The Assassin from The Past(8)
少しして駅の方から大きいゴルフバッグみたいなのを背負ってやって来るのはリアだ。
「ヤッホー、ソウスケ、それにアイリスさんとイリスちゃん」
「ヤッホーじゃねぇよ。何でいるんだよ?」
「それは私のダネルちゃんを取りに来たからよ」
「そういうことを言ってんじゃねぇよ」
「ああ、何で屋上に居たかってことだね」
意味理解してるんじゃねぇか。
「それは偶々見かけたから、そっと見守ることにしたからよ」
「覗きは良くない、リアの悪い癖だぞ」
リアは狙撃手という立場上そういったミッションも請け負うことが多い。それにより覗きみたいな行為が常習化しているのだ。
「はいはい、今度から気をつけるから」
気をつける気を感じない全く誠意は伝わらない返事だった。
俺は呆れつつ追及することをやめた。
それからやって来た特警の警備部の人に色々と事情聴取されかなり時間がかかってしまい開放されたのは昼過ぎのことだった。
とりあえず昼食をどこか適当なところで済ませようとファミレスに入る。リアも帰る様子はなく一緒に着いて来る。
俺が帰れと目で合図したがその意図に気づかずにウィンクで返してきた。
仕方なく四人で昼食を摂った後に鍛冶屋へと向かう……とは言ってもすぐに近くのビルの地下にある。俺たちは目的地の目と鼻の先でゴール目の前で事件に巻き込まれたことになる。ゴールまで長い道のりだった。
モデルショップタケウチにてレフトソードを回収する。納期を改めて聞いたが半月かかることには変わりないそうだ。
数日だったがフルでパフォーマンスを発揮できない状態が続いたがこれで一安心だ……、とは言っても問題自体は何も解決していないどころか増える一方なのだが……。
「ねぇねぇ、時間まだあるしどっか遊びに行こうよ」
ほんの数時間前の出来事を忘れたのかと言ってやりたい気持ちだが、このまま帰るのも勿体無い。寧ろこの後にアイリスとデート(保護者同伴)することが主の目的だったというのに人生とは中々上手くいなかいものだ。
リアに先導されて数日前に言った美咲タワーに隣接するショッピングモールに行くことになった。男はそう何回も見て回るものが無いが、女は何回同じ店に行っても楽しめるようで、リアとのデートを復習しているかのようだったが二人が楽しそうならそれでいいかなと思いながら少し遠目で眺める。俺の隣にべったりくっついているのはイリスだ。
「兄さん、退屈ですか?」
そんな俺の姿を見て気になったのだろうか。
二人はおしゃれな小物が売っている小洒落た店で小物を見て回っている。俺は店の外の方で適当に商品を見ながら時間を潰している。
「いいや、そんなことはない。イリスこそ俺と一緒じゃなくて二人に混ざってくればいいのに」
「私は兄さんと一緒でいいです。混ざっても会話になりませんから……」
その時のイリスはどこか悲しそうに見えて、俺は「そうか」とだけ返した。
それからも二人の勢いは留まる事知らない。服を見て回るだけで早二時間、ちょっと歩きが遅くなったイリスを見越して俺たちだけフードコートの近くのベンチで休むことにした。何となく前回買えなかったバナナ焼きを片手にぼんやりと過ぎ行く人々を眺めた。
「私は問題ありせんでした、兄さん」
バナナ焼きが大きすぎて一口でかぶりつけずに何回にも分けてはむはむと食べているイリスが言う。
「そうか? 俺はちょっと疲れたけど」
「……そうですか」
イリスも俺もそうだがフル装備で歩いているので常に十キロ相当の錘を担いでいることと同じなのだ。リアが例外か、Denelは本体だけで十キロオーバー、弾層とケースを合わせると二十キロ以上はするだろうに、軽々と持ち歩いているあたり常人ではない。少なくとも同じことは俺にはできない。
「イリスはカスタードが好きなのか?」
会話がなくなったので適当に話題を振る。
「私は兄さんと同じにしただけです。兄さん、餡は嫌いですか?」
「いいや別に嫌いじゃないよ、今日はカスタードが食いたかっただけだ」
「そうですか」
「イリスも別に俺に合わせる必要なんてないんだからな、何でもそうだけど。自分の好きなもの選べばいいだぜ」
「兄さんは勘違いしています。私は兄さんと同じが良かったんです。理由はわかりませんが……」
顔を見られたくなかったのか少しだけ俯いた。
何かあったわけじゃないけどイリスの頭を優しく撫でた。
「兄さん?」
疑問系で呟いたけど嫌がる様子はなく、しばらく撫でていると二人が戻って来る。
「ごめんねぇ~、二人共」
全く謝る気のないリアと申し訳なさそうなアイリスは買い物をしたようで袋を抱えている。
「何だその量は?」
アイリスはともかくリアは五個くらい大きな袋を抱えている。
「いや~、手切れ金みたいなの入ったじゃん。それでちょっと調子に乗っちゃった」
「『調子に乗っちゃった』じゃねぇよ。どう見ても買い過ぎだ。どうやって持って帰る気だ?」
「それなら大丈夫、ニル呼んだから」
「抜け目ないな」
ニルは足として使われていることに気づいているのだろうか。正直言ってあいつはバカだから少し心配だ。
「みんなも乗ってく?」
「まるで自分の車みたいな言い方だな。……あの車四人乗りだろ? なら無理だな」
「スポーツカーは狭いからね」
「アイリスだけでも乗って行けばいいんじゃないか?」
「私はいいよ、宗助くんを一人で帰らせる訳には行かないし、それよりイリスちゃんを乗せて上げてよ」
俺がイリスに声をかけようとした時、アイリスが唇に人差指を当てるようなしぐさをする。
「……スゥ――スゥ――……」
横から寝息が聞こえる。
俺の隣でさっきからもたれ掛かっているイリスが妙に静かだと思っていたがどうやら寝てしまったようだ。
今日は戦闘になりその後でずっと歩きまわったから疲れたのだろう。
「じゃあイリスを乗せてく?」
「そうさせてもらうおうか、ただ護衛の俺たちが居ないのもどうかと思ったが……」
「私が居るから何とかなるでしょ、まあ何かあったら連絡するから専用チャンネルをオンラインにしておいてね」
「まかせた」
それから直ぐにリアと回収しに来たニルのTOYOTA86が到着する。
それにしても荒い運転だ。遠くからでもよく分かる。
「おひさ~、宗助、それにアイリスさん」
「冬道なんだから少しは運転気をつけろよ」
「大丈夫、大丈夫、私はプロだからね」
こいつプロの意味分かってなさそうだけど、あえてそこは言わないであげることとした。
リアが荷物を後部座席に置いてイリスを優しく抱きかかえる。
イリスはポジションを決めるためにゴニョゴニョと動く。起きてしまうかと思ったがそのままリアの腕の中で寝ている。
「それじゃあ私たちはお先に失礼するわね」
「安全運転でな」
「言われなくとも!!」
ニルがガッツポーズをする。
リアが車のドアを閉めてウィンドウを全開にする。
そして車から離れようとする俺の襟首を突かんで引き寄せた。急なリアの行動に驚く。
「二人っきりのチャンス作ってあげたんだから、男なら一発決めちゃいなさい♪」
俺の耳元でアイリスに聞こえないくらいの声量で囁く。
「は? 何言って――」
「それじゃあまた後で合流しましょう」
リアが俺を突き離して間もなく車は走り出し角を曲がって姿を消した。