End of Silent Night(4)
学園前駅から十分程度花咲中央駅に降り、そこから徒歩五分、駅前ビルの飲食店街に行列のできている一軒の店がある。
店の看板には猫々亭と達筆な文字で書かれている
パフェとは全く無縁そうな木目を基調とした和の外観で団子とかお汁粉とかができてきそうな雰囲気である。行列が出来ていたのだが案外スムーズに進み五分くらいで席に座ることができた。
「謀ったわね、オフェリア・L・バルザック」
「なぜ、フルネームだし……」
席に座っても尚も東條は唸っている。ここまで来てしまったのだから潔く楽しめばいいのに……。
「ここって和の店っぽいけど」
「和の店だよ」
「パフェは和じゃないだろ?」
「甘いわねソウスケ、和と洋の融合だよ。あるでしょ抹茶パフェとか餡蜜パフェとかね」
「確かにそういうのもあるな」
店員がメニューを持ってきたのでパラパラと捲って見る。
「それだけじゃないけどね」
普通に苺とかマンゴーとかのパフェもあるし色々選べそうだ。
「ここに載ってるの全部三百円だからね」
ここにいるのは俺以外全員女なのでみんな目を輝かせている。勿論イリスも「おおー」と小さく声を上げて目を輝かせながらメニューを眺めている。
男と女の割合が五対一で完全にアウェーだ。俺自身、特段甘味が好きな訳ではないので「お前らだけで勝手に行ってくれ」と言ったのだが、イリスが袖を引っ張りながら「兄さん、行かないんですか?」と行きたそうに言ったので俺は今仕方なくここにいるという体であることを理解して欲しい。
「メニュー決まったら注文するわよ」
皆各々にメニューを眺めている。東條も流石に吹っ切れたのか少しだけ顔を緩ませながらメニューを眺めている。
「兄さんはどれにするんですか?」
「俺か? そうだな」
パラパラと捲ったが昼食後一時間くらい経っているせいだろうか、あんまりどれもピンと来ない。甘いものは別腹とはよく言ったものだ。普通この雰囲気でならパフェ以外に選択しは無いのだろう。だが俺はとりあえずコーヒーを飲みたくなる。
パフェとコーヒーは合わないような気がする。いやよく考えるとコーヒーパフェみたいなものも有るし案外合うのかもしれないなあ。
「それじゃあ注文するわよ」
注文の内訳は俺とアイリスは王道の苺パフェ、イリスとニルはマンゴーパフェ、東條はチョコレートパフェ、そしてリアは抹茶パフェとチョコレートパフェを頼んだ。
「リア、それは欲張りすぎだろう」
「どっちか迷ったときはどっちも取ればいいのよ」
「好きにすればいい、ただそんなに食べたら太るぞ」
その瞬間リアの表情が凍り付く。
「ソウスケ、それは女の子に行っちゃ行けない台詞十選に入っている言葉だよ。デリカシーがないと思うわ」
「そんなに怒ることはないだろ。ただ俺は心配しただけだ」
「ふ~ん、ソウスケは私の事をシンパイしたんだ」
さっきまで怒っていたかと思いきや明らかに機嫌が良くなる。全く忙しい奴だ。
店は満席状態だが十分もせずにやってくる。
「これは確かに大きいな」
それぞれ歓喜の声を上げている。メニュー表と実物には多少なりとも差異が生じるには仕方の無いことであろう。ファーストフードで例えるならば二段になっているハンバーガーとかだろうか。写真ではかなりの高さがあるように見えるが現物は重力に負けてなのか、パティが薄いのか分からないが潰れて二分の一くらいの多きさしかないように見える現象であるが、ここのパフェは写真と現物がほぼ同じなのだ。
コスパ重視なので生クリームやフルーツソースの量は少し少なく感じるがのっているアイス量が半端ではない。だがそれだけではないのだ。一番驚いたのは三百円にも係わらず生の苺四分の一カットが四個のっていたことだ。
「これで採算が取れるのか?」
「ここは定食屋さんだからそっちで取ってるんだよ。赤字とまでは行かないけど客寄せだよね」
俺のボヤキに即座にリアが反応する。
「詳しいんだな」
「何回か下見には来てるからね。ちなみにおすすめは店長直伝ソースが決めてのハンバーグ定食八百五十円!!」
「はんば~ぐ?」
イリスがハンバーグに反応する。Mの付くハンバーガー屋とか行ったりコンビニで買い物していて思ったことだが、イリスはハンバーグが好きなのかもしれない。自覚はないだろうけど……。
和やかな雰囲気でパフェを食べようとした時に東條は立ち上がる。
「注文の品が揃ったことだし、反省会と今後のフォーメーションについて話し合いましょう」
やはりニルとリアが嫌な顔をしたが、気にせずに東條は話しを続ける。
「今日の模擬戦の結果を単刀直入に言うわね。まず角谷さんとオフェリアさんは近距離戦の評価は最低だわ。特に角谷さんは基礎すらも危ういレベル、オフェリアさんは基礎だけはできているけど、本当に基礎だけって感じね」
「……」
「……」
パフェを食べながら中々の辛口コメントに二人とも黙ってしまった。
「そして小宇坂くんは近距離戦のやり方を十分理解しているし業の使い方やタイミングは分かっているようだけど、練度の低さが問題ね。剣術を始めて一年足らずでここまで成長するのは才能があると思うわ。でもイリスさんを守るのであればまだまだ不十分ね」
東條の言うことは正論で特に俺から言うことはない。自分でも分かっていた部分を他人に指摘された形だ。
「ここまで何かある人はいるかしら?」
相変わらず上から口調は変わらないが、俺から言える事は無い。
「何も無さそうなので、これからこの模擬戦の結果を活かす形で何かできないか考えましょう」