Car Chase on the Highway(7)
後はどのインターチェンジで降りて来るかによるだそう。
車の数が増えてきて現在は百二十キロ巡航だ。
場合によっては札幌を通過することも有り得る。段々と日が落ちてきておりもう少しで真っ暗になるだろう。
「ニル、これから少々荒っぽいことになるかもしれない」
「聞いてて何となくわかってるけど、86ちゃんに被害が及ばないようにお願いするわ」
「努力はするが、それは敵さんに言ってもらいたいものだ」
そしてイリスに視線を向ける。
「兄さん、わかっていますよ。私も準備はできています」
「ああ、頼りにしてる」
「でもその前にドンパチなるかもね」
ニルがバックミラーを見る。
黒塗りのハマーH1が一台接近してきている。
どこかで見たことがあると思ったが直ぐに思い出す。あの時だ、東條と校舎の屋上に行った時に校門に停車していたものとそっくりだ。運転席と助手席にはスーツにサングラスの男が二人乗っている。そして助手席の男が窓を開けて拳銃を出した。
「――――やっば!!」
ニルはギアを三速、二速と入れて急激に減速しエンジンがもの凄い回転数で唸る。その反動で体が前に引っ張られる。
そして走行車線に車線変更する。
音は聞こえないが腕の動きから数発発砲したようだ。
「嫌な予感、してたのよね」
急な車線変更に後ろのトラックのおっちゃんは不機嫌だ。
「これで横に詰められたら終わりだな」
「それ言わないでよ。しかも真っ先に私撃たれるじゃん」
「イリス、タイミングはまかせるぞ」
「了解です、兄さん」
ただイリスのアブソリュートは座標を固定するタイプの能力であるため動いている車をカバーすることはできない。だが方法は一つだけあり座標を横に幅広く取るという方法だ。
これを使い発動タイミングから百メートルくらい先まで運転席側に展開することで攻撃は防げる。そして数百メートル進む事に能力を再展開する。
「ニル、運転席側の窓を開けてくれ、後、絶対に顔を前後に動かすなよ。俺が誤射するかもしれない」
「誤射って、怖いこと言わないでよ!!」
「俺は拳銃をニル越しに構える」
「やめてよ、もう!!」
「静かに運転に集中してくれ」
「いや、無理でしょ。何言ってんの、この人!!」
ニルがかなりビビッてるけどこれでやるしかない。両手持ちでしっかりと構える。
サスペンションから伝わる振動、車同士の車間距離、どれも不規則的で予想はできない。だが精密射撃、やるしかない。
イリスが倒れる前に何とか決着をつける必要がある。
「安心しろ、お前が動かなければ当たることはない」
「わかったけど、死んだら恨むからね!!」
「……来るぞ」
86の速度は八十キロジャスト、向こうはもっと出ているだろう。
段々とトラックの陰から姿を現すハマーH1に怯えながらもやるしかない。
この速度で百メートル以内に何とかするならば制限時間は約二十二秒だ。
相手は既に勝ったとでも思っているのだろうか。悠々と並走し銃をこちらに構えた。
「――――アブソリュート」
――――――バァァ――ン!!!! ――――バァァ――ン!!!!
放たれる二発銃弾が交差する。
比喩ではなくニルの目の前を通った銃弾は男の腕を直撃する。一方ニルを狙った男の弾丸はイリスのアブソリュートの障壁に運動エネルギーを吸収されこちらへは届かない。さらに数初打ち込むが敵が急ブレーキをかけたため他の弾は全て躱される。
「ニル、前に出るぞ」
「わ、わかったわ」
再び二速でエンジンの回転数を上げて追い越し車線に出る。そして再びフェラーリを追うが既に一キロ近く離されておりここから追いつくのは至難の業だ。
「もう無理か?」
「馬鹿言わないで、ここまで来て『見失いました』なんて言える訳ないでしょ!!」
車と車の間を縫うように追い越して行く、それもスピードをあまり落とさずに。
やがて赤いボディが見え始める。
「追いついたわ」
それも束の間、フェラーリは急に車線を変更して高速を降りようとしている。
「――――間に合うか」
ギアを落として減速するが……どうだ。強引に走行車線へ車線変更しインターチェンジの出口に入れるかどうか……。
「危なかったわ」
ギリギリで間に合い高速降りる。後一秒でも遅ければ追跡を断念せざるを得なかっただろう。
ETCを通過し一般道に入る道の歩道から三十キロで走行する86に追いつく速さで走って来る人影が見える。
「敵か!?」
俺は慌てて銃を構えるが、それはどこかで見たことあるような金髪の少女だった。