Sports Festival ~Last Part~(2)
ただ、ここでは突っ込まなかったが、この作戦について懸念事項が一つある。
それは情報収集という点だ。確かに情報を集め統合的に判断することが求められるが、何せフィールドが狭い。敵の動きを全て把握できても、一瞬にして戦況が変化することが十分に有り得る。
東條の考えは月宮時代のフラッグ戦で通用する基本的な考えだ。月宮の時は演習場を貸しきって数キロ四方の広大フィールドの中、クラス対抗で行なわれていたため、偵察による情報収集により敵の動きをマッピングすることに大きな意味があったが、今回の場合はフィールドが狭いため、相手のポジションが数秒ごとに刻々と変化する。よって情報収集がどれほど役に立つかは未知数だ。
「チーム名は二年守護科です」
「そのまんまだね」
ニルの言う通り、そのまんまだな。何か捻りが有った方が面白いのではないかと思ったが、俺も特に思いつかなかったので何も言うまい。
「言っておくけど、私が考えた訳じゃないからね。申請したのは千手院先生だから」
文句は自分の言うなと言いたいのだろう。
千手院先生ならば、そう書くだろうと容易に想像できる。感情表現の乏しい人だからなあ。
「話は以上、トーナメント表はもう発表されていると思うから、確認してから観戦エリアに移動しましょう」
まだ話していなかったが、試合の観戦は直接ではなく、体育館に特設された○○インチスクリーンに投影される定点および移動式のカメラ及びドローンからの空撮の映像を見ながらになる。理由としてはペイント弾とは言え、流れ弾が飛んでくる可能性があることと、結局旧校舎内の様子はカメラ越しでなければ見られないからだ。
既にトーナメント表体育館前に張り出されており、体育館内のスクリーンに投影されている。
体育館前のトーナメント表には生徒が群がっており、見られそうにないので体育館の中へ入ることにした。
体育館内は既に観客で賑わっており、並べられた大量のパイプ椅子の半分以上は埋まっている。また体育館の一角にはVIP専用スペースが設けられている。
「凄いね、何か映画館みたい」
「そうだな」
体育館は暗幕のカーテンで窓の光が遮られており、スクリーンの明かりで薄暗く照らされている。
スクリーンのトーナメント表には出場チーム十四組、シードが二つあり、俺たちはシードに割り振られており、順当に行けば試合順的には午後の二試合目なるようだ。
「午前中は暇になりそうだな」
俺たちの第一試合は十三時三十分からなので、それまでは試合観戦になるが、体育館はエアコンの効きも悪いし、そうそうに退散したいものだ、
「最初の三試合が次の対戦相手になるから、そこだけ押さえて、一端教室に戻りましょう」
「それもそうだな」
「賛成だね、絶対暑いもん」
「相手のデータを持ち帰って、分析した方がいいわ」
どうやら定点カメラを設置して戦闘の様子を録画するらしい。少し引くレベルで東條は気合が入っている。恐らく昨日の結果に満足しておらず、そのせいか、今日こそは良い成績を残したいのだろう。東條の負けず嫌いには困ったものだが、決して悪いことではないし、俺もそこまでではないが負け嫌いな部類ではあるだろう。
「席だけ人数分確保してもらえる?」
「それはわかったが、どこ行くつもりだ?」
東條はビデオカメラを雲台に装着した三脚を片手にどこかに行こうとしている。
「ここじゃあ後ろの人の邪魔になるから、上にカメラ置いてくるわ」
そう言って、体育館の周囲に二メートルくらい高くなっている観戦用のスペースにカメラを設置しに行ったようだ。
前の方は既にクラス単位で陣取られていたため、比較的後ろの方で、かつ端の方を三席二列で取った。
「両手にフルールとはこのことだね」
俺の真後ろに座ったリアがフランス語交じりでつっついて来る。俺は前列に座ったことを後悔する。
「うるさいぞ、リア、変なこと言うなよ」
「いいじゃん、いいじゃん、というかよく考えたらハーレムって奴だよね。守護科はソウスケ意外みんな女子だし」
「ハーレムかどうかは分からないが、全員女子なのは事実だな。……それじゃあ、準司辺りを呼んで来ようか?」
俺の男の友達と呼べる相手は準司くらいしかいない。
「うーん、……それは別にいいかな。準司がいるとうーちゃんを怒らせそうだし」
「確かに、その可能性は否定できないな」
あいつは空気が読めないし、不真面目な態度も東條の気に障りそうだ、
アイリスとイリスは会話について行けずにぽかんとしている。
「準司は前の学校の友達だよ」
「だからみんな知ってるんだね」
「ああ、俺たち全員同じ学科だったからな」
「そういえば宗助くんって月宮学園では何科だったの?」
どうやらアイリスには言ってなかったというか、月宮でのことはあまり話していないように思える。
「国際科だよ。こっちには無いみたいだけど」
「国際科? 何をする学科なのかあまり想像がつかないなあ。きっと語学を学ぶんだよね?」
「大体そんなところかな。LEGENDは海外への派遣も念頭においているから、外国の部隊とも意思疎通を円滑にするために設けられているってとこかな」
「そういえば、変な外国の人が来た時も英語?か何かで話してたよね」
「あの時は、フランス語ね」
ニルが後ろから俺とアイリスの間に割って入る。
「よく考えると俺たち三人はフランス出身だよな」
「フランス率が高いね。まあ、私はブルガリア人とのハーフだけどね」
「そろそろ、始まるわよ」
いつの間にか戻って来ていた東條が静かに言う。
第一回戦、射撃部VS諜報科合同チームの試合が始まる。勝ったどちらかが俺たちと当たることになる訳だから、真剣に見ておかなければいけない。