Sports Festival ~Second Day~(6)
「あん?」
機嫌悪そうにこちらを睨んでくる。
「故意のファウルであることは誰から見ても明らかだろう。話は謝ってからだ」
「下級生の癖に言葉遣いがなってねぇよなぁ!! 謝れだ? 俺は何もしていない。少し触れただけで大げさに騒ぎやがって」
俺は審判に視線を送る。
「これはファウルです。ですが、選手の手当てが終わるまでは再開できません」
「だってよ。お前が上級生だろうと、審判の判断が絶対だ」
「ちっ、ふざけやがって!! 年下の分際で調子に乗ったことを後悔させてやる!!」
周りでは「先生を呼んでくる」とか「誰か止めろよ」など様々な声が聞こえてくる。
フッと見上げた先には生徒に混じった会長の姿が見える。
そして視線が合う。
会長がいるなら、止めてくれるのかと思いきや、ニヤリと笑うだけで、フィールドに飛び出して来てはくれない。
生徒会長の許可が出たらないまあいいだろう。
ここからは荒っぽい体育祭のスタートになりそうだ。
「早く再開させろ!! 手当なんざ、その辺の空いている奴にやらせればいいだろ!!」
怒号を挙げながら、何度も確認しているのは時間だ。
相手がイリスを突き飛ばした理由や目的が何となくだが分かってきた。
可能性を上げるならば三つ考えられる。
一つ、交代選手がいないこちら側の選手を怪我させることで人数的優勢を作ること。
一つ、交代選手は実質一人、二人怪我をさせることによる人数不足での実質不戦勝とすること。
一つ、今の状況のように時間を取らせることによって試合時間の制限による惰性的に勝利するため。ただし、これは奇跡的に入ったイリスのシュートによって逆に不利な状況に追い込まれてしまったようだが……。
奴が時間を気にしているのはそのせいだろう。
試合終了まで残り間もなく一分を切ろうとしているからだ。
俺は正直こんな勝ち方をしたくはなかったが、相手が謝らない以上、こちらとしては再開するつもりはない。
「おい!! 早く再開しろよ!!」
更に審判に再開を迫る。
まったく、頭の悪い連中は困る。
「審判が困ってるだろ?」
審判を下がらせ俺が奴の前に出る。
「何だと!? さっきから下級生の癖に調子に乗りやがって!!」
「はぁ……」
「あ?」
「だから、まずは突き飛ばしたことを詫びろって、さっき言ったろ?」
そんな何度も言わなくても一度でわかるだろうよ。
「くっ……」
そんなに謝りたくないのか。どんだけプライドが高いのか。半分呆れてしまう。
「……そうだな謝ろう。――――お前をぶん殴った後でな!!」
その瞬間大きく振りかぶった拳が飛んできたのでバックステップで躱し、顔面に向けて今度は反撃するが、同じくバックステップで躱される。
「宗助くん!?」
「全員下がってろよ!!」
ベンチ側にいたアイリスたちが頷く。
まだフィールド内にいたリアがベンチにいる三人を守るような位置に移動する。流石だな。俺が言わなくてもして欲しいことをやってくれる。東條はその場で準備運動を始めた。
何やってんだ?
反射神経は良いようだ。工学科と言っても雑魚と言う訳ではないらしい。
「女の子は優しく扱うようにママから教えてもらわなかったのか?」
「ふざけやがって」
相手の拳による連撃を受け流しカウンターの回し蹴りを加えるが腕で防がれる。
嫌、力任せの真っ向勝負をする必要はないだろう。師匠の教えを思い出す。
師匠は言っていた。
『体術で真っ向勝負するのは筋肉質なボクサーやプロレスラーがすることだよ。僕たちにできることは相手の力を利用した搦め手だけだ』
最も効果的なのはパンチを当てることでも蹴りを入れることでもない。
相手のパンチを顔面の横擦れ擦れを通る。だがこれは計算の内だ。
そのまま相手の腕を持って後ろに投げ飛ばす。
相手のパンチのエネルギー利用した最も効率的で効果的な一手となっただろう。
急に戦法を変えたことについて行けず、後で転がりながら二メートル以上後まで転がって行く。
会場では予想外の展開に観客が騒がしくなる。
こんな形で悪目立ちするつもりはなかったんだかがなぁ。確かに目立ちたかったんだかが、こういうことじゃあないんだよ。
ただ、ここで終わらないのは言うまでもないだろう。
「よくも長谷川を!!」
「ぶっ殺してやる!!」
後ろにいた他の四人が一斉に襲い掛かって来る。
一番近い奴のアッパーを仰け反って躱し、そこから蹴り上げが顎に命中して倒れるのが見える。そのままバク転し少し下がって場所で構えなおす。
まだ三人もいる。二人同時の攻撃を普通に躱すが反撃は難しい。
更に後で倒れていた長谷川と呼ばれていた奴が立ち上がる。
これはまずいな、更に横からもう一人が突進してきやがった。
「宗助くん、逃げて!!」
アイリスが叫ぶ。
「一旦引きなさい!!」
リアがこっちに来いと手で合図するが、この一瞬は何とかできるはずだ。
正面の二人の拳による連打を受け流し、そのまま腕を掴んで一人を突進してくる奴に向かって投げ飛ばす。それで終わる俺じゃない投げ飛ばした後のモーションで回し蹴りをもう一人に加えるがそれはバックステップでギリギリ躱される。
横から突進して来た奴と飛ばされた奴が重なるように転がっていく。
「ソウスケ、後ろ!!」
リアの声で半分だけ振り向くと起き上がった長谷川が殴りかかって来ていたのだ。
これは躱せなさそうだ。
さて、どうするか……。
悩んでいる暇はなかった。突然、長谷川の姿が何か遮られて見えなくなる。
そして長谷川が見えたときには三メートル吹っ飛んでいたのだ。
「私も混ぜてくれるかしら?」
長谷川を吹っ飛ばしたのは東條だった。
「もちろんだ、助かったぜ」
「五対一は流石にルール違反だと思うわね」
投げ飛ばされた奴と横から突進してきた奴も起き上がり四対一となる。
東條が俺の背中を守るようにピッタリと着く。
さて、ここからが本番と行こうか。
四対二なら余裕で勝てる。
「それじゃあ行くわよ」
「ああ」
東條は長谷川の拳をハイキックで蹴り上げ、更に上段回し蹴りを顔面に当てて一発ノックアウトさせる。それだけにとどまらず、その隙をついたもう一人が顔面目掛けてパンチを繰り出して来るが、見向きせずに躱し、顎にハイキックを叩き込み、相手の体を浮き上がらせる。相手が地面に着地する前に中段回し蹴りを鳩尾に当て壁まで吹っ飛ばしやがった。
もうこれは護身術を習った程度の女子のなせる業ではない。才能の域に達しているだろう。
それとほとんど同じタイミングで正面の二人のパンチをあえて擦れ擦れで躱すしそのまま腕も持って投げ飛ばし、もう一人にぶつけることで攻撃と防御を同時に達成する。
ここまでうまくいったのは相手が戦闘特化の連中じゃなかったからだろう。
「やるな」
「あなたもね」
それを見ていたベンチの三人が立ち上がりこちらに向かってきた。それに加えてまだ長谷川と俺側の一人は動けるよう下がりながら立ち上がる。
「まだやるつもりかよ」
「受けて立つわ」