End of Silent Night(5)
東條が鞄の中から電子メモパッドを取り出して色々と説明を始める。
そんな中ふとイリスの視線を感じ、意識をそちらへ向ける。
イリスは俺ではなく俺の頼んだ苺パフェを見ていたようだ。
「食べたいのか?」
「……不思議ですね。人の物の方が良く見えます」
「なら一口食べるか?」
「いいですか? 兄さん」
「こんなに食ったら胃もたれしそうだしな」
「ほら、あ~ん」
「あ~ん」
イリスは素直に口を開けたので苺ののっている一番美味しいところを上げる。
パクリと食べたイリスはとても美味しいそうに食べるので、もう一口スプーンにとってイリスの方へ向けると口を開けたのでまた放り込む。
やばい、俺の方が楽しくなってきたしまったぞ。
一口、また一口とあげていく。雛の餌やりみたいになってしまっているがイリスにしては豊かな表情を引き出したくてまたあげてしまう。イリスもずっと口を開けるものだから俺も止まらない。
「――――まず、オフェリアさんとニルさんがこの配置で……って聞いてる小宇坂くん!!」
お互いに歯止めが利かなくなったところで東條が割って入る。
「すまん、聞いて無かった」
「ちゃんと聞いて欲しいわね、今後重要になるんだから」
「わかったよ」
東條の機嫌が悪くなったので「はいはい」と返事をする。俺に注意をして話を戻して続けようとした時だった。
「ふふ」
今度はアイリスが堪えていた笑い声を上げたのだ。
「ごめんさない、何か宗助くんとイリスちゃんを見ていたら可笑しくて」
「そんなに面白かったか?」
イリスと二人で首を傾げる。
「そういう面白いじゃないけど、何だか二人が他人だ何て思えなくて、さっきの宗助くんどう見てもお父さんだったよ」
「お父さんって」
どういう意味か捉え方によって違ってくるが、ここはポジティブに捉えよう。
「兄さんが父親ですか?」
イリスもどう返せばいいか分からないのだろう。
「イリスほっぺにクリームついてるぞ」
「?」
イリスが首を傾げたので紙ナプキンでとってやる。
「やっぱりお父さんだよね」
「確かにそうね。いつからそんな感じになったけ?」
リアもニヤニヤと茶化す気満々だ。
「お前らいい加減にしろよ。ほら東條が怒ってるぞ」
「もういいわ。この話はまた今度にするから」
東條に話を逸らすと少しため息をついてパフェを食べている。
「でも本当にイリスちゃんと出会う前はそんなに子供好きじゃなかったじゃん」
「それは否定しないが、俺自身そんなに変わったつもりはないが……」
ニルの言う通りガキなんて相手しねぇくらいの勢いがあったことは覚えている。最近キャラブレというか、俺らしくないことばっかりしているような気がしてきたぞ。
「でもいいじゃん、尖ってた宗助も今の宗助も本質的は変わってないと思うし」
「ニルの癖に難しいこと言いやがって」
「癖にって何よ」
いつも馬鹿っぽい奴だと思っていたが、今日は中々に知的なことを言いやがる。
「宗助くんって尖ってたんだ?」
「そうよ、それはそれは尖ってたんだから。どれくらいかって言うと世紀末救世主伝説とかに出てくるようなボウガン持った悪役並みにね」
「セイキマツ……ごめんなさい、何ですか?」
「そのネタはアニメ見てないとわからんだろ」
あの作品は間違いなく名作で誰でも名前くらいは聞いた事はあるだろうが、今の若者に対して一般的に通じるようなネタではない。
「そういう知識どこで仕入れて来るんだ?」
「それはソウスケの親友に聞いてみればいいんじゃない?」
親友かどうかは微妙な所だが準司のことを言っているのだろう。そういやあいつ等アニメとかの話で盛り上がっていたような気がする。
「私、宗助くんがどんな感じだったのか気になります」
「そうか、そうよね、気になるよね。それじゃあ今度ソウスケを抜いたこの五人でここに来ましょう」
「おいリア、変なこと話すんじゃねぇぞ」
「大丈夫、大丈夫」
全然信用できないが諦めるしかないだろう。
無益なお茶会を終えて店を出る。
「私はこれからダネルの調整をしないといけないからここで解散するわ」
ダネルのバレル交換を行なったのは良かったのだが使用感にイマイチ納得がいかないようで相談しに行く様だ。
「私もちょっと所要があるからここまでかな」
ニルも何とは言わなかったが用事があるようだ。
「わかった。だがあまり遅くならないようにしろよ。最近何かと事件が多いからな」
「わかってるわ。それじゃあね」
二人はそれぞれの方向へ去って行き、残った四人でアパートまで帰ることにした。