Car Chase on the Highway(2)
「あれフェラーリじゃねぇか?」
「あのエンブレム見たことあるかも」
カナリーイエローの背景に跳ね馬、エンブレムの上部にイタリアの国旗の三色トリコロールのラインが引かれている。
「昼間だから良いけど、もっと静かに走ってもらいたいものだわ」
「近隣住民は迷惑だろうな」
何て他人事のように話していると校門の前で減速する。
まさかとは思ったがこの学園に用事があるようで校門前の道路挟んで向かい側に停車する。
のっているのは三十代くらいに男が一人真っ赤なフェラーリから降りて来る。白のタキシードにオールバック何て時代遅れもいい所だ。そしてなぜか俺と目が合う……というか凄い眼力で睨まれた。間違いなく初対面だが何かしただろうか?
真っ直ぐにこちらに向かって来るので身構えるが、俺よりも前に東條が出る。
「あなたこの学園の生徒で無さそうだけれど、何のようかしら?」
物凄い上から目線で腕を組んでいる。最近思い始めた事だが、東條ってどちらかと言うと女王様体質なのではないだろうか。
「F:何だ、お前?」
かなり汚いフランス語でそう言った。
「申し訳ないのだけれど、私、フランス語は分からないわ、だから日本語で話て貰えるかしら?」
お互いに言語を譲る様子はなく、リアが前に出る。
「F:すいませんが、何のようでしょうか?」
俺はその言葉を聞いて少し驚く。何て言えばいいのかな……、普段の元気系な今時ギャルみたいな感じは一切無く、お淑やかな雰囲気を醸し出している。一瞬「誰だ、こいつ?」と思ってしまった事は秘密にしておいてほしい。
「F:俺はアンジェに用があるんだ、そこを避けてほしい」
男がアンジェと呼んで指を差したのはアイリスだ。
その瞬間、俺は察した。アイリスの事をアンジェと呼ぶ。つまり事故以前の彼女を知っているということになる。アンジェとは元々のミドルネームに当たるものなのだが、どうやら記憶と一緒にどこかに置き忘れたようでアイリス・アトランティカとしか名乗っていなかった。正式な書類にもそう記載しているようで間違いない。
再び過去からの刺客が現れてのだと警戒するが、見た感じはただに一般人だ。
これらからは三つ可能性を推測できる。
一つ、アイリスを知っていることから頭のおかしい女の仲間で俺やアイリスを狙いに来た。
二つ、それらとはまた別の勢力でアイリスだけを狙っている。
三つ、服装から察するにプロポーズしに来た。
まさか三つ目は無いだろうと思いたいがこれらの中では三つ目がもっとも有力だ。
アイリスは指を差されて「私?」みたいな感じで首を傾げる。
「F:俺は彼女を護衛している。近づきたければ説明しろ」
俺はその場でテキトウに設定を作る。
「F:なんだと? お前に指図される言われはない。俺はVIPとして日本にやって来た。お前らみたいな雑種とは訳が違う高貴なる血統を持つのだ。さっさと退いてもらおうか?」
「F:俺は何のようだと、聞いた。早く答えなければ、実力行使も辞さない」
「F:てめぇ、貴族の俺様に向かってその口の利き方は何だ?」
「F:実力行使も辞さないと言った。三度目は無いぞ」
「F:……仕方ない。お前は知る必要の無いことだが、特別に答えやるぞ、雑種。俺はアンジェを迎えに来たのだ」
「F:――――何!?」
「F:なぜなら俺はアンジェの婚約者なのだからな!!」
その言葉に俺は完全にキレた。初めからイラついてはいたが何とか押さえていた。だがもうリミッターはぶっ壊れている。
「F:そうか、なら少しここで待っていろ、彼女はフランス語が分からないんでな」
「F:……」
俺は自分の襟首を触りイリスに合図する。
それに気づいたイリスは俺とエクスチェンジするように少しだけ前に出た。
俺はアイリスにゆっくりと近づく。
「ど、どうしたの宗助くん?」
異様な雰囲気で近づく俺に少しアイリスの動きは硬くなる。
東條は刀に手をかけていないがいつでも抜刀できるような戦闘態勢を維持している。リアは俺の方を見て「面白くなってきた」と言わんばかりの視線を俺に向ける。
そしてアイリスの目の前に行きタキシードの男からはアイリスの顔が見えない場所に立つ。
「アイリス、よく聞いてくれ。あの男が指差したのはアイリスではなく隣のイリスだ」
耳元で囁くように言う。びっくりしたのか顔が赤くなっており、少し擽ったそうに見える。
「……え、そうなの?」
「ああ、あの格好から何となく想像できるかもしれないがどうやらプロポーズをしに着たようだ」
「プロポーズってイリスちゃんに!? でもイリスちゃんはまだ子供だよ」
「つまりはそういう特殊な性癖のある危ない男だ。有体に言うならばロリコンだな」
「ろ、ろりって、そんなのダメだよ」
「ああ、俺もそれには同意だ。だが相手は一般人、物騒なことは避けたい。だからアイリスにはイリスを守って貰いたい」
「分かったわ」
少し赤かった顔はそのままに目つきが鋭くなる。
そして俺はある行動に出る。いやさっきまではデモンストレーションでここからが本番だ。
俺はアイリスの顎にそっと手を置き少し上を向かせる。
東條は表情を変えなかったがリアは相変わらずニヤニヤとしているし、それよりも気になったにはイリスが驚いたような表情をしていたことだ。
「え、何、どうしたの、宗助くん?」
俺とアイリス、キスをしていまうんじゃないかという距離まで接近する。今はここまでで良い。俺は自分の欲を限界の所で抑えた。
「アイリス、君にまかせたよ」
俺はそっと呟いた。