EPILOGUE02
~Somewhere in France~
ここはフランスのノルマンディー地方にある豪邸の一室、豪勢でレトロな家具で統一されており、まるでそこだけ中世にタイムスリップしたかのような風情ある空間となっている。その部屋には中年の男が一人、野球場の一つや二つがポンと建ちそうな広さの庭を窓際から見つめていた。庭先から吹く潮風がカーテンを揺らす。
そのゆったりとした時間を打ち消すかのように室内に鳴り響く古めかしい黒電話の受話器を男はゆっくりと取る。
「侯爵殿であられますか?」
「バトラーか?」
電話の相手は少し老いた執事のようだ。
「はい、例の件、調査チームから報告で進展がございました」
「報告しろ」
男はやや強い口調で命令する。
「はい、まず事故調査委員会からの情報と独自に調査した結果が全く異なっておりまして――」
どうやら事故とやらは独自調査の結果、自然災害的に発生したのではなく人為的に引き起こされた可能性が浮上したようだ。
「人為的だと? 事故調査委員会が虚偽の発表をしているとでも言うのか?」
「こちらで掴んだ情報も暫定的なものである以上、何とも申し上げ難いですが、その可能性も十分にございます」
「なるほど、それで?」
「それとアンジェ様の当日の動向を探っておりましたら、残っていた監視カメラの映像から、最後に確認できたのが近辺にありますショッピングモールの駐車場であることがわかりまして――」
「――何!? アンジェは社宅で被災したのではないのか?」
社宅は事故現場から一キロと離れていない場所にあるため実質的に遺体を捜しているようなものだったが、被災場所がショッピングモールともなれば生存確率で言えば話は全く異なるであろう。
「はい、どうやら当日は外出をなされていたそうです」
「つまり今までの調査は全くの的外れだったと言うことになるのか……」
「はい、申し上げ難いですが、その通りでございます。社宅付近の捜索では見つかるはずもありません。そのショッピングモールの被害状況でございますが、……建物自体被災当時は半壊しておりまして、現在では完全に取り壊されており、空き地となっております」
「それで救助者名簿は確認したのか?」
「はい、しかしどの病院にも搬送されておりませんでした」
「そうか、それでは今回もそこまでの進展はなしか……」
「いいえ、侯爵殿、話はこれからでございます」
「名簿の在り処を辿っていくとフランス政府の内部文書に至り、そこから驚くべきことが分かりまして、簡潔に説明致しますと――」
簡潔に説明するとフランス政府が持っている内部文章を秘密裏に入手した所によれば、災害支援として日本に本社を構える民間軍事会社(PMC)であるLEGENDのフランス支部が救助活動を行なったようで、その時に収容し切れなかった被災者を分散して自前の医療施設へと収容したようだ。その時の救助活動及び施設利用の見返りとして能力者として覚醒する予兆のある被災者、つまりエクステリアを日本にある本部へ送り治療と言う名の検査を行なうことで政府と合意したそうだ。なお完治及び検査の終了に伴い母国へと帰還させているそうだが、何せ能力関連のことは絡んでいることもあり、フランス政府側としては事実上行方不明という扱いにしているようだ。
「何ということだ!! まさかその中にアンジェが居たと言うのか?」
「はい、アンジェ・アトランティカ、この名前が名簿に載っておりました」
「どこに収容されたのかわかるのか?」
「詳細な場所までは特定できておりませんが、日本の北海道に美咲市という町であることまではわかっております」
「わかった。直ぐに私も現地へ向かう、飛行機を用意しろ!!」
「承知いたしました。……なんですと?」
「――――どうした!?」
突如執事が変な声を上げる。
「侯爵殿、今入ってきた情報によるとフランス政府がこれとは別にあの事件の目撃者を探し聞き取り調査を行なっているようです。そしてその聞き取り調査でアンジェ様を発見したとの情報が入りまして……」
聞き取り調査とは聞こえがいいが実際にはどこまで事件について知っているか聞き取りを行い、知ってはいけない秘密を知っていた場合に記憶の改ざん及び暗殺し事件を隠蔽しようとしていることを指している。
「ま、まさか」
「いいえ、まだ大丈夫でございます。しかし調査員が少し荒っぽいようで『暗殺に失敗』と言う報告が上がっています。早くしなければ手遅れになりますぞ!!」
「わかっている。父上は今家にいるのか?」
「はい、丁度ティータイムで中庭にいるかと……」
「わかった。バトラーは直ちに調査班の再編成とボディガードを手配しろ!!」
「畏まりました。準備が整い次第ご連絡させていただきます」
「ああ、まかせた」
男は真剣な表情で相槌をうち数分の内に受話器を置いた。
「――――――――遂に見つかったぞ!!!!」
その瞬間に歓喜の表情に変わり大声で叫び部屋に飾ってあるお見合いの写真が入っている写真立てにキスをする。
「喜んでばかりはいられない。政府の行動を止なればアンジェは殺されてしまう。早く父上にお願いせねば」
我が家は政府と内密の繋がっており、父上が提言すればそれを無碍にすることはできまい。アンジェは私の婚約者なのだから、リストから外すことくらいは容易なはずだ。
「待っていてくれ、アンジェ、必ず私が向かえに行くから!!」
フランス政府に怒りを覚えつつも男は身支度を始めたのだった。