End of Silent Night(1)
新学期が始まり数日が経つ。東條羽珠明が新たに加わったことで護衛の体制も変わり、俺たちのメインの護衛としてはアイリスと交代する形で東條が入った。東條は俺たちの横の部屋に住んでいるのだが、護衛の関係上、就寝時間帯だけ俺たちの部屋で寝泊りしている。アイリスはというと護衛から外されたのだがサブ的な立ち位置として自主的に護衛役を買って出てくれている。この辺の話で東條とアイリスの間で若干にいざこざがあったようだが、それはまた別に機会に説明することとする。
話は変わるが新学期初日に模擬戦をしたいと騒いでいた東條の進言で二日目に模擬戦をする羽目になってしまった。お互いの力量を知ることで戦略を立てやすくするという東條の言い分はごもっともな話で千手院先生も直ぐに同意してくれた。
模擬戦は午後一番に行なわれた。
対戦形式は東條を固定要員として俺たちがチェンジしていく。月宮での実戦の学科順位を元に弱い順で模擬戦は行なわれた。手も足も出なかったニルとリアはとりあえず置いておくとして、開始三分も経たずに俺の出番が来る。
「角谷さんもオフェリアさんも気合が足りないんじゃない?」
余裕の表情で模造刀を振り壁際に退避した二人の方へ刃先を向ける。
「いやいや無理でしょ。あたしら近距離戦ではほぼ無力だし」
ニルが思わず苦笑いをする。
「次は小宇坂くんですね」
「ああ」
千手院先生が淡々を進めるので仕方なくフィールドに入る。もう少し相手の様子を伺えると思っていたのだが、ニルはほぼ数秒でダウンしリアは数分でダウンした。東條はあれでも手を抜いているのだろうが全く歯が立たない。
「小宇坂くん、少しは粘るのよ」
余裕の表情に少し腹が立つがここで何を言っても仕方が無いだろう。俺が倒す。
「あら? 二刀流じゃないのね?」
「どっちでもいいだろ?」
二刀流は基本的に一本では物理的に相手にできない場合、つまり複数対一の状況などで手数を増やすために使う手法であるため、一対一の場合は逆に重たくなり不利になる。
「そうね」
あまり興味無さそうに返す。どちらを選択しても結果は同じだとでも言いたいのだろうか。
もう一つ理由を挙げるならば、鳳凰流より朱雀流の方が修行期間は長いため、どちらかと言えば朱雀流の方が練度は高いはずだ。……とは言えどちらも付け焼刃な事には変わり無い。
「それでは準備はよろしいですか?」
ルール説明していなかったが、今回の模擬戦は終業式の日に行なったものと基本的には同じなので、制限時間五分、フィールドは十メートル×十メートルの正方形、ただし武器の使用制限は緩和されており、通常は指定武器を一つだけということなのだが、なるべくその人の普段のスタイルを見たいという理由から東條の提案で何個所持しても良いことしている。ただ東條自身は日本刀一本以外使わないそうだ。
ちなみに俺はソード一本でそれ以外は使わない。
両者フィールドの指定ポジションに着き、千手院先生が手を振り上げた。
「始め」
戦闘開始と同時にストップウォッチが押される。
俺はてっきり間合いを詰めてくるかと思っていたのだが、東條はその場からまだ動いていない。
「ほらほら、攻めてきなさい」
「そっちこそ来ないのか?」
「私はあなたの動きが見たいだけだから、こっちから攻めても仕方が無いでしょ?」
「なら行かせてもらう」
俺は床を思いっきり蹴り上げ走り出す。
それに合わせて東條は刀に手をかけ抜刀する体勢を取った。
あれは居合いの構えだ。だが俺の知っている構えではない。つまり朱雀流や鳳凰流の系統でないことになる。かなり構えの位置が高い。それに何か意味があるのだろうか。
「――――朱雀流攻壱型【椿】!!」
最大限まで加速した体の運動エネルギーを最後に踏み出す一歩に集中させる。その一歩とソードの振り下ろしを連動させる。
「初動としては及第点、でも甘々ね」
――――ギィィィーーーーン!!!!
刃と刃が激しく衝突し大きな金属音が鳴り響く。
その瞬間に俺の体が浮き上がり吹き飛ばされ何とか後ろのラインギリギリで着地し一発KOは間逃れる。
何て馬鹿力だ。俺の渾身の一撃を意図も簡単に防ぎ、それだけではなく体重差少なくても二十キロ近くある俺を五メートル近く飛ばしたのだ。
東條はその場で一回転しただけで一歩も動いていない。
「どうしたの? まだ試合は続いているわ」
「言われなくても!!」
同じ手は通じないだろう。だが前に出ないことには攻撃はできない。もう一度前進して攻撃を仕掛ける。
「さて次はどうするかしら?」
完全に俺のことを舐めている。
「――――朱雀流攻壱型【寒椿】二斬!!」
今度は一斬の分の時間に二斬を加えるが一斬目で大きく弾かれ後退せざるを得ない。
「小宇坂くんの剣術はまだまだ未完成、動作に無駄だらけだし、それ故に軌道を簡単に読まれてしまうわ」
そう言うだけのことはある。東條の動作には一切の無駄が無いのだ。
流石に何年も鍛錬を積んだ剣士と付け焼刃の俺とでは搦め手無しの真っ向勝負で勝ち目は無いか。
何とか着地し構え直すがもう前には出られない。
このフィールドで相手が能力を使用しないという条件の下で俺に策など無いからだ。
「そっちが攻撃して来ないなら、今度はこっちから行くわ」
余裕の表情で新しい構えを見せる。