Sports Festival ~Second Day~(12)
アイリスは運動が得意だとは言っていなかったがかなり早い。
一周するだけなので、その分その一周に全力を注いでいると言ったところだろうか。
中間集団を大きく引き離すことには成功したものの、先頭集団とはまだ二十秒以上の差がある。ただ、差は確実に縮まっている。
それから俺、東條と周回を重ねるが、ここでは大きく前に出ることが出来ない。俺は三周、東條は後一周あるため全力を出し切るには早い。
ここで七周目のリアにバトンタッチする。やはり一周だけ走るからだろう。俺たちより早いのは目に見えて分かる。それにリアは運動が得意だ。
先頭集団にアッという間に追いつく。
「流石だな」
「リアさんはやっぱり運動得意なんだね」
「アイリスだって凄かったぞ。男相手に十秒以上タイムを縮めたからね」
「そうかな? 結局追いつけなかったけど……」
「いや、十分な活躍だったよ」
「そうよ、後は私と小宇坂に任せなさい」
残るは俺と東條だけということになる。
リアはあの後もペースを維持し続け、再び俺に番が回って来る。
既に三キロ走っており、これで四キロ目だ。
「後はまかせた」
「ああ、わかった」
リアからバトンを受け取り先頭集団に混じり走り出す。
三周目と同じペースではやはり着いて行けない。
何とか同じペースに合わせる。これ以上は五周目に響く。
何とか順位を上げたかったがそれは厳しい。
結局、急に追い上げて来た奴らに抜かれ順位を二つくらい落として、東條にバトンタッチする。
「すまん」
「気にするな」
東條が走り出す。
「ありゃ、スゴイね」
「ああ、あれが東條の本気なんだろうな」
まるで百メートル走かよって勢いでダッシュする。
今までキープしてきた体力を全て使い切る勢いだ。
その動きに会場がざわつく。
流石だよ。ここまで本気を出せるところが羨ましい。ただ、俺も本気になれる理由があることだし、さて、俺も本気を出させてもらうぞ。
東條が順位を三つ上げて、それでも十一位、一桁台はまだ遠い。
他の男子も東條を見てペースをさらに上げる。あんな勢いで走ってくれば驚くだろう。
そして運命の十周目がやってくる。
東條が見えてきてからバトンタッチまでは一瞬だった。
「――――天璋流八式凩!!」
バトンを刀に見立てて納刀の構えからの高速移動で俺目掛けて突っ込んでくる。
「後はまかせたぞ」
「わかった」
バトンを受け取り、俺も全力疾走する。
ただ、ラスト周ということもあり、周りも全力疾走だ。最後はとっておきを残しておいたのだろう。
俺の全力と同じがそれ以上だ。
順位のキープも怪しい競り合いだ。
ここで順位を落とすわけには行かない。
こんなところで自分の限界を超える必要が出て来るとは、ただ、ここで恰好悪いところは見せられないだろう。これがくだらない男の意地という奴だろう。
師匠との特訓を思いだせ。
『宗助くん、剣術に必要なものの一つは瞬発力だよ』
『……瞬発力、ですか?』
『そう、例えば、突きをする時のことを考えみればわかるよ、ただ腕を前に動かしているだけに見えるけど、実は違うんだよ。足、腰も前に動いているんだ。全ての動きが前に進む力を生み出しているんだ』
『全てを連動させるってことですか?』
『その通り、全ての関節の加速度を全て合わせることで高速突きを生み出すことができる。これを応用すれば色々な動きに利用することができるよ』
『応用ですか……』
『そうだよ、例えば、高く飛んだり、速くはしったりね』
なるほど、各関節の動きを早くしそれらを全て同じ方向へ移動するために最適化することで今までよりも速く走れるってことか。
半分を走り切ったところ、残り半分、百メートル走りごとに走るフォームを最適化していく。より効率良く、そして早く前へ。
後続を振り切り、十位を捉える。
遅い、まだ、……まだ行けるはずだ。
これは剣術じゃない、ソードを持っていない分、体は軽い、ならばその分速く走れるはずだ。
何とか十位を抜き去る。後もう一人だ。
ここからは接戦となっており、
後一メートル先には九位の選手が走っている。
ただ、その一メートルが遠い。
残り百メートル最後のカープを曲がり直線に出る。
上手くいくかはわからないが東條、お前の真似させてもらうぜ。
ゴールまで五十、四十、三十、次第近づいていく。
二十、十メートル、――――今だ!!
「――――朱雀流攻陸型睡蓮!!」
朱雀流の抜刀状態からの高速突き、全ての加速度を前進させる力にする。
瞬間的に加速し、そのままゴールを迎える。
集中し過ぎて今何位かは分からないが、まあ、そんなことはどうでもいいだろう。
順位よりもやり切った感慨深い気持ちでいっぱいだ。
突きからの急ブレーキでゴールしてから十メートルくらいで止まる。
俺の後にいた人たちが次々とゴールする。
こんなに本気になったのは何年振りだろうか。
「宗助くん、凄かったよ」
「流石は兄さんです」
「やるじゃん」
「ソウスケ、本気だせば何でもできるんじゃな?」
「あんまり褒めるなよ」
「嬉しいくせに」
「それにしても土壇場で私と同じことをするとは驚いたわ」
「上手くいくかは分からなかったがな」
「成功したことには変わりないわ」
「八位入賞だよ!!」
「あれで二人も抜いたのか」
「みたいだね」
ギリギリではあるが十位以内に入ることができたのは良かった。ここまであまり活躍がなかったからな。
結局、総合得点では十八位だったようだ。出場できなかった種目が多かったから仕方ないが、真ん中よりは上の順位だったので悔いはない。
それに東條もやり切ったような表情で安心する。
何だか普通の高校生活を送っているようなそんな感覚になることができた。
月宮には普通科がないのでその所為かもしれない。
こうして体育祭は無事閉幕し、俺たち二年守護科は総合十一位という中々の好成績を収めたのだった。