Sports Festival ~Last Part~(1)
~Third Day~
普通科の体育際は二日目で終了したので一般の体育祭を表体育祭とするならば、三日目は裏体育際と言ったところだろうか。
体育際三日目は攻城戦と言われる競技がトーナメント制で行なわれる。
三日目は強制ではなく自由参加のイベントとなるため、厳密には一般科でも参加は可能である。
参加してもしなくても成績には影響して来ないが、この戦いは理事会や省庁の上層部も観戦しているため、優秀な戦績を修めれば就活なんかにも有利に働く。
俺の場合は単純に面白いから参加しているだけで特に打算的な要素はない。
簡単に説明するとペイント弾を使用した模擬戦のようなもので、フィールドは旧校舎、お互いの陣地があり、フラッグが立てられている。人数は最低七人、最大で十五人で参加できる。ルールは簡単で相手を全て倒すかフラッグを破壊した方の勝ちである。
厳密に説明するとペイント弾が一発でも命中すれば退場となるが、例外があり、着弾場所が頭部以外の厚さ十ミリ以下の防弾素材に命中した時のみ有効弾とみなされる。また頭部に故意に命中させた場合、ペイント弾以外での攻撃、故意に校舎を破壊する行為、以上三つに該当する場合は反則負けとなるので注意が必要だ。
使用できる武器は学園側で用意したペイント弾が撃てる特注品の銃だけで、軽機関銃、短機関銃、拳銃の中から好きなものを一つだけ選ぶことになるが拳銃だけは二丁持ちも可能だ。しかしマガジン数は変わらないので、実質一マガジン増える形だ。ちなみに軽機関銃はMG3、短機関銃はM4 Carbine、H&K USPとなっている。
弾薬の補給は無制限だが一回一回自陣に戻る必要があり、所持できる弾倉数にそれぞれ制限があり、MG3、M4Carbineならばワンマガジン、H&K USPならばツーマガジン所持できる。このルールから分かる通り所持できる弾薬数だけで考えるならばMG3が有利でH&K USPが不利になる。よって大抵の人はMG3を選ぶ。
拳銃以外にも攻撃には使えないが模造刀や防弾チョッキの貸し出しも行なっている。
エントリーは既に締め切られており、俺たちも参加することになっているらしいのだが、肝心の一人の面子やって来ない。
もう一つ大事なルールがあった。能力の使用についてである。使用できる能力の条件として相手に攻撃を加えないものに限られる。
冷房の効いた静かな大講堂ではキュッキュッと壇上でマジックを持って見取り図を描いている東條に五人の注目が集まる。
かなり真剣な表情であるため、周りのみんなも少し緊張している。
俺も楽しむためのイベント程度にしか考えていなかったのでこの雰囲気に違和感を覚えずにはいられない。
「それでは作戦パターンについて説明します」
旧校舎の構造は単純で、三階建の一直線の廊下がありその左右に教室が並んでいるだけ、階段は二ヶ所、それぞれ校舎の両端の方に配置されており、中央から切るとシンメトリーな構造になっている。お互いの陣地は二階の教室となっているが二階の廊下を丁度同じ長さに二分するように仮設のタイガーボードの壁が設置されているためお互いに攻撃する場合は上か下の階から二階にアクセスする必要がある。またそれぞれの廊下は旧体育館や旧部活棟に繋がっているが、そちらには行けないようにこちらも同じくタイガーボードの壁が設置されている。
さらに旧校舎の周囲を囲むようにポールが立っておりそれらを黒と黄色のトラテープで囲っている。この範囲内もフィールドとみなしている。
ただ使い道が見当たらないように思えるかもしれないが旧校舎の玄関、教室などの扉及び二階以外の窓は全て取り外されているため以外と色々な所から校舎内アクセスすることができる。二階はフラッグのある教室だけ木の板で窓が完全に塞がれている。
「まず初めに配置ですが、アタッカーが私と小宇坂くん、フラッグガードがイリスさんオフェリアさんと角谷さん、アイリスさんと助っ人の方はミドルポジションとします」
ホワイトボードの端に並んでいる青色のマグネットを配置する。
「この校舎の構造上、階段を守ることが重要になります」
今回のフィールドは狭い上に建物がメインとなっている。月宮時代は横浜司令部の軍事演習上を貸しきって、リアルな森の中でフラッグ戦を行なった。そのためか少しもの足りなさを感じる。
「パターンを説明する前に、各人の基本的な動きについて説明します。まずフラッグガードはイリスさんの能力を楯として防衛してもらうことになります」
敵からの攻撃は全てイリスのアブソリュートの能力で遮断し、後方に構えたニルとリアによって殲滅する。またリアは屋上が確保できた場合には外からの敵に対して狙撃を行なう。ニルはできるだけ後ろからイリスの援護をする。アイリスと助っ人は敵の動きを見つつフラッグの防衛に当たるのか、特定のポジションをキープするかのどちらか状況に応じて対応することになる。
「作戦中の指令役は角谷さん、イリスさんの二人にお願いすることになるわ。それと戦況把握としてオフェリアさんにお願いすることになるわ」
「――――ちょっと待って、うーちゃん。……私が指令役なの?」
慌てた様子でニルが会話に割って入る。
「そうよ。本当ならば私か小宇坂くんが適任でしょうけど、人数的も不利なこのチームで勝つためには使える戦力を陣地で寝かせておく訳にはいかないわ」
「でも、でも、私には無理だよ。実戦経験とか皆無だし……」
「大丈夫よ。あなた一人に任せるとは言ってないわ。イリスさんもいるから、心配ないわ」
それでも心配そうな顔でニルは俯く。
するとイリスがその場で立ち上がり、そのままニルの隣に座る。
「問題ありあせんよ。アイリスさんリアさんが情報を収集し、それを総合的に判断して攻撃側に伝えるだけです」
イリスはさらに「インカムの使い方が分かれば大丈夫ですよ」と付け加える。
「そんなに深く考えるなよ。指令役って言っても実質的には俺たちが把握しきれていない部分を伝えるだけだぜ」
「そうかもしれないけど、自信がないのよ」
「自信なんて経験がないのなら無くて当然でしょ?」
東條がビシッとニルを指差した。
「出来るだけみんなでカバーするから頑張りましょう」
「……そこまで言うなら」
渋々納得しているニルの横で「頑張りましょう!!」とアイリスが励ます。
俺たちの配置はこれで決まった。後は作戦次第だ。