Car Chase on the Highway(11)
~Student Association Side~
静かな校舎の一室で女子生徒が二人、時刻既に下校時刻を過ぎ、残っているのは彼女らと教員くらいか……。
「とりあえず、ご苦労様、とでも言っておくかしら」
生徒会長の椎名朱音は腕を組み壁に寄りかかりながらそう言った。
「思ってもないことは言わないほうが良いわ」
「そうね」
黄金に輝く長い髪の毛と特徴的な赤いマフラーを窓から吹き込むゆるやかな風になびかせながら、ユークリッドは校庭を見下ろす。
「急な案件だったが、何とかなったようね」
「あれでなったと言うつもりか? 結局、本丸は逃がしてしまったしな」
「あなたにしては珍しいわね」
「最近はどうも能力が安定しない。その本丸、生け捕りにしなければいけないんだろ?」
「その通りよ。一応、まだ任意同行程度の話だった訳だし、それに彼は外交特権付きMVPよ。何かあっては国全体の問題に発展するかもしれないわ」
「ならば、あの判断で正解だ。工場ごと吹き飛ばすのは容易だが、命の保障はできない」
それを聞いて会長は小さくため息をついた。
「もう少し能力を制御できるようにお勉強するべきね」
「それを全力で阻止しようとしている理事会の手先のお前が言うのか?」
ユークリッドは皮肉っぽく笑う。
「それでそろそろ本題に入ったらどうだ?」
「それもそうね、本題に入りましょうか。来月からの話だけど、理事会から守護科への出入りをしないよう通達が来ているわ」
「理事会……、なるほど」
ユークリッドは「理事会」という言葉を聞いて一人で納得する。
「理由は聞いていないわ。ただあなたにそう伝えるように言われただけ」
「それは分かったわ。お前はそれだけのために呼んだのか?」
電話でも十分と言いたげだ。
「いいや、渡すものがあったから態々呼んだのよ」
彼女はポケットから透明なプラスチックのケースに入った手の平サイズの立方体を取り出す。中には透明な液体が入っているのだが取り出す口は無い。
「そういえばミッションの報酬にあったな」
会長が手渡すと立方体を胸ポケットに入れる。
「他に用事が無いなら帰らせてもらうが?」
「そうね……」
ユークリッドが窓に足をかける。
「そうだ、体育祭よ。あなたの出欠を担任が気にしていたわ」
「そうか、……私は例年通りだと言っておいてくれ」
「それくらい自分で伝えなさい……って、行っちゃったわ……」
窓が出て行ったユークリッドを背に会長も「私は伝言役では無いのよ」と呟きながら部屋を後にした。