Sports Festival ~First Day~(6)
それからは一回も相手にレシーブする隙を与えずに二年守護科15-0四年救護科で完封勝利してしまう。
東條の機嫌がとても良いことに越したことはないが、十分ないくらいの間ずっと立っているだけだったので物足りない。ただそんな俺とは逆にニル辺りは自分にボールが回って来なくて良かったと胸を撫で下ろしている。
テニスの試合は思った以上に時間が押しているようで、午前最後を予定していた二年守護科VS二年警護科のテニスのダブルスの試合は午後にずれ込んだ。そのためまだ十一時くらいなのだが守護科の一日目午前の部は終了である。
今の所、全試合で全勝しており結果は上々だが、不戦敗となっている野球とサッカーがあるのでどう頑張っても優勝は無理なのだが、東條のやる気は凄い。東條とニルはテニスの試合前の練習をするようで、二人でどっかに行ってしまった。
残された四人だが、体育祭は競技に出ない間の空き時間に何をしてもいいのでニルは車の整備をすると言い、その場を離れた。
昼には少し早いため一度大講堂へと戻ることにした。
大講堂はエアコンが効いていてとても快適だ。
汗はそんなに掻いてはいないが、着替えたいところだ。
アイリスは少し暑そうにパタパタと手で扇いでいるが、イリスは自分の鞄の中から何かを探している。出て来たのはTシャツだ。
ジャージのファスナーをゆっくりと下げ上を脱ぎ、長机に置き、Tシャツの裾に手をかける。
「おい何やってんだ?」
アイリスも「えっ!?」という顔で止めに入る。
「兄さん、着替えですよ?」
イリスは臍を出しながら首を傾げる。
「それはわかってる。だったら更衣室に行かなきゃだめだろ」
「どうしてですか?」
どうしてと来たか……。最近は人間らしくなってきたとは言え、未だ女として認識が不足している。
「普通に考えて、女の子は男の前で上を脱いではいけない。常識だ」
「そうだよ。着替えるなら更衣室にいこうか?」
「……ですが、私の裸体であれば、既に兄さんは見ていますので何の問題もないかと」
「問題大有りだ。俺が見ているのがギリギリ許容範囲内だとしても、誰が入って来るかも分からないだろ? だからダメなんだよ」
俺が見るのも許容範囲だとは本当は思っていないが……。
すると「はっ」とした顔をする。
「その通りでした。申し訳ありません、兄さん」
ちょっとだけ元気が無くなったような気がした。
「それじゃあイリスちゃんと更衣室に行って来るね」
その後で「私も着替えたいし」と付け加えた。
着替えを持って二人が居なくなった後で俺は大講堂で着替えることにした。
二人が居なくなり聞こえてくるのは窓の向こうの声援くらいだ。
しばらくしても戻ってこないので自分の席でSIG SAUER P220の手入れを始めようとした時だった。誰かが大講堂に入って来る。
アイリスとイリスかと思ったがそこに居たのは生徒会長の椎名朱音だった。
「会長がこんなところまで何かあったんですか?」
「いいや、ただ様子を見に来ただけだ」
事件関連の話かと思ったがどうやら違うらしい。
「残念ながらちょうど出払っていて、見ての通り俺しかいませんよ」
「それでもいい。守護科の発足、どうなるかと思ったが案外なんとかなっているようで安心した」
「これが何とかなっているように見えますか?」
色々問題はあるが、現に体育際を満喫しているとは言えない。結局最後の一人は見つかりそうも無いし……。
「人数の話はこっちも選定に迷っていてな、今のところ前期はこの人数で過ごして貰うことになりそうだが、攻城戦には出れそうだぞ?」
「見つかったんですか?」
「ああ、万全の体制とは言えないが一人融通の利く奴が居てな」
「誰ですか?」
「それは来てからもお楽しみと言ったところだな」
もったいぶる必要は無い気がするが教えてくれる様子は無い。
「そうだ、バスケ・バレー共に一回戦突破とはおめでとう」
「ありがとうござます。よく知ってますね」
「それはそうだよ。よく分からない科が圧勝したって話は他の学科で話題になっているからね。まあ、私はその試合を見ていたけどね」
「悪目立ちは避けたいところですが」
「そんなことはないさ、それにしても東條は運動神経が抜群にいいな」
「ええ、負けるのが嫌なようなので、この後も振り回されそうです」
「いいじゃないか、小宇坂はあんまりこういう行事を真面目に取り組まなそうなタイプだろうから、いい機会だろう」
会長の言うことは間違っていない。こういう行事は正直言って無駄だと思っているからだ。それに見た目からしてそういう風に見えるのかも知れない。ただ今回はアイリスがいる。だから頑張れるのかもしれない。
「手を抜くと東條に怒られそうなので、ボチボチ頑張りますよ」
「そうだとも、アトランティカに格好悪い所は見せられないよな?」
「……」
会長に図星を付かれて俺は無言になる。アイリスとのことをどうやら分かっているようだ。
「そんなに怖い顔をするな、私はお前たちの関係に口を出したりはしないわ。というよりかは応援している側だ」
「生徒会が異性との交遊を推進していいんですか?」
「勿論だとも、寧ろ少子高齢化が進む美咲市においては結婚時期が早ければ早いほどいい。だから困ったことがあればそういう相談も生徒会は受け付けている。……とは言ってもこんな性格の私だ。そういう経験はないがな」
はっはっはと笑いながら俺の肩を叩く。俺は「ならダメじゃねぇか」と心の中で突っ込む。
「だから恋愛も勉強も頑張りなさい」
「言われなくても分かってますよ」
「それとまだ確定情報ではないが、保安庁の動きが怪しい、もしかしたらお前たちの位置がばれたかも知れない。何か情報が入れば直ぐに伝える」
真剣な表情でそう言い残し大講堂を去った。