Sports Festival ~First Day~(2)
あれから東條は頑固にも数分言い渋っている。
「オ、オ、オフェリアさん……」
「超カワイイ―――!! けどダメ、リアよ」
「無理よ、無理、無理、やっぱりいきなりは無理だわ!!」
「女の子同士なんだから別にいいじゃん」
「無理よ、私名前で呼び合うような友達なんか居なかったし……」
あんなに社交的なのに友達はいないらしい、聞いていくと厳しい家庭の元で育ったようで、幼少期から跡取りとなるために剣術一筋で生きてきたようだ。
「だから誰かとどこかに行くとか、そういうのは小学生以来だから」
「じゃあ今こそ呼んでみようよ」
「そもそも友達ではなくクライアントでしょ、ならば分別がつけるべきだわ」
「それなら今から友達ってことで、どうぞ」
強引に押し切ったリアは東條に壁ドンする。
「リ……」
「リ?」
「……リア」
リアの強い押しに遂に陥落した東條は恥ずかしながら小さい声で呟いた。
「Bonne réponse、正解よ。これからよろしくね、うーちゃん♪」
飛び跳ねるように喜んだリアはそのまま東條に抱きつく。
「うーちゃん?」
アイリスが首を傾げる。
「そうよ、だって羽珠明っていうんでしょ、じゃあうーちゃんだね」
アイリスが「なるほど」と言いながら納得する。ニルも便乗して「私もそう呼ぶ」とか言っている。
「ちょっと、勝手に変なあだ名付けるの止めてもらえるかしら」
「いいじゃん、いいじゃん、それにカワイイって」
東條は「そういう問題では……」と小さく呟くがリアはそれを無視する。
それからアイリス、ニルと呼ばされ、矛先はこちらに向く。
「次はソウスケたちも呼び捨てにしたら?」
「でももう小宇坂くんって呼んでいるし」
東條が俺に助けを求めるような視線を送ってくる。
「俺は今のままでいいよ。それに仲が深まれば自然とそういうのって変わるだろうし」
「ちぇ~、ソウスケは詰まらないわね。でもイリスはイリスでしょ?」
「私は何と呼ばれようと構いませんよ、羽珠明さん」
イリスが無表情で先手を取る。
「……わかったわ、それならイリス、これからもよろしくお願いするわ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
「休憩はこの辺にしてもう少し練習しましょう」
「え? 今日は終わる流れじゃないの?」
ニルはすっかり帰れるものだと思っていたようで、少し驚いた表情でそう言う。
「まだ十六時よ、もう少し練習できるわ」
「それにしても随分やる気だよね」
ニルのやる気がないだけとも思えるが……。
「そうかしら?」
「そうだよ、大体、この人数じゃあどちらにして上位には食い込めないと思うのよね」
ニルの言うことはその通りで、人数的にいくつかの競技を捨てることになるため、不戦敗の種目が足を引っ張る。行けても中の上くらいであろう。
「それでもやれるだけのことはやりたいの、それに……」
「それに?」
「私は負けることが大嫌いなの!!」
東條は赤い顔のままでズバリそう言い放ったのだった。