Sports Festival ~First Day~(5)
コートから戻って来る俺たちにタオルを渡すニルの姿が完全にマネージャーだ。
汗だくの東條と全く汗を掻いていない俺、対照的な二人は同じベンチに腰掛ける。
「東條はバスケやってたのか?」
「いいえ、やってないわ。あんなの見たら何となくできるでしょ?」
それに「授業でもやってたし」と付け加える。
「それでだけであんなに上手くできるのは才能だろ」
「当たり前、私は才能の塊なんだから」
謙遜しないあたりが東條だ。
「俺は後ろでつっ立ってただけだからなあ」
「そんなことはないわ。相手のシュートを妨害するの、とても上手かったわ。それと少し離れて座らない?」
「……」
ああ、そうか、そういうことか。
「すまんな、臭うよな」
「そうじゃなくて、私、汗だくだから、絶対臭いわ」
東條はタオルで汗を拭きながら言った。
正直な話、全然気にならないが、彼女が気にするならば離れよう。
「俺は気にならないが」
「私が気にするのよ」
俺たちはそっと一人分の間を空ける。会った時はあまり感じなかったが、最近は何だか普通の女の子っぽい場面が多々見受けられる。今まであまり女子扱いしていないかったことがそもそもの問題なのかもしれないが……。
「次に試合はいつだ?」
「次は午後一番ね。でもその前に午前中にバレーの試合があるわ」
「バレーはどうする?」
「今度はアトランティカさんと角谷さんをチェンジかしら?」
「体力的にイリスの方がありそうだしな」
イリスは小柄だが軍用として作られたこともあり、俺と同じくらいの体力がある。
「ドリンクもあるわよ?」
ニルが冷えたスポーツドリンクを配る。
「随分と気が利くな」
「まあね。試合では足引っ張りそうだから、せめてこれくらいはしないと」
「東條に怒られそうだしな」
「私は怒ったりはしないわ」
俺が茶化すと少し強めの口調で言い返す
嘘つくなよ、さっきの試合も相手に得点されるたびに険しい表情をしていたじゃないかと思ったがあえて言わなかった。
「ニルは運動神経があまり良くないんだ。負けても責めるなよ」
「言われなくても分かっているわ」
その言葉のニルは少しだけ苦笑いをした。
三十分程度のインターバルの後に今度はバレーの試合が始まろうとしている。試合相手は四年救護科だ。
「いきなり四年と当たるとは運がないな」
基本的には学年差プラスマイナス一年で当たるように組まれているが、そうは行かない部分も出てくる。四年救護科は特段バレー部が多い強豪とかではないらしいが、学年が上がればその経験値により差は開く。
「でもバレー部いないんでしょ?」
「らしいな」
「なら勝てるでしょ」
バスケだけではなく、バレーにも自信があるようだ。ただこちらも身長がものを言うスポーであり、ジャンプしてもネットから手が出ないのが一人いる上に平均身長は百五十前半くらいだ。それに対して相手も女子三人、男子一人だが全員百六十以上はあるように見える。ちなみに態度がでかいので大きく見えるが東條の身長は百五十前半で決して高くはない。
ここでバレーのルールを説明すると人数は六対六、先に十五ポイントを選手したチームの勝利となる。ただし登録できる人数は十人までなので最大で四名の交代要員を確保することができる。ルールはラリーポイント制を基本としているが、細かな規定はない。
どのポジションでも俺とリアと東條でカバーできるように俺たちの間にニルとアイリスとイリスを挟んでいる。
各々ポジションに着くが気合だけは十分なアイリス、棒立ちしているイリス、それにニルと不安要素が尽きないがやるしかない。ローテーションのポジション次第では厳しい戦いを迫られる。
試合は東條のサーブから始まる。
高く上げたボールをもの凄い跳躍で飛び上がり、三メートルくらいの高打点で美しいフォルムのままサーブを繰り出す。あまりに激しい動きに東條の決して大きくはないが並はある胸が激しく上下に揺れ、男たちの視線を釘付けにする。
超高速で飛んだボールはネットスレスレの弾道で相手コートに入る。
何とかレシーブしようとした後衛の男子はボールの勢いを止めることができず腕で受けたボールが顔面にクリティカルし一発退場させる。
「――――しゃあ!!」
東條が全力のガッツポーズを決め、会場が沸く。
二年守護科1-0四年救護科
俺と一瞬目が合うが、その瞳は本気だ。
相手は交代要員を使い人員が補充される。
それからも東條の勢いが止まることはない。
少しもブレることのない美しいフォルムで打ち出されるサーブを止められるものは居らず、連続でサービスエースを取っていく。
二年守護科4-0四年救護科
ただサービスエースも長くは続かない。東條のサーブに狂いは無かったが相手がボールを何とかレシーブしたのだ。レシーブの角度が奇跡的に良かったのだろう。
ボールは言い感じで相手のコートのど真ん中に浮く。
そして身長百八十くらいの男子生徒から繰り出されるスパイクは東條のサーブのように鋭く突き刺さる。
「ニル避けて!!」
いつもは角谷さんと呼んでいるが、文字数の関係で間に合わないと判断したのだろう。
ニルは突然ことであまり動けていない。
だがさっきまでサーブをしていた東條がニルの横で跳躍している。ブロックするつもりだろう。だが、かなり鋭くネット際に飛んできたボールをうまく弾くことができずにボールは斜め後ろに飛ぶ。後衛にはアイリスとイリス、棒立ちしていたイリスがボール直下にゆっくりと入る。そして普通にトスを上げた。イリスに構えるという概念がなかっただけでやり方は分かっているようだ。
「まかせて」
イリスの近くまで下がっていたリアがスパイクを打つ。その高さは東條よりも身長の分だけ高い。そして胸は大きさの分だけ大きく揺れる。男子生徒が上段の観客席ではなく普通に壁際で見ているのはそういうことなのだろう。特に女子の割合が多い守護科は目立っている。
相手は体勢を立て直せずにボールはネットを越えて床に叩きつけられた。
二年守護科5-0四年救護科
東條のサーブはまだまだ続く。