End of Silent Night(11)
俺が玄関へ退避するよりも早く前後方向から同時に発射される。
背後から飛んでくる弾頭は俺の直ぐ横で疾風を巻き起こしながらすり抜ける。そして両者は一直線上の射線の上を飛んでいる。
RPG-7の弾頭は俺の背後から飛んできた弾頭に衝突し俺と敵との中間の位置で爆発する。これは間一髪だった。玄関に戻り背後の敵の正体を確認し拍子抜けする。
見慣れた女子制服とそれに見合わない大きなアンチマテリアルライフルをバイポッドも使わずに両手だけ支えている女子が膝を着いて発射の衝撃に耐えている。
あれは間違いないDenel NTW-20だ。
「ギリギリだったわね」
余裕の表情でリアがウィンクする。
気が動転していたので気づかなかったがそういえば隣はリアの部屋だ。
Denel NTW-20の弾丸はRPG-7の爆風に負けずまだ空中を飛び続けているのだ。
男は躱す動作をせずに階段の柵ごと地面へと落下していく姿が見える。それを目の前で目撃したコンバットナイフの男が恐怖のあまり躓く。俺は爆風の後に残った黒い煙を掻き分けるように前進しその男の背後から防弾チョッキごとソードで叩ききつける。さらに怯んだのを確認し襟元を後ろから掴み上げて床を擦りながら外れて柵がなくなった部分から投げ落とす。
「ブラボーだね、ソウスケ」
リアが親指を立てる。
「ブラボーじゃねぇよ。一歩間違えれば俺が吹っ飛ぶところだったろうが」
「まあまあ結果オーライってことで、それにしても随分派手にシューゲキされたものね」
「まだ終わってないけどな」
「とりあえずニルとアイリスさんの安否確認は任せて!!」
「ニルはその必要がないな」
「?」
リアは「どういうこと?」と言わんばかりに首を傾げる。
「車がないだろ?」
駐車場にはいつものTOYOTA 86が停車している。
「いやあるじゃん」
「……リアは知らないかもしれないが、二台目の86でナイトドライブでもしてんだろうな」
「ごめん言っている意味がよくわかんない……」
結局理解はして貰えなかったがリアにはアイリスの元に行ってもらうように指示する。
俺は急いでイリスの元に向かう。
「イリス無事か?」
茶の間には東條がおり既に戦闘は終了したような雰囲気だ。
「小宇坂くん、ベランダ側にいた奴らは全て処分した。後は表側だけだ」
「表も粗方はどうにかした、落下した連中はまだ生きているだろうな」
ダネルの20mm×120mm弾で柵一緒に跳んで行った男は死んだだろうが……。
「後最初に銃撃を仕掛けた連中も処分した。まだ隠れているかもしれないが……」
そういいながら玄関の方を確認する。
するとアパートから少し離れた路地に止まっていた黒塗りのHummerが三台走り去るのが確認できるが追いかける手段がないため仕方なく見送る。
正面側の敵は全て回収されていたが、ベランダ側は残されたままとなっており、それからしばらくしてやって来た風紀省の人に身柄を拘束された。
アイリスは部屋の中に篭っていて無事で、ニルは俺の予想通ナイトドライブに出かけており無事だったのだが、血やらなんやらで汚れたことに激怒していた。
時間は深夜三時を過ぎておりイリスが眠そうにしている。
「これじゃあ、玄関からもベランダからも泥棒が入り放題だな」
夜風が吹き抜け、カーテンが暴れる。
「貴重品だけ持って、今晩は私の部屋で過ごしましょう」
「それしかないな」
俺の真下が東條の部屋だ。
貴重品と言ったけど、そんなに持っていくものも無かったのだが、そこで面白かったのは東條が慌てたように俺の部屋に置いてある自分の下着を黒いビニール袋に入れて持って帰っていたことだ。
「そんなもの誰も盗まないだろうに……」
「小宇坂くんは下着泥棒という犯罪者がこの世界にいることを知らないのかしら?」
俺のぼやきを聞いていたようで少し不機嫌になりながらそう言った。