Sports Festival ~First Day~(3)
遂にこの日がやって来た。
俺は今、柄にも無く炎天下の中グラウンドの隅っこで整列している。
炎天下と言ったが、東京に比べれば涼しいような気がしないでもない。気温は然程変わりないので湿度が影響しているのかもしれない。北海道の夏は涼しいなどと妄言を吐く者が居るがあれは真っ赤な嘘だ。
体育大会実行委員長で二年の大川が開会の挨拶をスチール製の架台の上で行なう。
体育祭、正式には体育大会だが、皆体育際と呼んでいる。
体育祭は一から五年生までの生徒が参加するスポーツのイベントで、どの競技もクラス対抗で行なわれる。一人当たりの参加種目の数に制限は無く、タイムスケジュール的に都合が合えば全ての競技に参加することができる。
体育祭は三日間行なわれ、一日目では各種目の予選を行ない、二日目で各上位での決勝リーグが行なわれ、二日目の締めくくりとしてリレーマラソンが行なわれる。
三日目は一般生徒を除いた学科の生徒によるフラッグ戦、簡単に言えばペイント弾使用し拠点制圧戦が行なわれる。
全ての競技には順位によって貰えるポイントがあり、そのポイントの得点数の多い順で表彰される。また競技によってポイントのウェイトが異なる。例えばマラソンリレー、攻城戦なんかはウェイトが重い。
大会は一日目と二日目の成績だけでクラスの順位が決まり、三日目は任意参加のイベントとなる。
二年守護科は俺、アイリス、イリス、リア、ニル、東條の計6人であるため、全ての競技へ参加することが難しく、不戦敗となる種目が出てくるため表彰台に上がるとかは夢のまた夢だろう。それに六人では人数が足りず出られない競技もある。
その中でも残念なのは攻城戦だ。この競技は七人一組で行なわれるため、現状では参加できない。ユークリッドが最後の頼みの綱だったのだが、千手院先生から任務で忙しく参加はできないと既に伝えられている。
去年、つまり月宮学園の時は国際科としてリアと共に無双したのだが、今年は無理そうだ。
横に立っているアイリスを横目に見る。制服も可愛いが体操着に似合っている、相変わらず控えめな胸は強調されないが、昔と比べると成長していようにも見える。ただそんな格好には似合わない日本刀を腰のベルトに固定している。俺もソードと鞘こそは外してはいるがベルト本体は装備している。本当はソードごと持ってこようかと思っていたのだが、あまりに不恰好だったので本体であるベルトだけを装備している。ただ変わりにSIG SAUER P220をベルトに固定したホルスターに装備している。
開会式を終えるとそれぞれの場所へと散らばっていく。
「せっかく出し円陣を組もうよ」
リアがまた余計なことを言ってきたと最初は思っていたが、結果的にアイリスと肩を組むことが出来たので、ここは感謝しておこう。
俺たちはグラウンドの隅で円陣を組む。
リアが一瞬だけ俺の方を見る。俺に掛け声をやれと言いたいのだろう。そんな柄ではないのだが……。
「それじゃあ、守護科は人数も少なく、上位を目指すのは難しいかもしれないが、六人で力を合わせて頑張るぞ!!」
「「おぉ――!!」」
全員で声を合わせる。みんなかなりやる気だ。イリスも何となく流れに乗れているような気がする。
「それじゃあ、今日のスケジュールを確認するわ」
真面目な東條がメモ帳をハーフパンツのポケットから取り出す。勿論、東條も日本刀をベルトで腰に装備している。
体育祭一日目はグラウンドで野球とサッカー、体育館ではそれぞれハーフコートでバスケットボールとバレーボールが行なわれる。野球とサッカーは人数的に不可能なので体育館での競技をメインにやっていくことになるだろう。他にも個人競技では硬式テニスと水泳が行なわれる。
団体では午前中はバスケ、午後はバレーに参加する。個人ではリアと東條で硬式テニスのダブルスに出場し、水泳にはニルとアイリスが出場予定ではあったが、スケジュール的に個人の競技は厳しそうだ。
「それにしても随分と綿密に組んだものだな」
「それはそうよ。この私が居るんだからどんな試合も負ける訳にはいかないわ!!」
プライドの高そうな奴だと思っていたが、プライドが高いと言うか、ただの負けず嫌いだ。
「試合開始は九時だからみんな遅れないようにお願いするわ」
「了解した」「はーい」など、各々に返事を返し教室へ戻る。
イリスは俺の横にくっついて来るが勿論無言だ。体操着を着ているのだがその上から防弾外套を着込んでいるので、いつもと雰囲気は一緒だ。
「暑くないのか?」
「?」
イリスは首を傾げる。
「兄さんは暑いですか?」
「そりゃあこんな晴天じゃあな」
空を見上げると太陽が燦々と輝き、偶に吹く風が少しだけ涼しい。
「直射日光は暑いですが、気温的には最適です」
少し驚いたが、イリスは体温が高い、言わば子供なので大丈夫なのだろう。だから寝ている時も気がつくとは大体イリスが抱きついている。あれは体温が高い故に寒かったのだろう。おかげ寝汗をかくことも多々あった。
今は暑くないようだが熱中症には気をつけなければならない。
「俺たちの初戦はバスケか」
「私が出場して勝てるでしょうか?」
「ルールは分かってんだろ?」
「はい、データベース上にありますので」
バスケとは言っても日程の関係上、体育館を半分に分割してハーフコートで行なう。これはバレーも平行して行なわれるからである。人数は五対五、交代要員として五人まで登録できるため、最大で十人が参加できる計算だ。試合時間は前後半それぞれ七分ずつでその間にインターバルが一分の計十五分で一時間四試合のペースで進んでいく。
「なら大丈夫だろう」
全ての試合はトーナメント方式で負ければそこで終わりだ。勝ち進めば分からないが今のところ試合時間が被っている競技は無い。
団体競技においては人数が少ないのでとりあえず全員参加としているが、優先順位的には俺、東條、リア、イリス、アイリス、ニルの順で出ることになっている。なぜこの順なのかは運動神経が普通かそれ以上の俺と東條とリアを前にしているだけで後ろの三人はローテーションさせる予定だ。俺の見立てではアイリスは運動神経良さそうなのだが、あまり自信が無かったため、こういう構成になった。
ちなみに全ての競技は男女混合で行なわれるが、バスケだけは女子がいる場合にハンデはついている。シュートの場合は通常の倍、得点が入る。つまりは普通にシュートして四点、スリーポイントならば六点入る。五人中四人が女子なので使わない手はないだろう。
一端、大講堂に戻り荷物を取ってからイリスと共に体育館へと向かった。