、今のデータから戦い方を改めて考えるためだ。それと体育館の中が予想以上に暑かったというのもある。
大講堂はエアコンを付けっぱなしで出て行ったのでスーパーの生鮮食品売り場のように冷えている。
そして教壇の上に体育座りで真っ白なパンツ丸見えな女子生徒が一人ぽつんと佇んでいる。ただ俺たちが入って来たとわかると突然立ち上がったのだ。
「――――遅いじゃない!! 遅刻よ、ち・こ・く!!」
教壇の上でヒステリックな高い声を上げている小さな女子生徒がビシッと大講堂に入る俺たちを指差した。
真っ赤なロングヘアーを揺らしながら教壇を降りてゆっくりとこちらにやって来る。
「……確か、リリス・シュヴァルツバルトだったか?」
「そうよ、って何でフルネームなのよ!!」
何だかとても機嫌が悪い、……面倒くさい奴だな。
「そんなことどうでもいいだろ? どうしたんだ、俺たちに何か用か?」
「何か用って……、あなたたちが私を呼んだんじゃない!?」
「呼んだって……」
俺は全然お呼びではないのだが……、もしかすると……。
「俺たちの助っ人ってまさか、お前なのか?」
「何で知らない風なのよ、……私はあなたたちの助っ人としてユークリッドから呼ばれてやって来たというのに……、誰もいないから、ユークリッドに騙されてかと思ったわよ」
怒っているのと泣きそうなのと半々みたいな顔で俺たちを睨んだ。
「誰かと思えばリリスじゃないか」
どうやら東條はリリスのことを知っているようだ。
「羽珠明じゃない。あんた東京じゃなかったっけ?」
「あなたこそ、祖国に帰ったと聞いたわ」
「こっちは色々あったのよ」
「こちらも色々とあったわ」
「随分仲がいいんですね?」
「東京に居た頃って言っても中等部時代の仲なのだけど、一緒の学校だったのよ」
「なるほどな、それで仲がいいのか」
「一緒に依頼を受けるくらいにはね」
「何はともあれ、リリスが助っ人ならば戦力としては十分だと思うわ」
この前はイリスに負けていたし、あんまり強い印象はないが、東條を組むくらいなのだから強いのだろう。
「小宇坂、疑っているわね」
俺の方を静かに睨む。
「そんなことはない」
感が鋭い奴だ。
「それで、どこに行っていた訳?」
「体育館で試合を観戦していたんだ。聞いてなかったのか?」
「……私は初めて参加するんだから、知ってる訳ないでしょ?」
「その辺の文句は千手院先生に言ってくれ、時間も無いし、早速始めたいんだが……」
東條は仁王立ちしているリリスをスルーしてホワイトボード横のスイッチを操作し始める。するとホワイトボードの上部から巨大なスクリーンが降りて来る。そしてカーテンが閉まる。
リリスはかなり不満そうだったが、渋々、席に移動したので、俺たちも前列に座る。
東條は手際良く、ホワイトボード横の黒い移動ラックからHDMIケーブルを取り出し、ビデオカメラに端子を接続する。さらにラックの中からリモコンを取り出し大講堂の一番後ろの天井に取り付けられているプロジェクターの電源を入れるとメーカーロゴがスクリーンに投影され、ブルースクリーンに『信号入力無し』と表示されている。
「照明を消すわ」
照明を消すと体育館のスクリーンよりは小さいものの、迫力は十分だろう。
「みんな、準備はいいかしら?」
東條の問いかけに各々返事をする。
「初めに、再度三試合分をまとめて見て貰ってから、それぞれに意見を言ってもらうと思っているわ。それでいいかしら?」
「ああ、大丈夫だ」
きっとその方が良い意見が出るだろう。
東條がさっそくビデオを再生し始める。
十五分の試合が三試合なので計四十五分のビデオを改めて見る。音は体育館内の雑音がかなり含まれていたので、音量を大きく絞る。音が無くとも映像が見られれば特に問題は無い。
ニルは途中でつまらなくなったのか、ずっとスマートフォンを弄っていた。それ以外は真剣な表情で最後まで動画を確認していた。
俺が三試合をもう一度見て分かったことをいくつか話そうと思う。モニター越しであるために実際の状況とは少し違うかもしれないということだけは言っておこう。
どの試合も戦闘開始直後に、フラッグのある二階に繋がる階段に机でバリケードを展開して防衛していたようで、旧校舎の機材を有効活用するということを全く考えていなかったため、少し驚いた。今年が初めてなので例年のことであるかは分からないが、共通の戦術が取られていたのは事実だ。それに屋外はあまり利用していなかった。また利用した場合にも二階、三階の校舎の窓から攻撃を受けており、あまり有益には使えないようである。
勝敗の分かれ目は屋上を確保したか否かに強く依存しており、上を取った方が圧倒的に有利であるようだ。また三試合中フラッグを破壊して勝利したケースは一度だけ、後は時間切れによる生存者数による判定勝ちであった。
ちなみに射撃部VS諜報科合同チームでは射撃部が勝利し、俺たちの一戦目の対戦相手は射撃部に決まった。
ビデオの上映は終了し、東條が照明をつけた。