New Semester(2)
体育館に着くと一番後ろ、教員が立っている壁際に俺たちも並ばされる。
「言っていませんでしたが、僕たち二年守護科の列はありませんので」
「一年生の時は実質一人だったのでありませんでした」
「皆さんがあの列に並びたいのであれば僕の方から生徒会に言っておきます」
「いいや、ここでいいだろう。どうせこの人数だ。邪魔にはならない」
それにここの方が始業式や朝会が終わった後に教室へ戻りやすいし暑く苦しくもないし一石二鳥だ。
司会進行は生徒会副会長が行い校長の長い話が始まるが体育館は若干ざわついているがそんなことも気にせずに話す。
もう少し静かにしろよと思ったが五学年もいればこんなものかだろうか……。月宮も思い出せばこんなんだったような気がしてくる。
校長の長話を聞き流し、次に委員会からの連絡事項に入る。
風紀委員会委員長の風間蓮、軍事委員会委員長代理の九条修一、監査委員会委員長兼生徒会長の椎名あかねの三人が登壇する。
風間がマイクの前に立つとざわついていた体育館が一瞬で静寂に包まれる。
「風紀委員会の風間だ。新学期ということで全学科合わせて三百三十七人の新入生を迎えている訳だが、この学園の特殊性を十分に理解した上で学園生活を送って貰いたい。特に一般科への生徒はトラブルに巻き込まれないよう注意すること、以上だ」
きつめの口調で話を終えると元の場所へと戻る。
次は軍事委員会の九条だ。
「軍事委員会委員長代理の九条だ。俺の方からは先日発生した連続傷害事件についてだ。3月の頭から計十二回に渡り連続で発生しているこの事件だが、うちに生徒も数人被害が出ているが今のところ負傷したものはいない。犯人についてはまだ逃走中であるため登下校及び外出の際は注意すること。また事件に巻き込まれた際は緊急用の通信回線を使用し学園側に即座に知らせること、俺からは以上だ」
俺たちも被害にあった事件についてだが、軽い説明と注意喚起だけに終わっているところを見ると解決の糸口はまだ見つかっていないようだ。
ちなみに緊急用の回線というのは生徒一人一人に貸与されている端末から理事会及び生徒会に直通でかけることができる回線のことだ。
実際に遭遇した場合には俺たち数人でも全く歯が立たないような相手だ。普通の生徒が遭遇した場合に対処はほぼ不可能だ。従って注意喚起というのは行なったという実績を残すためのパフォーマンスということになる。
最後に椎名会長がマイクの前に立つ。
「生徒会長の椎名です。今年度は新入生三百三十七人を向かえ計千六百三十人となりました。この学園の性質上、危険が伴う任務に係わる場面も多くあるとはお思います。昨年度は怪我による長期休業者を1名出してしまいましたが、今年度は全員で進級できるよう細心の注意を払って学園生活を楽しんで頂ければと思います。また軍事委員会からありました件につきましては現在生徒会でも調査を行なっています。続報については随時校内新聞にて伝えていく方針です。以上、生徒会からの連絡でした」
三人が降壇すると体育館は再び話し声でざわつく。
他にも新任教師の紹介などの紹介もあったのだが千住院先生が登壇する動きはない。ずっと俺たちの横に立っている。
「先生は新任じゃないんですか?」
ニルが質問する。
「いいえ、新任ですよ」
ニルが首を傾げる。
「僕は新任ですが守護科なので全体には周知しないんです」
「守護科だけですか?」
「はい、守護科は特殊であるため入れ替わりも激しく、わざわざ紹介しないのが慣例です」
俺たちがあまり守護科について知らなかったのは新任でも紹介されなかったからのようだ。千手院先生には月宮時代には一度も廊下ですれ違ったことさえない。あの場所で出会ったのが初めてだ。
俺は改めて先生を見る。この姿で壇上に上がったら変に注目を浴びるだろうし紹介しない方が良いだろう。だって巫女服に変な仮面を被っているロリババアというあらゆる要素が詰め込まれている。それに今気づいたが左手薬指の指輪をはめているので既婚者だ。
「小宇坂くん、今失礼なことを考えましたね」
「考えてねぇよ」
何だコイツ、急に心を読んできやがった。
少し慌てて返したが千手院先生は「僕にはわります」とは言わないがそんな雰囲気だ。
朝礼が終わると一番に体育館を出て大講堂へ戻る。
全員席に着くとホワイトボードの文字を千手院先生が消す。
仲間外れみたい雰囲気が嫌だったのかニルは窓際一番後ろからイリスの横に移動する。
「今日はここまでになります。明日からは通常通りのカリキュラムで授業を進めますので準備をお願いします。連絡事項ですが、小宇坂くんはこの後僕の教員室まで来てください。以上です」
千手院先生が話し終えるとリアが「何かしたの?」と突いてくるので適当にあしらう。
イリスは俺に着いて来ることが前提のようなので、それ以外の三人には先に帰ってもらうことにした。
「それじゃあ、今日は午後からみんなでどっか行くから終わったらLINEしてね」
「ああ、わかったよ」
東條はあまり馴染めていないのか「お先に失礼するわ」と言って早々に帰ってしまった。
俺は千手院先生と共に教員室へと向かう。