End of Silent Night(10)
~Sousuke Side~
東條がこれまでの経緯をざっくりと語ってくれたことを纏めると大した敵ではなく余裕で倒すことができたが服が汚れてしまったという話だった。
それにしては随分と時間がかかっているがそこは触れないでおこう。
「とりあえず何か食べるか?」
「そうね、何も食べていないからお腹が空いたわ」
東條は少しだけ肩の力を抜いた。
それから少し騒がしかったがイリスが起きることはなかった。
東條は相変わらず制服姿で刀を抱えた臨戦態勢のままソファーに横になっている。
俺が最後に時計を見たのは十二時を少し回った時だった。
「……兄さん」
小声でイリスが何か言っているが夢だろうか。
「…兄さん」
ゆっくりと目を開けるとイリスの顔が数センチの距離にあり少し驚くが声は出さない。
イリスの吐息がかかる位近く、耳元で囁いていたようだ。
「どうしたイリス?」
「落ち着いて聞いてください」
「何だ?」
嫌な予感がしていたがそれは見事に的中する。
「何者かがこちらを監視しています。私は気づいた時から既に三分以上が経過しています」
それから直ぐに東條も気づいたようで突然ソファーから転がり落ちて玄関の方へとかなりの速さで匍匐前進する。動きがプロフェッショナル過ぎて言葉では言い表せないが、とりあえず凄いとだけは言っておこう。
それから直ぐにスマートフォンから通知音がなる。
東條からだ。
『今すぐ制服に着替えて』とだけ書かれている。
画面も見ずに片手操作で文字を打ったようだ。よくやるな……と感心しつつもベッドから這い出て壁にかけてある制服を引き寄せる。イリスは俺の上を軽く飛び越えウォークインクローゼットの中に入る。
制服のズボンを着てワイシャツを羽織った時だった。
――――――バィリィィィン!!!!
窓ガラスが割れる音と共に無数の弾丸がベランダの窓に降り注ぐ。ベッドを楯にするが、壁を貫通してくる様子はない。窓ガラスが割れる音がしたが破片が散らばっていない所を見るに割れたのは外窓だ。うち窓も外の様子が見えないくらいにひび割れている。
銃撃は間欠的に五分以上続いており、身を隠しながら何とか着替える。俺より早くに着替えたイリスは地面を這いながら俺の横まで戻って来る。射線を追うに数十メートル先の背のそこまで高くない建物の屋上とかその辺だろうか。
東條はタイミングを見て玄関から出て行った。音だけを聞くに扉が閉まるまでに数人を切り倒したようだ。玄関が施錠されていないが、どの道あの程度ならば銃弾で数発なのでそこまで気にしなくても良い。
東條が何をしにいったのかまでは把握していないので俺たちはここに篭る方が安全だろう。……などと悠長なことは言っていられなかった。
さっきまで銃撃音とは異なる爆発音で遂に内窓が破られる。携帯できる武装で有力なのはRPG-7だろう。
外と通々になったため外気が入り込み一気に室内の温度を下げた。これにより楯は失ったが外は良く見える。
床に耳を当てるとよくわかるくらい下手なスニーキングでベランダを移動する複数の足音が聞こえる。建物の外壁にある屋上への梯子でも登って来たのだろう。
「イリス――――」
「――――了解しました、兄さん」
俺が最後まで言わずとも言いたい事を理解したようだ。
「……アブソリュート」
イリスが張ったのは元々窓ガラスがあった場所だ。
俺は窓の近くの壁に背を付けSIG SAUER P226を構えてながら敵が侵入するのを待つ。
「――――突撃!!」
大きな掛け声と共にベランダに見えるだけで三人の男が外と通々の窓に突進するように侵入を試みるもアブリュートに阻まれ玉突き事故状態になったタイミングで堂々と窓の前に出る。
敵は状況をつかめていないのか持っていたアサルトライフルを乱射するが目の前の見えない壁が銃弾を阻み俺には届かない。だが俺の銃弾は見えない壁をすり抜ける。
イリスの能力は完全な透明ではなく薄い水色である。さらに言えば薄い膜のようなもので厚さが部分によって不均一なことから生まれる光の屈折の影響で少し空間が歪んで見えるのだが、夜中ということもある全く気づかなかったのだろう。
先頭敵が銃弾を避けるために後続を押しのける後続も銃弾を躱そうとベランダから飛び降りる様子が見える。俺はマガジンが空になるまで打ち続ける。相手も能力者なのだろう。銃弾をうまく躱したり防弾チョッキに当てたりして体への直撃を防ぐ。
ベランダからの突入に失敗した事に焦ったのか今度は玄関前が騒がしい。
「イリスはそのまま継続だ」
「了解」
俺は玄関に走りSIG SAUER P226を再装填しガンホルダーに戻しライトソードを抜刀する。
「朱雀流攻壱型【椿】」
踏み込んだ右足に全体重を乗せて開きかけている玄関扉ごと切断し二つに分かれた扉だったものを蹴り外に出る。
「――――朱雀流攻壱型【寒椿】二斬!!」
扉の真裏に居たらしい一人が柵を越えて落下するのが一瞬見える。玄関出て右に敵は居ないが直ぐ左にアサルトライフルを持った男が二人引き金を引くよりも早いスピードで二段切りだ。アサルトライフルは銃身ごと真っ二つに切り裂かれる。さらに間髪入れず体当りで柵の下に一人落とす。その横から一歩後ろに居た男が破損したアサルトライフルを捨ててコンバットナイフで切りかかってくる。それの攻撃に対してレフトソードを抜刀しガードする。
「てめぇら何者だ?」
「答える義務はない、死ね」
ギリギリと金属同士が擦れ合う。
力負けするのは勿論コンバットナイフの方だ。
「下がれチャーリー3」
コンバットナイフの男の後ろの下り階段から上半身だけ出した男がRPG-7を構えている。コンバットナイフの男は俺に背を向け全速力で後退する。俺も玄関へ戻ろうとするが反応が一歩遅れる。弾頭が切り離され飛んでくるのが見える。
さらに後ろの玄関が開き誰かが出て来て射線がこちらへと向けられるが後ろは振り向けない。
――――――ドゴォォォォーーーーン!!!!!!
そして俺の背後から途轍もない轟音が響いたのだ。