Sports Festival ~First Day~(10)
こちらの出場メンバーはニルを抜いた五人、前の試合と同じである。テニス、バレー、バスケと三連続で試合が続いているため、東條は元気そうだが、リアは少し疲れ気味に見える。それを見越してなのか、イリスとニルのポジションを入れ替え、オフェンスが東條とイリス、ディフェンスがアイリスとリア、センターに俺がいる。
相手は同じく二年諜報科、二回戦になるとバスケ部が多いチームしかいないのでかなり手ごわくなる。
前の試合が終わりコートに入る。周囲を見回すと一回戦の時よりも断然観客が多い。テニスの試合もそうだったが東條目当てだろう。それに守護科は他のクラスと比べて外国人の数も多い、極めつけはイリスだろうか。あんな小さい高校生は物珍しいだろう。
ここまで全く目だっていない俺な訳だが、この辺で少しでも格好を付けたい所だ。だがそれでミスをすると東條が怖いので出しゃばるのは止しておこう。……と結局前の試合と同じスタンスで行くことを心の中で決めた所でジャンプボールのため前に出る。
向かいあってその身長差を感じつつ相手の男子生徒の顔を見上げる。俺よりも十センチ以上は高い大体で百八十前後はある。
ホイッスルの合図で試合は始まった。審判の手から離れるボール、全力で手を伸ばしジャンプするが、相手は身長差の分だけ高く届く、ボールは俺の指先を少し触った程度ですり抜ける。
……ダメか。
ジャンプボールは相手がキープし東條の居ない右サイドへパスを出す。イリスは頭上をあっさりと越えられそのままアイリスも抜かれる。リアがシュートをブロックするためにジャンプするが届かない。
二年守護科0-2二年諜報科
イリスが少し悲しそうに俺の方を振り向く。
「気にするな、まだ試合は始まったばかりだ」
「……はい、兄さん」
イリスの髪の毛をポンポンしセンターに戻る。
リアが東條へパスを出しそのまま高速ドリブルで左側のライン際を駆け抜ける。ただ相手も東條が強いことは知っている。前衛を一人抜いたところで三人が東條の行く手を阻む。
イリスが逆サイドでボールを待っているが相手はノーマークだ。
流石に突破が無理だと思ったのかセンターラインにいる俺のボールを戻す。
俺は直ぐにイリスにボールをパスする。
相手遅れてイリスの方に一人行くが、イリスはドリブルをすることなくボールを両手で持って下から上にスローした。一見すると素人のようだがふわりと高弾道で放物線を描きながらゴールへと飛んでいく。そしてすっぽりと寸分の狂いもなくゴールの輪に当たらない見事なシュートを決めたのだ。
その姿はまるで小型の自走砲のようだ。
二年守護科6-2二年諜報科
見事なスリーポイントシュートは二倍ルールでシックスポイントシュートとなる。その瞬間会場が沸く。諜報科の奴らは唖然としている。あの小柄な体であれだけの正確なシュートを打ったのだ。
相手は「まぐれだ、気にするな」と叫ぶ。
イリスは自分のシュートを見届けるとこちらに駆けて来きたので、俺はまたも頭をポンポンして褒める。
「やるじゃないか」
「計算して打ってますから……。それに1.2ミリ、ズレました」
「それくらいは誤差だろ、よくやったな」
頭を素直に撫でさせてはくれるがあまり反応が返って来ない。
「このまま遠方からのシュートだけで勝てるかもな」
「それは言い過ぎですよ。私のシュートは距離に制限があります。私の筋力ではあの距離から精々プラスマイナス一メートルの距離でしか入れることができませんので」
俺の言葉を素直に受け取らず少し視線を逸らしポジションに着く。どうやら全て計算通りであったようだ。
相手に作戦変更はなく、ひたすらに東條の居ない左サイドばかりを攻めて来る。イリスにスリーポイントのラインで待機させ、俺が左寄りに守る。俺が前に出ても相手の方が身長は高く威圧感はないが俺の左側、ラインとの間を抜こうとしてくる。空いているセンターよりも左側を攻めて来るとは、よほど東條が怖いのだろう。今こそが絶好の見せ所だろうが、落ち着いて相手の手の動きを読みドリブルでボールがバウンドした瞬間に何とか奪うが、そこからドリブルに持っていくには体勢が悪いので、そのままの勢いで野球みたいに東條に投げつける。それを片手で受けた東條に向かって三人が飛び掛ってくる。それも既に予想済みだったようで、貰ったボールをすぐさまイリスへとパスする。イリは受け取った瞬間にボールをさっきと同様に両手で下から上にスローする。ボールはさっきと同じ軌道を描きゴールの輪へと入っていく。
二年守護科12-2二年諜報科
「マジかよ!?」
驚く諜報科の男子生徒、ようやく、まぐれではないと確信したようで東條に付いていた一人がイリスを追いかけ回しパスが通らないようにしてくる。
ただ二人で東條を止められる訳もなく七分が経過しようとしていた。
二年守護科32-10二年諜報科
その後、相手はオフェンスを一人にして東條を三人で押さえ込み、イリスに一人をつけてブロックするようなポジションを取ってくる。
二人が動けない、ならばここからは俺の出番だ。
相手は負けているにも係わらず守り重視の構えは変えない。ただそれは正しいだろう。
イリスはゴールから一定の距離を動きまわっており、ボールが来れば直ぐに正確なシュートを打ち出すからだ。
ただ東條については課題評価であると感じる。俺の見立てに過ぎないが、テニス、バレー、バスケと三連続で試合に出ており、どの競技にも全力で戦って来た。いつもと表情こそは変えないものの、かなり汗を掻いており、疲労しているに違いない。
相手は東條を避けるようなパス回しで相変わらず左側を攻めて来る。段々パスカットに慣れてきた……、というか相手の動きのパターンが読めてきたというべきだろうか。左側を抜かれる確率が下がる。そしてボールをキープした俺はまるで水を得た魚のように遂にドリブルでセンターラインを超える。
東條についていた奴らが一斉に俺の方へと引き寄せられる。イリスはダメ、東條もダメなら俺がさらに前に出るだけだ。東條についていた一人を躱すと、さらにイリスについて奴が俺の方へと駆け寄って来る。
俺はそいつの股を抜いて、そのままの勢いでレイアップシュートを決める。
二年守護科34-10二年諜報科
戦略的には女子に打たせた方が断然良いが、少しくらいは良い所を見せたいのが男の性というものだろう。
これが本日初シュートで初得点となった。
アイリスが自陣でピョンピョン跳ねているのが遠目で見える。俺の活躍が伝わったのだろう。
俺がディフェンスだけではないと知った相手は東條を集中マークすることを止めて通常の戦術に戻るも流れが変わることはなく、この勢いのまま二回戦を突破する。
よって、二日目は体育際最後の競技までお通夜ムードなんてことが無くなって本当に良かった。そんなことになれば東條がどうなっていたことか……、想像するだけで恐ろしい。
そんな東條は今ベンチに座り、満面の笑みで喜んでいる。ただ体力的にギリギリだったよう汗だくでタオルを首にかけたままでしばらくベンチから動くことは無かった。