Sports Festival ~Second Day~(10)
「これは勝ったね」
「?」
ニルの言葉に俺は首を傾げる。
ここからの東條が最強だった。物騒な仕事をしていないでプロテニスプレイヤーにでもなればいいと思ったくらいだ。
東條が上げた高いトス、そこから繰り出されるのは高速スピンサーブだった。
サービスラインにオンラインで入ったサーブはもの凄い伸びを見せ、相手はボールに触れることすらもできなかった。
「すげぇな」
「プロ並みよね」
「本当ね」
アイリスも頷く。
「本当にプロと変わらないくらいのサーブです。時速二百キロ近くでていますね」
「東條の腕は本物だな」
プロのサービスは約百八十から二百キロ、それを考えるとプロと遜色ないと言えるだろう。それとイリスは速度を見ただけで計測できるようでそちらにも驚く。
あまりに美しくも強いサービスに会場が再び沸く。
相手の選手もかなり驚いているように見える。
東條はサイドを変えて、ボールを地面にポンポンとつく。
「15-0(フィフティーンラブ)」
ボールをトスに飛び上がるフォームはさっきと全く同じ、美しいとさえ思うような整ったフォームだ。
そこから繰り出されるスピンサーブはネット擦れ擦れを通り、サービスラインに吸い込まれるように飛んでいく。ボールはドライブ回転により跳ね上がりもの凄く伸びる。
相手の選手は何とかボールに触れるも弾かれ、後のネットにボールが衝突し跳ね返る。
さっきのサービスエースは偶然ではないことがここで証明されただろう。
東條が小さくガッツポーズをする。
「こうなっちゃうともう勝ち確だね」
「前の試合もサービスゲームはほとんどサービスエースで決めちゃったからね」
「それは凄いな、あいつは才能の塊だな」
「本当にね」
その後も「30-0(サーティラブ)」「40-0(フォーティラブ)」と得点を重ねていく。
このままサービスエースの一方的なゲームになるかと思ったが、相手も流石に一度見たサーブだ。
「40-0(フォーティラブ)」
同じスピンサーブを放つが、かなり後にさがっていた相手が何とか浅いロブのような緩いボールではあるがレシーブする。
ただ、勝負はもう着いただろう。
リアがサービスラインから前に走り込み、ジャンプスマッシュで打ち返す。
ボールはエンドラインでバウンドしボールは高いバウンドで後のネットを超えてどこかに行ってしまった。
「ゲームセット!!」
審判の先生が審判台から降り、選手がネットの前に集まる。
「2-0(ツーゲームトゥラブ)で優勝は二年守護科です」
「「ありがとうございました」」
選手は互いに一礼する。
「あなたたち凄いわね。もしかしてプロ志望だったりするのかしら?」
「残念ながら、そんなじゃあないのよね」
「私は普通の剣士ですよ。……でも久しぶりにテニスが出来て嬉しかったわ」
東條たちはそう言い残しコートを去る。
ベンチから立ち上がった俺たちにリアが軽く手を振る。
「流石だな、まさか東條がここまでとは……」
「そんなに驚くこと? 私にできないスポーツはないわ」
もの凄い自信だが、それを裏付けるだけの実力を示したのでこれ以上は何も言えないな。
「リアもテニスできたんだな。向こうに居た時、そんな姿一回も見たことなかったから、東條よりもある意味では驚いたぞ」
「ああ、そのことね。私、中学まではテニス部だったのようね。ソフトの方だけど」
「なるほど、でもブランクがあるようには見えなかったが」
硬式とソフトは見た目こそ大きな違いはないものの全く違うスポーツだ。それにルールも全然違う。
「――――放送部です!! 取材よろしいでしょうか?」
優勝インタビューと言ったところだろうか。
三人の放送部部員がフェンスの内側にカメラとマイクを持って入って来る。その後に続いて新聞という腕章を着けた二人がメモ帳を持ってやって来る。
「……これは大変そうだな」
「他人ごとね」
「俺にとってはね」
「そうね、……時間がかかりそうだから先に戻っててくれるかしら?」
「わかった」
報道陣に囲まれている二人を置いて、俺たちはラケット等の荷物を持って大講堂に戻ることにした。