Car Chase on the Highway(5)
遠目で料金所が見えて来る。
「さてどっち方面に逃げるのかな?」
「そりゃ札幌方面だろ、名寄方面に行っても道北何て何も無いんじゃないか?」
「普通に札幌方面だったわ」
二台とも料金所をETCで通過、ここからが本番だろう。
さっきまでの大人しさとは裏腹にもの凄い轟音と共に急加速するフェラーリにニルも二速全開でアクセルを踏む。
二十キロくらいから九十キロ近くまで急加速、エンジンも7000回転を優に超えており数秒足らずで三速に入れる。
あまりに凄いGにバケットシートに押さえつけられる。イリスが心配だがシートベルトをしているので飛ばされることはなく、大人しく座っている。
「やっぱり追いつけはしないわね」
ニルが悔しそうにしている。
「馬力の違いか?」
「そうでもないわ。馬力は向こうが812、こっちが830だからカタログスペック上は勝ってるんだけど、やっぱり車体のバランスがいいんだろうね。こっちも可能な限りパーツ同士の親和性を上げつつチューニングしたんだけど、元も車体で既に劣っている部分についてはどうしようもないわね」
お互いに駆動方式は同じなもの前後の車重バランスなんかが全て純正のフェラーリに劣っているのだろうとニルは指摘する。
「この子は頭でっかちだから、後輪にトルクがかかりにくいんだよね。加速した時も若干滑ってたし……」
それに俺たちが乗っていることで出力重量比的にも不利になっている。
ただ一般の人もいる中での走行であるため向こうも170キロくらいで停滞する。
「何とか追いつけそうだね」
「それにしても随分大きなエンジン音だな」
「車内でこれだから外はもっと煩いわよ」
深川市に入った所でようやくケツにつける。ここまで追い越し車線を走行してきたが、走行車線の車が遅すぎて戻れる訳もなく張り付いたままだ。
「なんとかなりそうね」
「どこに行くか追跡できればそれでいい」
「わかってるけど、フェラーリは私のライバルだからね」
「ライバル?」
「そうだよ。いつも高みの見物をしている奴が大嫌いなのだからいつか勝ってみたくてね」
大嫌いとは随分な言われ様だ。
「だが向こうからして見ればスポーツカー何て眼中に無いんだろうな。相手はスーパーカーだし」
値段差にして十倍、その差非常に大きく、そのまま性能へと直結している。
「せめてGT-Rに乗れと言われるだろうね」
「ただ俺はGT-RをR34の後継とは認めないぜ」
「気が合うわね。それは私も同意よ。もうデザインからして違うしね。どっかのオーナーのR34は乗ったことあるけどね」
R34ってそんなに持っている人いないだろう。どういう人脈なのか。
「金ならあるだろうし欲しければ買えばいいんじゃないか?」
手切れ金も残っていることだし……。
「宗助はイリス関連も含めて一千万以上貰ってると思うけど、私とリアが百万くらいしか貰ってないからね」
「……マジか!?」
「大マジよ、だからそんな買うなんて絶対無理なのよ。それに86も何やかんやでそんなにお金はかかってないしね」
車関係の知り合いが多いようで格安で譲ったパーツがほとんどでかかっているのは主に維持費だそうだ。
「お前らも俺くらい貰ってるものだと思ってたわ」
「だからごはんくらい連れてってくれても罰は当たらないと思うんだけど?」
「……わかった、今度な」
「期待してるわ」
既に札幌までの半分の距離を走っており、三笠を通り過ぎもう直ぐ岩見沢に入ろうとしている。
「やっぱり直線では全く歯が立たないわ」
「カーブではギリギリって所か……」
一般の車両が無ければ今頃は見失っていただろう。
車は急激な加速と減速を繰り返しながら進んで行く。
「そういえば、宗助はこのまま追いかけてどうするつもりなの?」
「目的は敵の手がかりを掴むことだ。必ず最後はどこかアジトみたいな所へ逃げ込むだろうし、それは突き止めて俺たちは撤退だな」
「あれ? 攻めないんだ?」
「この人数じゃあ無理だろう」
場所だけ突き止めて後は学園側に応援を貰って調査は任せた方がいいだろう。ただそれも上手く行くかはわからない。
入念に逃走ルートを決めていたようだしこちらが追って来ることは既に想定済みだとすればそこに近づくこと自体危ない。
本当にやばそうなら手遅れになる前に引き返すべきだろう。
「イリスはどう思う?」
「相手は追跡された場合も想定して動いていると考え良いでしょう。そのため私たちが誘い込まれているとも考えられます。よって無理はせずに下がるのが得策かと……」
「確かにその通りだ」
「それでどうする?」
「こちらも退路を確保する必要があるし、市内に入った所で諦めるしかないか……」