Sports Festival ~Second Day~(7)
場外乱闘の三ラウンド目が行われようとしていた時だった。
「――――そこまでだ!!」
その声に体育館にいた全員が観客席上段を振り向く。
そして一人の女子生徒が飛び降り、フィールドに着地する。
誰か何て言わなくてもおわかりだろう。
「か、会長!?」
長谷川は驚いた顔をする。
「会長の椎名だ。乱闘騒ぎはそこまでだ」
「これは、違うんです。こいつが……」
「言い訳はどうでもいい。そろそろ時間だ。全員フィールドから出ろ」
既に試合時間は終了している。
「私はまだやり足りないわね」
東條はそう言いながらベンチに戻る。
「遅いですよ、会長」
「面白そうなことになりそうだったんでね、遂遊んでしまったが、体育祭の進行を遅らせる訳にも行かないんでね」
なるほど、会長の考えはよくわかった。時間がまだ残っていたのなら最後までやらせていたってことだろう。
相手チームも会長の言うことには逆らわずに下がっていく。
「……覚えていろよ」
長谷川をそう言い残し去っていく。
悪いが小物にかまっているほど、俺は暇ではないんだよ。
「えっと、一応点数的には二年守護科の勝利です」
すっかり忘れていたが、点数的には俺たちの勝利であったようだ。
「まあ、私がいれば当然ね」
横で東條が胸を張る。
東條の機嫌をとることができホッとしているが、イリスのことを忘れてはいけないだろう。
ベンチで座っているイリスを抱えて保健室に向かう。
「俺たちは後で教室に戻るから、先に戻っていてくれ」
「そうね、リアと私はテニスの試合がすぐにあるから悪いけどそうさせてもらうわ」
「私はついてくよ」
「私もー」
アイリスとニルが一緒に来てくれるようだ。
保健室には保健医の先生が見てくれた。俺たち以外にも誰もいないのでかなり室内は静かだ。
「う~ん、そうね。腕は軽い打撲だけだけど、足、軽く捻挫しているわね」
足だと?
「いえ、そこまでではありません」
「本当に?」
先生が足を軽く触る。
「あっ」
「無理しちゃだめよ」
やはり痛いらしい。
全く気付かなかったが、尻餅をついた時に足を少し捻ったのかもしれない。
イリスの顔を見ると視線を逸らされた。
痛かったのに言わなかったことが今の仕草で理解する。
ここに来るまで抱きかかえて来たのは正解だったようだ。
「イリス、そういうことは言ってくれないと困る」
「……すみません、兄さん」
申し訳なさそうな顔をする。
「いや、こうして怪我していることが分かったからいいよ」
「ですが、試合は――――」
「いいんだよ。東條も分かってくれるさ」
せっかく勝ち進んだが、ニルを入れて無理やり出るのもどうかと思うし、東條に後で聞いてみるとするか。
「後は俺だけで大丈夫だから、リアたちの応援にでもいってやってくれ」
「わかったわ」
二人で一緒に保健室から出ていく。
「兄さんは行かないのですか?」
「イリスを置いていけるわけないだろ? それにちょうどいい機会だしな」
「?」
イリスは首を傾げる。
「最近、二人で何か話すことがなかったからな。学校生活、というかここでの暮らしに少しは慣れたか?」
「兄さんと暮らすことには慣れましたが、他の人といることはまだ慣れません」
「そうか、リアとニルとかか?」
「はい、特にアイリスさんとは何を話せばいいかわかりません」
「それは俺も同じだよ」
「兄さんもですか?」
少し驚いたような顔する。
「ああ、昔のアイリスのことはよく知っているが、今のアイリスはあの時にアイリスではないからな」
「変な話をしてしまいました」
「アイリスのことで俺は特に何も思っていない……、というと嘘になるだろうが、悲観的なことは考えていない。今のアイリスのことをもっと知っていかなければいけないなぁ」
これからもずっとこのまま記憶が戻らないということも十分にある話だ。それを考えるなら今のアイリスに俺を好きになって貰うしかない。
「兄さんのためにも記憶を取り戻してくれればいいのですが……、一説には過去の出来事で印象に強い出来事や物に触れることで断片的にでも思い出す可能性があります」
「印象が強いかぁ~、……少し考えてみるか」
そんな雑談をしているうちにイリスの手当てが終わり、イリスを再び抱えて保健室を出る。
一旦、教室に戻ってから応援に行こうかな。
そう思っていたのだが、大講堂にはみんなが揃っていた。