End of Silent Night(8)
腹部を押さえながらゆっくりと立ち上がりその場から逃げようと学園の方へと歩き出すが無理な攻撃を行なった影響か左足の痛みが強く感じる。
これで全てが終わった訳じゃない。そんなことは重々承知だ。
後方から車のエンジン音が聞こえるのだ。
私は無様にも林の中への草むらに飛び込み身を隠す。
そして地を這うように学園の敷地内へと逃げ込んだ。
口ほどにもない弱い奴だと思われるかもしれないけど、実はそうじゃない。私はまだ新の剣術を披露していはいない。いや流派を直隠しにするのには理由があった。
流派を知られると私の正体が敵にばれてしまう可能性があるからだ。「流派だけで?」と思うかもしれないけど、私の流派の場合は小宇坂くんたちつまり学園側に味方すること自体が稀なケースであるためだ。逆を言えば保安局など国家機関についている流派だからだ。
だからクライアントにもまだ言うことができていない。
もちろんスパイではないのだけれど言えてはいないのだ。
林は学園を取り囲むように続いており、大きく迂回するようなルートで逃げ切れると思っていた私の直ぐ横を銃弾が通り過ぎる。
そして爆発音と共に地面の草むらに大きなクレーターを作った。
狙撃位置を射線で追って確認する。
学園付近の五階くらいのアパートの屋上からだ。
既に見つかっていたということなの?
それなのにさっきの奴らは追いかけては来ない。
「泳がされたわ」
私は小さく呟く。
逃げて行った方角が人気のない場所だったから合えて追いかけなかったのだろう。
これで目撃者は居なくなるということになる。
徐々に近づく足音……数は三、六、七……七人だ。
黒のスーツにサングラス、典型的なボディガードのような服装をした男たちがぞろぞろと私の周囲を取り囲むように近づいて来る。
それらは全員外国人で少なくとも日本人ではない。
確実に私を殺しに来たって訳ね。学園のチャイムが下校時刻の十九時丁度をお知らせする。その時、私の中で学園に応援要請をしようかと頭の中で過ぎるが、私のプライドが決してそれを許さない。
「大人しくすれば命だけは助けてやる。命だけはな」
「私はね、誰かに言われた通りにすることが大嫌いなの」
「ならここで死ね」
全員ほぼ同時に拳銃を構える。
――――――ババババババババン!!!!
放たれた銃弾は全て私の下半身を狙ったもので周りを囲んでいる状況で味方に当てないためのものだ。
私は必ず敵同士が対角になる位置をキープし流れ弾で自滅してくれることを期待していたのだがそうはいかない。
私は急遽策を変更する。
近くの木を楯とし半数の銃弾を防ぎ正面の三発は刀で弾く。さらに木で背をガードしながら刃先を高く構え、右足で踏み込む力で切り込む。
刃先は音速を超えソニックブームが発生する。小宇坂くんと戦った時に使った小業の長距離射程版だ。
私は三連発で衝撃を放ち、男三人は衝撃波をガードするが吹き飛ばされて木に叩きつけられる。これは偶然ではなく男に衝撃波を当てる角度を調整しているからだ。衝撃波自体もかなりの威力だが防弾スーツを裂いて身体にダメージを与えるまでの鋭利さはない。
背後の四人の男たちは怯んだ三人をカバーするような動きで発砲しながらこちらに接近して来る。
私の背後の樹木は既にクレーターだらけで表面の皮が剥がれ無残な姿になりつつも守ってくれている。
直撃弾だけを刀で受け流し接近戦に持ち込む。
向こうから近づいて来てくれたおかげで走らなくても距離が詰まる。
相手がまるでタイミングを合わせたかのように同時に銃からコンバットナイフに切り替え襲い掛かってくるが私の一振りでナイフをへし折り刀のさらに腹部に一撃加える。
「一人」
私の動きは止まらないさっきの攻撃の右足を軸に九十度方角を変える。
「二人」
私は低い体勢からコンバットナイフと刺し違えるような形で男を突き上げる。勿論ナイフよりも刀の方が長いため私の顔面ギリギリまで接近したナイフとは距離が離れていく。
背後に回り込まれるような状態となるが想定通りに左足で足払いをするが捻った部分に再び激痛が走るがそれも承知でやったのだから自業自得だ。
三人目は直ぐに立ち上がろうとしている。
「三人」
この時既に四人目の振り上げたコンバットナイフを躱すが私を顔面の横を掠めてふわりと浮き上がっている髪の毛の数本を切り裂く。
振り上げたナイフでガードするよりも先に一斬加え起き上がろうとしている男の上に重ねてやる。
「四人」
これで終わりだろうか。いや違う。
さっき怯ませた三人が今度は起き上がろうとしている。だがかなり距離はある。
私は激痛が走る左足を引き摺りながら学園の敷地へ逃げ込む。そして寮の建物内へ逃げ込む。
そして一息吐く間もなく少し呆れた表情の女が玄関の下駄箱の上に座りながら真紅の左目で私を見たのだった。