Sports Festival ~Second Day~(13)
体育祭の後、それぞれ一旦帰宅した後でなぜか俺の部屋にオードブルやジュースなど色々なものを持ち込んで表の体育祭の終了を祝いパーティを開いていた。
「どうして俺の部屋なんだか……」
「そりゃあ、イチバン片付いているからよ」
「何だそりゃ?」
「女の子の部屋は誰か入れるにも掃除が必要なのよ」
「ごめんね、宗助くん」
「すまないな、小宇坂くん」
アイリスと東條は少し申し訳なさそうだ。
「まあ、こんだけ喜んでるならいいけどよ」
ニルとリアがドンチャン騒ぎをしている。
東條とアイリスもそのテンションに釣られるようにいつもよりもノリがいいように見える。イリスは相変わらずだ。
「ソウスケも食べなよ!!」
「おい、ちょっと待てって……」
とりあえずって感じでじゃがりこを突っ込んでくる。
「どう? 美味しい? 美味しい?」
「そりゃ美味しいだろ、じゃがりこだし」
「宗助も楽しもうよ、こんなこと中々ないっしょ」
「……ニルの言う通りだな」
「何がいい?」
「じゃあ、コーラで」
「了解!」
こんなにゆっくり時間が流れるのもそうないだろうし、ニルやリアの言う通り今を楽しんだ方がいいのかもな。
体育祭の方はトラブルもなくって言うとバスケでの一件があったが、怪我なく終えることができたのは良かった。
女子ばかりの宴会だからだろうか? オードブルを4、5人前のものを選んだのだが、結構残っている。お菓子とジュースでお腹いっぱいになってしまったのだろうか。
ニルはスマホを弄りながら俺のベッドで勝手に横になっている。
イリスも同じベッドに腰かけているがウトウトしている。
東條とリアはテレビを見ながら月宮に居た頃の話で盛り上がっている。アイリスも一緒だ。
女子会に水を差すもどうかと思うし、ちょっと夜風にでも当たって来るか。
ベランダの窓をそっと開けて出てみる。
ベランダからは見える風景はどこにでもある静かな住宅街だ。
夜風はまだ少し冷たいかな。
最近、一人になることが少なかった。これは向こうにいる時にはなかったことだ。基本的にはワンマンで戦ってきたからな。
一人で外を眺めていることからもわかるが、まだ、この雰囲気に馴染めていない。九割女子会というも原因の一つかもしれないが……。
「宗助くん、こんなところに居たんだ?」
「ん? アイリスか、どうしたんだ?」
「別に用事があった訳じゃないけれど、宗助くん何だか話にあまり入って来なかったから」
気を使わせてしまったか。
「女子会に水を差すのもどうかと思ってね」
「そんなこと気にしなくてもいいのに……」
「言っても、着いて行ける話題が少ないのも事実だし、みんなが楽しいならそれでいいさ」
女子会特有というか、男には無縁の話も多かったりするしな。
「アイリスこそ、どうしたんだ? もっと話に混ざってきた方がいいんじゃないか?」
「あはは……、実はあんまり話に着いて行けなくて」
「あいつら東京での話で盛り上がってたもんな」
「私、東京のこと全然知らないから」
そりゃあ、行ったことがないなら当然だろう。
「知らない話されても分からないよな」
「宗助くんは東京に住んでいたんだよね?」
「正確にはそのお隣の横浜だけどな、依頼とかで行くことがあったが、それも月多くても二、三回くらいだったから、正直、詳しくはないな」
「そうなんだ」
「東條は東京支部所属だから詳しいのは当然だし、リアは毎週のようにショッピングに出かけていたから詳しいんだろうな」
「でも楽しそうだよね、一度は行ってみたいかな」
「それなら夏休み明けに見学旅行があるから、そこで行くんじゃないかな?」
「そうなんだ」
「去年、月代の生徒が横浜司令部に見学に来ていたはずだから、今年もそうなんじゃないかな?」
「そっか、まだ先の話だけど楽しみだなぁ」
東京って行く前はなんかよくわからない凄い場所ってイメージだが、実際行ってみるとただ人がいっぱいいる場所って感じだ。ショッピングをするならば何でも揃うだろうし、女子的には楽しめるのだろう。
「その時は色々と案内するよ」
「うん、お願いね」
「その代わり、こっちでわからないことがあった時はお願いするよ」
「任せてって言えるまでこっちに居ないけど、頑張るね」
「アイリスはこっちには三年くらいいることになるのか?」
「う~ん、中等部二年生からいるから、そうなるかな」
「こっちではどうしてたんだ?」
そいえばこの前は聞きそびれてしまったからな。
「どうって言っても普通だよ。LEGENDに助けてもらってからは定期診療で経過観察を受けながら、学校に通わせてもらってる感じかな?」
確かに普通だ。記憶がないのだから母国への愛着もないだろうし、フランスに帰りたいとかそういのもないようだった。そのおかげで危険から自然と回避できている。
「その間で何か思い出せたこととかあるか?」
「それが全然思い出せなくて、でも」
「でも?」
「高い所が苦手かな」
高い所から落下したのだから当然だろう。記憶にはなくても体は覚えているということだろうか。
「じゃあ、あの時タワー上った時も我慢していたのか?」
それは初めて聞いた。
「いや、それは大丈夫だったの、どうしてなのか分からなかったけど」
「そうか」
「もしかたら手を繋いでいたからかもね」
アイリスの顔が少しだけ赤いような気がした。
「ここも二階だが大丈夫か?」
「ちょっと怖いけど、大丈夫だよ」
「……手、繋いでみるか?」
「えっ? えっと……」
アイリスが後を振り返り、リアたちがベランダに来なさそうな雰囲気であることを確認する。
「試しに繋いで見てもいいかも、なんちゃって」
「じゃあ繋ぐぞ」
俺は間髪入れずに優しく手を握る。
「宗助くん速すぎるよ! もうちょっと心の準備をさせてよ!」
「それは無理な相談だな、こういうのは勢いが大事だろ?」
「もー、何それ!?」
触れた手から伝わる温もりに釣られて俺の体温も上昇する。
「……」
「……」
何だか緊張してしまいお互いに無言になる。
「「――――あの!!」」
タイミング悪く一言目が重なる。
「宗助くんからでいいよ?」
「いや、大したことじゃないんだが、こうして手を繋いで見ると昔のアイリスと何も変わらないことがわかったよ」
記憶はなく、別人格だが体はアイリスのままだ。何も変わってはいない。それを今実感したのだ。
「そうなんだ……、昔も手を繋いだんだ。もしかして……、私、宗助くんにとって一番大事なこと、忘れてるんじゃあ――」
「――いいんだよ、思い出せれば、それでいいし、思い出せないなら、ここから始めることにしたんだから、だから何も気に病む必要はない。それで、次はアイリスの番だ」
「う~ん、なんか気のせいかもしれないけど、何だか私もこの感覚、知っている気がしたの。どうしてかは分からないけれど、凄く安心するの」
「そうか、今度からは少し踏み込んだ方がいいかもな」
「遠慮してたの?」
「そりゃな、俺にとっては知っている友人でも、アイリスからすれば赤の他人だ。急に馴れ馴れしいのは嫌だろうと思ってな」
「そうなんだ、でももう私たち友達って呼べる関係だよね」
「――――あぁ!! 二人で何やってるの!?」
アイリスの問いかけに答えるよりも早く、ベランダに侵入してきたリアが大声を上げる。
「うるさい奴だな、もう夜だぞ」
近所迷惑を考えろって思いつつ、名残惜しいがそっと手を離し、リアを無理やり部屋に連れ戻す。
「今、手繋いでたでしょ? 私見ちゃったよ」
「アイリスも中入るぞ、大分冷えて来たからな」
「あ―、今、ムシした、ムシしたよ」
こいつの見つかると色々と面倒なことはよくわかった。もう少しアイリスと一緒に居たかったが、リアのおかげで風邪を引かなくて済んだので、まあいいだろう。あのまま二人だったら変な熱にやられて、部屋に戻るタイミングを失うところだったからな。
さっきの大声でニルとイリスがボケっとしつつもゆっくりとベッドから起き上がる。
東條がせっせと片付けをしてくれたおかげで、明日に仕事を残すことなく解散することができた。
明日は裏体育祭だ。昨日、今よりも力を入れなくてはいけないな。
何せ、こっちが本職だからな。