End of Silent Night(7)
~Tojyo Side~
学園前駅を降りた時、私は直ぐに異変に気づいた。誰なのかは分からないが一瞬だけ複数の視線を集めたのだ。それはまるで意図的に散りばめられたような複数の場所からだ。
私はその方向を注視することなく、横目でチラチラとその方向を確認しつつもクライアントとの会話を続ける。
しかしながら誰が私を見たのかは分からない。少なくとも素人ではないだろう。駅の中では人が多すぎて見つけることはできない。
それから駅を出て学園前に差し掛かった時、背中を突き刺す怪しい視線を捉えた。私が一瞬後ろを向くと素早く隠れる動き見えた訳ではないが理解する。
「小宇坂くん、私も諸用があるから学園に寄ってから帰るわ」
私はそう嘘をついた。
そして学園の校門を潜った時、それ以外の三箇所から見張られていることに気づき血の気が引いた。
まさかこんなに見張られているなんて、小宇坂くんを取り巻く環境がここで悪化しているとは思いもしなかった。しかもその内二箇所はかなりの遠方から狙撃用のスコープで見られているような感覚で今の装備では手の討ちようがない。
私は学園の敷地内に入ると校舎の近くにある寮の影で視線を切り、その瞬間に走ろうとしたが左足の痛みにその場で立ち止まる。歩く分には問題がなかったのだが走ると少し痛みが出て足を挫きそうになる。
それでも出来る限りの早足で寮を駆け抜けて学園横の林の中に入り学園前の元来た道路に出る。
やはり尾行は居た痩せ型の男が一人、散歩中の年寄りを装っているがあれは二十代後半から三十代前半だろう。実に上手い演技だ。
尾行している奴らの丁度十メートル後ろのポジションを取ることが出来たところまでは完璧だった。
私はそのままその男を確保、または暗殺し学園へ報告する予定だった。
しかしその男はまるで示し合わせたかのようなタイミングで後ろを即座に振り向いたのだ。
私の動きを完全に読まれている……いやそうではない。
さらに私の後ろに三人の男が見える。尾行を先発と後発に分けていたとでも言うのだろか。私は自ら敵に挟み撃ちされるような場所に出てきてしまったのだ。
遠方から監視され続けていたのだろうか。てっきり小宇坂くんたちを追っているとばかり思っていたがそうではなかった。悔しくて涙が出そうになるのを堪えて私は抜刀した。
老人の格好していた痩せ型の男が十メートルの距離を一コンマ五秒で縮めてきた。
振りかざした杖の柄が割れて両刃の剣が姿を現す。
「あんた何者だ?」
その声は若い男性のものだ。そして面の皮が剥がれ素顔が露になる。
「お前たちこそ何をしている?」
「見たらわかるだろ? 散歩だよ、散歩」
痩せ型だがかなり強い力で押され拮抗する。
「杖を振り回す散歩があるとでも言うのかしら?」
「言うねぇ」
この状況でニヤニヤと笑っている。
「ふ~ん、それにしてもお嬢さん、自分に随分自身があるようだね」
嘗め回すようないやらしい視線に吐き気がする。ただこの男に言っていることも的を射ている。私は自分の腕には自身がある。
「さっさと始末してあげるわ」
そのまま刀を振りぬき相手を押しのける。
「それはこっちの台詞さ、邪魔者は早々に始末しないとな」
少し距離を取るが振り返れば背後から二人の男が襲いかかってくる。
武器はナックルだろうか、でも関係無い。私は拳を突き出すよりも早いスピードで男の胴へ一斬を加え吹き飛ばす。流石に防弾チョッキの上から切り裂くことはできなかったが、男は近くの民家の塀に打ち付けられ怯む。その男の攻撃と同時にもう一人の男がナイフを突き出したがそれを難なく避けて吹き飛んだ男の顎を蹴り上げて失神させる。
後ろから走って来る二人の攻撃を避けるため塀に寄りかかって失神している男の頭を踏み台にして塀の上に着地する。
それと同時にナイフの男がガンホルダーから拳銃を取り出し発砲するけれど私にとって亜音速の銃弾はスローモーションで飛んでくるため躱すのは容易だ。
私は高く飛び上がり杖の男の真上から攻撃を仕掛けるナイフの男は私への照準が追いつかずに銃弾は明後日の方向へ飛んでいく。
杖の男の真上から全体重を重力加速度へ乗せて杖をへし折り顔面に叩ききるつもりだったがギリギリで回避され刃先は肩を貫き大量の血液は吹き出るが、この匂いは鉄ではない。
男は瀕死の重傷を負っているはずだが私が地面へと片足で着地した後でニヤリと笑っていたのだ。
この匂いは一体何なんだ?
「――――油か!!」
その瞬間に私の腹部にかなりの衝撃が走る。私に切られてた傷を物ともせずに折れた杖の刃先で腹部を殴られたのだ。幸いにも制服はその程度では貫通しないため打撲で済んだが息をすることができない。さらに後ろからナイフの男が銃口を向けようとしている。
「遅いよ、気づくのが」
嫌らしい声で笑いながら突き刺さった私の刀の刃を抜こうとする。
「舐めるなよ」
突き刺さった刃で抉るように刃を地面と水平にねじ込み真横に一斬を加え胸部から胴体を真っ二つに切断する。
更にその勢いのまま後ろのナイフの男のわき腹へ一斬加えるが防弾チョッキに阻まれ息の根を止めることはできなかったが車道を挟んで向こう側の電信柱に激突させる。その衝撃でナイフも銃も車道に散らかっている。
その場の三人を片付ける。
私を包むのは赤い油のようなものとそれに混ざるように鉄の臭いだけだ。全身に返り血を浴びた私の制服と髪の毛は真っ赤に染まっている。
痩せ型の男は体の一部が機械でできていた。そんなイレギュラーが起こるとは誰も想定できまい。
でもそれを想定できてこそ完璧な護衛なのだろう。
「油断した私が悪いんだわ」
自分を戒めるように呟いた。