Overlooking The Night View(1)
二人になって後でもう一度リアの言葉がフラッシュバックする。『一発決める』ってどういう意味だよとか思いつつ、まず手を繋ぐところから始めなければならないがさてどうするか……。
「アイリス」
「何、宗助くん?」
「少しよ寄り道して行かないか?」
「うん、いいよ」
そして俺たちは少し遠回りをする。
「そうだ、帰り際でリアさんが何か宗助くんに何か言ってたけど、何の話してたの?」
「ん? ああ、そんな大したことじゃない」
「今、何か誤魔化したでしょ?」
これは流石に分かりやす過ぎただろうか、だが何か適当なことが思いつくわけでもないし……。
「誤魔化してない。今日はリアとどんな店回ってたんだ?」
「あー、話し変えた!! まあ、いいけど。基本的に服と雑貨屋かな、ここお店の数が多いから全部見て回るにのに時間かかっちゃった」
「全部か、女子って凄いな」
「今日は全部回ったけど、普段はそんなに回らないよ」
「どうせリアが暴走したんだろ?」
「暴走って言い方はどうかと思うけど、リアさん久しぶりの買い物でテンションが上がっちゃったみたい」
「ガキみたいだな」
「男の子はあんまりショッピングには時間かけないのかな?」
「どうだろう。俺は買うものを決めてから出かけるから店に入ってからそこまで時間はかからないかな。リアに随分振り回されたみたいだけど、大丈夫だったか?」
「それは大丈夫だよ。私もリアさんとたくさんお話が出来て良かったよ」
「そりゃ良かった」
「宗助くんとイリスちゃんを途中で置いて行っちゃってごめんね」
何だ、そんなこと気にしていたのか。
「別にどうってことはないよ」
ショッピングモールを出て公園内をゆっくり進むと噴水のある広場まだ辿り着く。ここはほんの数日前に謎の軍服の女と一戦交えた場所だ。そんな嫌な思い出を蘇らせるように立ち入り制限されているエリアがある。あの時の記憶だと警察沙汰にはならなかったはずだが、生徒会へ報告したことによって特警が動いたのだろうか。
ただ噴水へのアクセスは可能でまだ寒い中で多くの人々で賑わっている。
俺たちもその中に混じる。
「ここの噴水って冬でも温水が流れていてライトアップされてるんだよ」
「だから凍ってないのか」
「でもね、とても寒い日にはそれでも凍っちゃうこともあるんだって」
そしてその凍っている噴水を見ると幸運が訪れるらしい。氷点下かなり下回れば温水だろうと凍るのは当然だ。だがそういった日は一年でも数日有るか無いかだろう。ようは確立が低いが故にそんな噂が流れているようだ……などと捻くれている俺はそう考えてしまうが、アイリスの表情を見て俺は思っていたことをゴミ箱に捨てる。
「アイリスはみたことあるのか?」
「ないけど、一度くらいは見てみたね」
「そうだな、じゃあ今度は寒い日に出かけようか?」
「うん」
とは言えもう直ぐ四月になる。この約束は今年の冬まで持ち越しだ。それまでアイリスが覚えてくれていることを願おう。
公園を照らしているLED照明が水面に反射する。よく水面を覗くと硬貨が所々に沈んでいる。
「いっぱいお金が落ちてるね」
「何かご利益でもあるのかね」
「どうなんだろう?」
何となくだが俺たちも他のカップルに習って硬貨を投げ入れてみた。硬貨はポチャンと惚けたような音と共に水の中に沈んだ。
「これでいいことがあるといいね」
「そうだな……」
それから一拍置いて俺は勝負に出ることにした。
「なあ、アイリス」
「何? 宗助くん」
「あのタワーに上ってみないか?」
俺が指差すのはショッピングモールに隣接している電波塔、正確には電波党だったものだ。アナログ放送終了と共に役目を終え現在は観光スポットだ。ちなみに美咲タワーとさっきから言っているが正式名称は美咲第一鉄塔と言うらしい。高さは三百メートルで東京タワーに一歩及ばないが札幌のテレビ塔には圧勝している。その外観は無骨ながらも様々な色のLEDでライトアップされており、真っ暗な夜空に浮き出るように輝いている。
「いいよ。私も一度は行って見たかったんだ」
「そうか、じゃあ行こうか」
タワーの近くまで行って気づいたことだがかなりの列になっており展望台は入場制限がかかっている。
料金は一人当たり大人七百円、子供三百円、だがちょっと待って欲しい。期間限定でカップル料金を設定しているようだ。二人で千円と普通に入るより一人当たり二百円安い。
俺の中で数秒考え、あることを思いつく。
これだ、これならいけるかもしれない……。
ならば後は実行あるのみだ。