Sports Festival ~First Day~(4)
体育館では既に東條が待っており準備体操をしている。
「随分とやる気だな」
「そりゃあ、そうよ。あなたも軽く準備運動をしておきなさい」
「ああ、わかってる。それで作戦は予定通りなのか?」
俺たちも準備運動に加わる。
「そうね。私とオフェリアさんを筆頭に女子メンバーで積極的に得点し、小宇坂くんはディフェンスに徹するというメインのフォーメーションを基本に戦うわ」
確かに理に適っているのだが、ずっとディフェンスでは見せ場はないだろう。勝つためには仕方の無いことではあるが、どこかでアイリスに良い所を見せたいと思っていただけに少し残念だ。
「その作戦で問題は無さそうだが、足はもう大丈夫なのか?」
「ま、まあね……、本調子ではないけれど、軽い運動ならば大丈夫よ」
あの時のことを思い出したのか少し詰まりながら、早口でそう言った。
「張り切るのは良いが無理はするなよ」
「わかってるわ」
「俺たちの試合はいつ頃だったか?」
「三試合目ですよ、兄さん」
東條が答える前にイリスが素早く答える。
「じゃあ九時半過ぎか、対戦相手は二年狙撃科だったか?」
「そうよ。パッと見た感じ強そうな人は居なかったからそこまで気にしてないけど、問題は二戦目の三年強襲科ね」
「そんなに強いのか?」
「調べた感じだと、十人中七人バスケ部のようだわ」
「そりゃ強豪だな」
「そうね……、ただ簡単に諦めるつもりはないわ。それだけは覚えておいてね!!」
「わかってるよ」
九時となり本日の一試合目が始まる。ただ他のメンバーはまだ来ていない。どうせ三試合目なのだからまだ来なくても大丈夫なのだが、東條が少し不機嫌そうに「九時って言ったじゃない」と呟いていた。
それから二試合目が始まったタイミングで三人がやって来る。ニルは何やら大きなクーラーボックスを肩にかけている。
「ごめんごめん、千手院先生に雑用頼まれて遅れちゃったよ」
「まだ始まってないし大丈夫だ」
チラッと東條の方を見るが怒っている様子はない。
どうやら千手院先生が一人で大量のコーンを運んでいる姿を見て手伝うことにしたらしい。教員はそれぞれ役割が当たっており、審判を出来ない千手院先生は肉体労働しか残っていなかったようだ。
それにしても酷い話だ。あの小柄な体で大量のコーンを運ばせるとは……。体格的にはイリスと同じくらいなので、イリスにやらせるのと同じだと考えると、どれだけ酷いかが良く分かるだろう。千手院先生はいじめ的なことを受けているのかもしれない。まあ、変わり者であることは間違いないが……。
続いて第三試合がコールされ俺たちに赤いビブスが渡される。相手は青だ。
ニルはクーラーボックスを床に置いてベンチに座る。
コート内に入りそれぞれのポジションにつく。
余裕の表所を見せる東條に対して向こうもイリスとアイリスを見た後で同じく余裕の表情を浮かべる。バスケは技量以外に伸長がものを言う競技であるため、低身長の二人は明らかに不利だ。しかしニルを入れずにイリスを入れたのには勿論理由がある。
開始のホイッスルが鳴り響く、ジャンプボールは一番背の高い俺が選ばれたが、相手は十センチ以上高い男子、何とかボールに手が触れるが、パンチは弱い。
相手コートの斜め横辺り、相手にボールを取られた。……やはりこの身長と技量では厳しいな。
俺は嘆きつつもディフェンス気味のポジションに戻る。ボールは東條が追いかける。イリスはホイッスルと同時にゴール付近まで走る。あまりの瞬発力に驚く、だがそれよりもさらに驚いたのは東條の動きだ。ボールは最初相手に渡ったが、数秒で取り返し攻撃を仕掛ける。ディフェンスを二人抜いてシュートする。
試合開始からたった数十秒でゴールを決める。
その瞬間に体育館がもの凄い歓声に包まれる。
守4-0狙
東條は観客を見回した後で俺の方を少しだけ振り返りドヤ顔をした。
「やるなあ」
俺も前線に出たい気持ちがウズウズするが、今日のポジションはディフェンスだ。地味で目立たないが頑張るしかない。
ただ相手も馬鹿でない。東條がやばい奴だと分かったのだろう。今度は東條とは逆サイドを攻めて来る。イリスがディフェンスに戻って来たのだが身長が低すぎて頭上を通過したボールに手が届かない。
さらにアイリスが守りに行くがあっさりと抜かれてしまう。
守4-2狙
東條の機嫌が悪くなり、それを察したのかアイリスがごめんと言う顔をした。
「小宇坂くん、アトランティカさんと場所チェンジして」
「わかってる」
ライトは東條、俺、センターにリア、レフトにイリス、アイリスの布陣だったのだが、バランスが悪かった。まさか身長差で抜いて来るとは練習の時は思いもしなかった。
イリスなんかは壁にすらなっていない。
アイリスが東條へパスを出し再び高速で右のラインギリギリをドリブルし二人抜きで今度はスリーポイントシュートを決めた。
守10-2狙
さっきよりも大きな歓声が体育館に響き渡り、機嫌が良くなる。
ハンデの力が半端なさ過ぎて俺の必要性が疑われる。これが女子力という奴だろうか……。
一回戦はこの後も有利に進み、前半終了間際で「守38-狙10」、最終的には「守76-狙18」と圧勝あった。ちなみにこの試合での俺の得点はなしで全て東條の無双ゲーに終わった。さらに驚いたことはシュートを一回も外さなかったことだ。
つまり百発百中だったのだ。