Car Chase on the Highway(6)
ただここまで来た以上は何か戦果を持って帰りたい所だ。
こちらで打てる手が今のところ無い。だが学園側に応援を仰げれば何とかなるかもしれない。
俺は生徒会の椎名会長へ連絡して見る。
『もしもし、椎名ですが』
「椎名会長ですか、小宇坂です」
『小宇坂くんからかけて来るなんて、……もしかしてまた何かあったの?』
「ええ、まあ、……まだ荒っぽいことにはなっていませんが、校門前で少しありまして――」
ここまでの流れをざっくりと説明する。
『――大体の事情はわかったわ。確かに小宇坂くんの名前を知っていたことは気になるわね。それに小宇坂くんの推測通り退路をしっかりと確保していると見て間違い無いと思うわ』
「何かそちらで出来ることはありませんか?」
『そうねぇ、……LEGENDの札幌支局に応援を貰うことは出来なくはないけど、その男が先日の件のどれかに関与している決定的な証拠は無いからねぇ~。一応掛け合っては見るけど期待しないでね。こっちではNシステムから車両をある程度追跡できるくらいが精一杯だね』
「深追いはせずに戻った方がいいですかね?」
『……ちょっと待って、……小宇坂くん、追ってる車のナンバー教えてくれる?』
「わかりました」
ナンバーを読み上げる。おいおい、何で気づかなかったんだよ。よく見るまでもなくあの車は外ナンバーだったのだ。
「ニルは気づいてたか?」
「勿論よ」
会長がしばらく無言になる。
『……小宇坂くん、ビンゴよ!!』
「何かわかったんですか?」
『これまでの不可解な事件が全て繋がったわ。まずこの車なんだけど、フランスのノルマンディー侯爵がVIPとして来日するために用意されて車ようなんだけど、そのノルマンディー家といえば最近目にした苗字だと思って別の資料を漁ったらフランス政府とノルマンディー家の合議文書でアイリスちゃんの引渡しを要求していたんだよね』
「初耳な事が多すぎて何と返して良いかわかりませんが……」
『そういえばアイリスちゃんが何で月代に居るのかって所からよね。これ話していいかグレーゾーンだから理事会には内緒ってことで良いわね?』
「はい、わかりました」
アイリスの事情について、深くは追求して来なかったのは裏で何か大きな力が働いているような気がしたからだ。これはアイリスを知る良い機会だ。
『何でアイリスちゃんがここにいるのかって話だけど――』
アイリスはあの日、俺と一緒にあの事故で被災した。俺はフランスのレスキューチームに救護され一命を取り留めたが、アイリスはそうではなかった。フランス政府の救助部隊では手が足りず、他国への応援を依頼していたようで、LEGENDのフランス支部も応援に加わったそうだ。そこで救助されたのがアイリスだったと言う訳だ。俺とアイリスがほぼ同じ場所で被災したにも係わらず俺だけが先に救助されたのは単純に瓦礫に埋もれていた深度の差だ。
俺は瓦礫を少し被った程度だったが、アイリスは瓦礫の表層からかなりの深さだったようで探知系の能力者によって発見・救出されたようだ。
その後、俺は早期に救助されたため近隣の病院に収容されたが、アイリスはかなり後になってから救助されたことと怪我の状態が非常に思わしくなかったためフランス国内には収容可能な病院がなかったようで、そのため日本へ治療のため送られた。
『――ただ、それだけだったら良かったんだけどね』
「他に何かあるんですか?」
この話に納得しかけたがどうやらまだ何か事情があるようだ。
『小宇坂くんに聞くけど、今の話に何かメリットを感じるかしら?』
「メリットですか?」
『そうメリットよ』
「企業の国際的な信用が上がるとかですか?」
『そう、対外的に見てメリットはそれしかないわ。ただそれだけでは人件費や労力には見合わない。でも援助したのには他に理由があるわ』
「何です?」
『それはこの学園……というかLEGENDの研究分野と深く関係があるわ。LEGENDは知っての通りPMCなのだけれど、裏では能力に関する研究も行なっているの。今回の事故で大量の『超粒子(Hi-Particle)』が放出されたようなの。それで粒子による人間への影響を調査したかったようね』
「それでアイリスが被検体に?」
『悪く言えばそうなるわ。でも安心して欲しいのはアイリスちゃん自身に何かする訳ではなくてあくまで影響調査だから経過観察だけ、何も手を加えてはないわ』
「……もしかして定期健診もそれに関係してるんですか?」
『鋭いわね。本当に身体の健康状態も確認しているけど、他は小宇坂くんの思ってる通りよ』
アイリスのここへ来た経緯は良くわかったが、イマイチ関連性は見えて来ない。フランス政府がアイリスの返還を要求をしていることに何か重要な事が隠されているのだろうか。
まだフェラーリを追えており車は江別市に入る。
『少し逸れてしまったわね、それでアイリスちゃんの引渡し要求なんだけれど、元々政府からのみの要請はあったのだけど、ノルマンディー家からも要求が来たのはつい最近の話よ。こちらとしては渡すつもりはないのだけど、政府の特殊部隊が動いた可能性があることは既にフランス支部から日本へ伝えられていたわ。だから警戒はしていたつもりだった。けれど事件は起きてしまったわ』
「あの事件にフランス政府が関与しているとでも言いたいんですか?」
『確定ではないわ。けれどアイリスちゃんのいるアパートが狙われたわ。それにそれ以前の事件でもアイリスちゃんは狙われているわ』
確かにアイリスは狙われたが今回の件に関しては俺とイリスが狙われたように思うが……。
「それを理由に札幌支部に応援を要請はできないんですか?」
『それでも難しいわね。なぜならアイリスちゃんは一緒じゃないんでしょ?』
「はい、学園で東條とリアで護衛してもらっています」
『なら尚更ね。ターゲットはアイリスちゃんである以上、現状でアイリスちゃんの安全は守られている。だから緊急を要する案件には値しないだろうと思うわ』
「そうですか……」
『ただし、こうも言える。敵のアジトの見つける絶好の機会とね。なので生徒会から月代生徒で札幌に居る子がいないか、それで可能ならば支部からの指令じゃなくて生徒会指令で動けないか調べて見るわ』
ここで出てくる支部指令と生徒会指令の違いは、支部指令はLEGEND美咲総司令本部により決定されて作戦に基づき札幌支部にて発せられる指令のことだ。そして生徒会指令とは生徒会が請け負った主依頼の中でも守護科へ発せられる指令のことだ。ちなみになぜ守護科だけかと言うと様々な待遇がある代わりにLEGEND及び生徒会からの依頼を引き受けなければない。守護科という選ばれた優秀な生徒のみ与えられて特殊任務だ。
『該当者は三名いるわ。合流できそうならば小宇坂くんのGPS信号を頼りに合流させるから、絶対に電池を切らせたり、電波の届かない場所はNGだからね』
「了解しました」
『何かあればお互いに連絡しましょう。それじゃあね』
これなら何とか現場を押させることが可能かもしれない。
「結果は上々みたいね」
「ああ、応援も呼べそうだ」
「ならば地の果てまで追いかけるのみだね」
長電話の間に景色は都会になっており、もうそろそろ札幌市へと到着する。